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第五話「続きができた」

第五話「続きができた」


-------------


「できました。」

私がそう言ったのは、ある朝のことだった。


阿部が最後の確認を終えた夜から、一休みもしていなかった。


稲葉が実装を仕上げた。

久世が記録をまとめた。

私が全体を確認した。

そして、朝になった。


「できました。」

もう一度言った。


自分の声が、少し震えていた。


全員が集まった。

からくり箱の前に立った。

田中殿が文字打ち板を操作した。


画面に、文字が現れた。

「黄泉ネット、始動。」

作業場が静かになった。


誰も何も言わなかった。

阿部が眼鏡を外した。

稲葉が両手を握りしめた。

久世が記録帳を胸に抱えた。

私は画面を見たまま、動けなかった。


下界で途中で終わった仕事が、ここで続きができた。

その言葉が、頭の中で静かに繰り返された。


-------------


198X年8月12日。

あの日、私たちはあと少しのところで終わった。

あと少しだった。

その続きが、今、ここで。

黄泉の国で。


画面の中で、文字が静かに光っていた。


しばらくして。

忠清殿が私のもとへ来た。

「堀田殿。」


「はい。」


忠清殿はしばらく、画面を見ていた。


そして静かに言った。

「よくやり遂げた。」


私は何も言えなかった。

「一年以上かかったな。」


「はい。」


「壁が続いた。」


「……はい。」


「だが、諦めなかった。」

忠清殿はそれだけ言って、また画面を見た。


私の中で、権力の亡者、冷徹な権力者という印象は

まったくなくなっていた。

この仕事を通して、本の中の忠清像は、完全に崩れ去っていた。


この人は、人の苦労を見ていた。

黙って見ていた。


そして、終わった時に、言葉にした。

それだけだった。


それだけで、十分だった。


「忠清さま。」


「なんだ。」


「一つ、お聞きしてもよいですか。」


「言ってみよ。」


「忠清さまは、ずっと見ていてくださっていたんですか。」

忠清殿はしばらく黙った。


「取りまとめ役というのは、そういうものだ。」


「……そうですか。」


「動いている者を見ておらぬと、どこで詰まっているか分からぬ。」


「それだけですか。」


忠清殿は少し間を置いてから言った。

「……お主たちが、

下界で終わらせられなかった仕事を持っていることは、

知っておった。」


私は顔を上げた。


「だから、見ておった。」

それだけだった。


忠清殿はまた仕事に戻った。


私はしばらく、その場に立っていた。



-------------



私はメモを開いた。


「OS、完成した。

 下界で途中で終わった仕事が、ここで続きができた。

 忠清殿に「よくやり遂げた」と言われた。

 本の中の忠清像は、冷徹な権力者だった。

 だが目の前の忠清殿は、一年以上、

 私たちが壁にぶつかり続けるのを見ていた。

 「お主たちが、

  下界で終わらせられなかった仕事を持っていることは、

  知っておった。だから、見ておった。」

 責任感の強い人物。

 忠清さまは生前、何に対する責任感で仕事をしていたのだろう。

 冷徹な権力者とはほど遠い。

 本の中の忠清像と、目の前の忠清殿。

 全く違う。」


私はメモを閉じた。


画面の中に、まだ「黄泉ネット、始動。」という文字が光っていた。

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