第四話「途中で終わった仕事」
第四話「途中で終わった仕事」
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からくり箱の一号機が完成してから、
私たちの仕事が本格的に始まった。
OS開発だった。
生前、完成させられなかった仕事。
198X年8月12日、私たちは大阪に向かっていた。
あの飛行機には、TRINチームの主要メンバーが乗っていた。
OSはほぼ完成に近づいていた。
あと少しだった。
だが、あの日で全てが終わった。
その続きを、今ここでやる。
そう思った瞬間、私の中で何かが燃え上がった。
「堀田さん。」
阿部が設計図を広げながら言った。
「黄泉の国の電力の性質が、下界と違います。
生前の設計をそのまま使えない部分があります。」
「どこだ。」
「時間の刻みの問題です。
一秒を細かく分けて処理する仕組みが、
黄泉の光の揺れ方と合わない。」
「解決策は。」
「今、考えています。」
阿部は眼鏡を外して目を閉じた。
考えている時の癖だった。
生前から変わっていなかった。
歴史書を探す時間は、なくなっていた。
仕事が終われば、次の問題が待っていた。
問題が解決すれば、また次の問題が出てきた。
「堀田さん。」
今度は稲葉だった。
「半導体の流用はできそうですが、
こちらの環境に合わせた調整が必要です。
時間がかかります。」
「どれくらいだ。」
「……分かりません。やってみないと。」
「やってみよう。」
私は言った。
下界でも同じだった。
やってみないと分からないことは、やるしかない。
久世が記録帳を持って来た。
「堀田さん。今週の進捗をまとめました。」
「見せてくれ。」
久世の記録は正確だった。
何が進んで、何が詰まっているか。
一目で分かるようにまとめてある。
「久世。」
「はい。」
「いつもありがとう。」
久世は少し驚いた顔をした。
「……そんなこと、生前一度も言ってくれなかったですよね。」
「そうだったか。」
「そうでした。」
久世は笑った。
「黄泉の国に来て、少し変わりましたね、堀田さん。」
私は何も言わなかった。
変わったのかもしれない。
あの飛行機の中で、私は何を考えていたか。
OSのことだった。
あと少しで完成するのに、という悔しさだった。
今、その続きをやっている。
それだけで十分だった。
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一つ解決すれば、次が出てくる。
チューリング殿と後藤殿の力を借りながら、少しずつ前に進んだ。
ある夜、私は作業場に一人残っていた。
設計図を広げたまま、動けなくなっていた。
どこかに答えがあるはずだった。
だが見えなかった。
「堀田殿。」
振り返ると、忠清殿が立っていた。
「……忠清さま。まだいらしたのですか。」
「お主こそ。」
「もう少しで分かりそうなんですが。」
「そうか。」
忠清殿はそれだけ言って、部屋の隅に座った。
何も言わなかった。
ただ、そこにいた。
私はまた設計図に向かった。
忠清殿の気配が、部屋の隅にあった。
不思議と、それが落ち着いた。
一人ではなかった。
そう思うだけで、少し頭が動いた。
しばらくして、私は立ち上がった。
「忠清さま。」
「なんだ。」
「明日、試してみます。」
「そうか。」
「……見ていてくださったんですね。」
忠清殿は何も言わなかった。
ただ、静かに頷いた。
それだけだった。
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私は短いメモを書いた。
「忠清殿は、黙って見ていた。
何も言わなかった。
ただ、そこにいた。
生前、誰かにそうしてもらったことが、あっただろうか。
……あまり、なかった気がする。
この仕事を、完成させる。
下界でできなかったことを、ここでやり遂げる。
それだけだ。」
私はメモを閉じた。
明日、また続きをやる。




