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思いのほか良い日だった

 翌日の朝、昨日の疲れもあって悟と雫は死んだように眠っていた。

「起きて」

「友香~・・・もうちょっと寝させてくれ・・・」

 悟はもう一眠りしようと顔が埋まるくらいまで布団を持ち上げて言った。

「私は妹さんじゃないよ」

「え?」

 悟は重い瞼を開いて声の主を見た。

「はぁぁぁぁ~!!相川!?」

 そこにいた人物は相川だった。

 思いのよらない人物がいたので驚いて悟は飛び起きた。

「おはよう」

「ああ、おはよう・・・じゃあねえよ!何でいるんだよ!?」

「私を誰だと思ってるの?」

「そうか、能力か・・・」

「いえ、普通に玄関から」

「なんだよ!」

 実に思わせぶりな態度で相川は言ってきたので悟は完全に騙されてしまった。

「いや~悟もやるわね」

 ドアのところで微笑みながら母が覗きこんでいた。

「お前・・・何て言って家に入ってきた?」

「悟君のお嫁さんって言ったけど」

「はぁぁぁぁぁ!?」

「あなた早く起きて」

「やめろぉぉぉぉぉ!そういうの信じちゃう人だから!」

 完全に相川のペースだ。

「それにお前は全部真顔だから本気なのか冗談なのか分かんないんだよ」

「何言ってるの?冗談に決まってるでしょ・・・」

「おい、なぜ目を逸らす?本気か?本気だったのか?・・・・え、マジ?」

 相川が視線を斜め上にずらしたことで、本気で自分のお嫁になろうとしてるんじゃないかと思ってしまい、悟は動揺した。

「そんな事は置いといて支度して。皆待ってる」

「そんなことって・・・」

 サラッと軽く話題を変えられてしまったことに呆れながら悟は言った。

「雫ちゃんは?」

「ああ、まだ寝てる」

 雫は悟の横でまだぐっすり眠っている。

「一緒のベッドで寝るなんて・・・・」

「どうした?」

「神山君はロリコンの変態ね」

「なんだとぉ!?」

 聞き捨てならない言葉に悟は声を荒げた。

「言っておくが、これは雫の希望だ。最初は友香の部屋で寝かせてたのに俺のベッドに潜り込んでくるんだ」

「まぁそう言うことにしておく」

「ぐ・・・信じられてない」

 悲しみながら悟はベッドから出て着替えを始めようとした。

「準備するからリビングで待っててくれ」

「手伝いますよ。あなた」

「いつまでやってるんだ!その遊び」

 ようやく相川が部屋を出て行った時には悟はへとへとに疲れていた。

「雫起きろ」

 着替え終わった悟は未だに眠っている雫の頬をツンツン突いた。

「・・・ん?」

「相川が迎えに来てる。準備して」

「・・・うん」

 まだ眠たそうな雫は目をこすりながらゆっくり体を起こした。

「お待たせ・・・ん?」

 悟はテーブルの上に置かれた食事に気付いて疑問の声を上げた。

「作っておきましたよ。あなた」

「まだやってるのか」

 エプロン姿の相川に呆れながらため息をついた。

 母は未だに遠くの方で嬉しそうに微笑みながら悟たちの様子を見ている。

「いらないなら良いけど?」

「いります。ありがとうございます」

 皿を取り上げようとした相川を止めて、素直にお礼を言い、食事をとることにした。


 食事もとり終わり悟たちは学校に出発することになった。

「では行くよ」

 悟と雫の手を握って相川は言った。

「ああ」

「うん」

 悟と雫が返事した所で三人は相川の力で学校に瞬間移動した。

「やぁ来たね」

 悟たちを確認して日向が言った。

 今日は教室の机を対面するように並べて会議できるような形になっている。

「おはようございます。遅くなってすみません」

「いいんだ。ゆっくり休めたか?」

「はい。おかげさまで」

「薫にいじられなかったか?」

「・・・ちょっと」

「ハハハ、その様子じゃちょっとじゃなかったな」

 日向にはなんでもお見通しのようだった。

「何かあったんですか?」

「何でもないよ」

 雫が心配そうな声で訊いてきたが、安心させるように笑顔で悟は答えた。

「よし、じゃあみんな座って」

 日向が声をかけると一人で本を読んでいた月やお茶を注いでいたシノが席に着き始めた。

「それでは話し合いを始めるよ。まず悟君たちには敵について知ってもらいたい」

「雫のことを狙う魔族じゃないんですか?」

「そうなんだが、じゃあどのくらいの魔族が雫ちゃんを狙ってると思う?」

 考えたが悟には見当がつかなかった。

「この世界には人間と魔族がいるが人間の方が圧倒的に多く、比率的には八対二位だ」

「そんなに差があるんですか?」

「ああ、しかもその中で雫ちゃんを殺せるような能力を持ってるのはごく一部だ」

「じゃあ、もしかして俺が思っているより敵は少ないかもしれないんですか?」

「そういうことになる」

 これを聞いて悟は少し安堵した。

「あと出かけるときは人の多い所にしてくれ」

「どういう事ですか?」

「魔族は長年、正体を隠して人間に溶け込んできたんだ。わざわざ正体を明かして、さらに人間の前で人を殺すなんて言うマネはしないだろう。風間の創る異空間は魔族が惜しみなく能力を使うために創られたのだろう」

「なるほど」

「だから、人が多い学校や商店街なら雫ちゃんでも出歩いても大丈夫ってことだ。まぁ、警戒は十分にしてもらわないといけないけどね」

 日向の言葉に悟と雫は笑顔になった。

「本当ですか!?良かったな雫!」

「うん!」

「だからと言ってずっと出てられるのも困るからね」

「はい。分かってます」

「良い子だ」

 雫は自分の置かれている立場を十二分に理解しているように思える。

「でも・・・そこまで自由にさせて・・・本当に大丈夫?」

 月がボソボソと日向に疑問をぶつけた。顔を俯かせたままなので表情は窺えない。

「何でそういうこと言っちゃうかな?せっかく安心させて生活させてあげようと思ったのに」

「・・・でも」

「まぁ確かにそうだね、君の勘は鋭いからね・・・」

 そう言うと日向は考える素振りをして、しばらく唸った。

「よし、良いだろう。雫ちゃんに俺の結界を張ろう」

「え?大丈夫?・・・かなり疲れるんじゃ」

「ああ、まだまだ余裕だ。それに雫ちゃんを守るためだ。背に腹は代えられない」

 優しく微笑みながら日向は言った。

「本当に良いんですか?」

「ああ、その代わり出かけたい時以外は学校にいるんだ。そして出かける先は必ず伝えること。いいね?」

「はい」

 要するに平日は悟と一緒に学校へ来て、行きたい場所があるときは行き先を伝える。そして行き先は人の多い所に限る。しかも、万が一外で襲われそうになっても結界があるから問題ない。という簡単なものだ。雫でも十分理解できる内容だろう。

「何か質問は有るか?」

 日向が問う。

「敵はどんな能力を持ってるんでしょうか?」

「はっきり言って能力は無限にある。だから特定はできない。だがどんな能力で襲ってきても俺の結界は破れないよ」

 自信満々の表情で日向は言った。

 この人たちの事なら信じれる悟はそんな気がした。

「雫、大丈夫か?」

「うん。私も日向さんたちを信じます」

 笑顔で雫は言った。

「本当に良い子だ。では話はこれで終わりだよ」


 話は思っていたよりも早く終わり悟と雫は帰路についていた。

「ここが商店街だ」

 外に出歩けるようになった雫に商店街などの人の多い所を案内しているのだ。

 学校からも近いし、いつでも人が多く活気のある商店街だ。

「良い所です」

「だろ?」

 今日はいい日になった。雫のこんな笑顔は久しく見てなかった気がする。

「明日から一人で行動できるけど、十分注意するんだぞ!知らない人について行ったりするなよ」

 言動が不思議と雫の親のようになってしまっている。

「大丈夫です」

 雫の言葉には自信が見えた。

「「今日は本当に良い日だった」」

「「!!」」

 悟と雫の声がそろい、驚いて二人は顔を見合わせた。そして笑った。

 商店街から二人は笑顔で手をつないで家に帰った。

 今日は本当に良かった。危険が去ったわけでもない。むしろこれからが本番だというのにこんな気持ちになれているのは日向たちのおかげだ。

 雫を守るといって家に閉じ込めておくのは違うと悟は思っていた。雫にストレスを与えず、守り、そして世界も守る。悟の考えが現実になるのに一歩近づいたのだった。


「ただいま~」

「おにぃちゃん!!」

 悟が帰宅すると友香が走ってきて叫んだ。

「な、なんだ?」

「朝の女の人とはどういう関係!?」

 女の人とは相川の事だろう。

「どういうって・・・友達だよ」

「嘘よ!お母さんはお嫁さんって・・・」

「はぁぁぁぁ!?」

 そういえば母の誤解を解く前に学校に向かってしまっていた。

「ちゃんと説明するから全員集合!!」

 悟はやけくそになって叫んだ。

 その後、誤解を完全に解き、自分の部屋に帰されるまでに三時間以上かかってしまった。

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