新たな家族
「・・・・・」
コンは部屋の隅で小さくなっている。まるで拾われてきた子猫のようだ。
「連れてきたはいいが、どうしたものか」
悟は腕を組みながら悩んでいた。
「私いってみる」
雫がコンの元へ行き話しかけた。
「コンちゃん。大丈夫?」
「・・・・」
コンは小さくうなずいた。
「悟さんと話せる?」
「・・・・」
再びコンは小さくうなずいた。
そこで悟もコンに近づき、しゃがみこんで頭の高さを同じにした。
「やぁ俺は神山悟。雫の保護をしてるんだ。よろしくな」
「・・・・・はい」
小さい声でコンは答えた。
「君のことも俺は知りたい。まずはフードを取ってくれないかな?」
「・・・・・はい」
そう答えると、コンは深くかぶっていたフードを取った。
フードの下にはふわふわの髪に大きな瞳、そして猫耳だった。
「なるほどな。かわいいじゃないか」
純粋にそう思った悟は優しく笑いかけながら言った。
「そ、そんなことないです」
顔を赤らめてコンは言った。その素振りも実にかわいらしい。
「尻尾もあるのか?」
「・・・はい」
恥ずかしそうに答えると、コンの背後から長い尻尾が出てきた。
だぼだぼのパーカーを着ているのはおそらく尻尾と耳を隠すためのものだろう。
「ずっとあの商店街にいたのか?」
「・・・・はい」
「全然気が付かなかったな、今まで誰にも見つからないように隠れていたのか?」
「・・・・ちょっと違います」
「どういう事だ?」
「・・・わ、私は最初、普通の猫だったんです」
「なに?」
最近相川や日向から魔族について聞いて勉強している悟だったが、このコンの事例は初めて聞くものだったので普通に驚いた。
「そ、それって・・」
「ああ、そのパターンですか」
「うおっ相川?」
悟の言葉を遮ってきたのはその場にいないはずの相川だった。
「どうも、神出鬼没の美少女の相川薫です」
「全くだよ、急に出てくるな・・・・って何だその顔は?ツッコミを待ってるのか?」
おそらく「自分で美少女とか言うな!」とかいうツッコミを待っているのだろう。視線を悟に向けじれったそうな表情を相川はしていた。
「お前のせいでコンちゃんが驚いちゃっただろ」
悟の言う通りコンは何も無い所からの相川の登場に驚き、毛を逆立てている。
「ごめんなさい。コンちゃん。私は神山君の友達の相川薫です」
そう言って相川はコンの頭を撫で始めた。
すると雫は落ち着いたのか、逆立ってツンツンしていた髪が先ほどのフワフワした髪に戻っていった。
「何か慣れてるな」
「まぁ家でも猫を飼ってるから」
「なるほど」
悟はただ素直に感心してしまった。
「それで、そのパターンって言うのは?」
悟は話を戻した。
「魔族には二種類あるの。最初から、魔族として生まれてくるパターンと後天的に魔族に生まれ変わるパターン」
「そんなのがあったのか」
「滅多にないんだけどね」
そう言うと相川はコンの方に向き直って訊いた。
「何かあったの?」
「・・・・お、お母さんが死にました。・・・それで寂しくて」
今にも泣きそうな顔でコンは言った。
「なるほど」
「どういうことだ?」
「魔族化って言うのは寂しいや悲しいなどの負の感情によって起こるの。本当に稀なんだけどね」
それを聞いて悟は思った。コンは寂しさを紛らわすために魔族となり人間に近い存在となった。それは稀な魔族化を引き起こすほどの強い寂しさと言う負の感情であったはずなのだ。しかし彼女は人間にひどく怯えていた。そして自分を魔族と理解し、人間に会ってはいけないのだと言っていた。もしかすると彼女は人間に嫌な思い出があるのかもしれない。コンの姿を見てびっくりしない人間はまずいないだろう。『悪魔』『化物』などと言う罵声を浴びたこともあるだろう。もしかしたら暴力などもあったかもしれない。寂しさをなくすための魔族化でより寂しくなってしまったのではないか。
だったら、コンを救ってあげたい悟はそう思った。
「寂しかったのか・・・だがもう大丈夫だ。俺が、俺らが君と一緒に過ごすよ。もう寂しい思い何てさせない」
悟は優しく微笑みながらコンの頭を撫でて言った。
「・・・・」
しばらく黙っていたコンだったが、すぐにその眼からは大粒の涙が落っこちてきた。
「本当に神山君はお人好しね」
「ありがとう」
「そういう所が好きですが」
「え?何て?」
「なんでもない」
目を逸らして相川は言った。
「コンちゃん一緒にいれるの?」
うれしそうに雫が飛び込んできた。
「・・・・本当にいいんですか?」
「ああ、もちろん」
コンの問いにはっきりと悟は答えた。
「やった~コンちゃん!!」
雫がコンに抱きついた。コンも苦しそうにしながらも嬉しそうに抱きしめ返した。
普通の家なら家族が増えることに抵抗があるだろう。だが、ここ神山家ではそのような常識が通じない。雫に時もそうだったがあっさり了承はでるだろう。
こうしてコンという猫耳と尻尾を持った女の子が家族の一員になった。




