表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

第四話「途中で終わった仕事」

第四話「途中で終わった仕事」


----------------


からくり箱の一号機が完成してから、

私たちの仕事が本格的に始まった。

OS開発だった。


生前、完成させられなかった仕事。


198X年8月12日、私たちは大阪に向かっていた。


あの飛行機には、TRINチームの主要メンバーが乗っていた。

OSはほぼ完成に近づいていた。

あと少しだった。

だが、あの日で全てが終わった。


その続きを、今ここでやる。


そう思った瞬間、私の中で何かが燃え上がった。


「堀田さん。」

阿部が設計図を広げながら言った。


「黄泉の国の電力の性質が、下界と違います。

 生前の設計をそのまま使えない部分があります。」


「どこだ。」


「時間の刻みの問題です。

 一秒を細かく分けて処理する仕組みが、

 黄泉の光の揺れ方と合わない。」


「解決策は。」


「今、考えています。」

阿部は眼鏡を外して目を閉じた。

考えている時の癖だった。

生前から変わっていなかった。


歴史書を探す時間は、なくなっていた。


仕事が終われば、次の問題が待っていた。


問題が解決すれば、また次の問題が出てきた。


「堀田さん。」

今度は稲葉だった。


「半導体の流用はできそうですが、

 こちらの環境に合わせた調整が必要です。

 時間がかかります。」


「どれくらいだ。」


「……分かりません。やってみないと。」


「やってみよう。」

私は言った。


下界でも同じだった。

やってみないと分からないことは、やるしかない。


久世が記録帳を持って来た。

「堀田さん。今週の進捗をまとめました。」


「見せてくれ。」


久世の記録は正確だった。


何が進んで、何が詰まっているか。


一目で分かるようにまとめてある。


「久世。」


「はい。」


「いつもありがとう。」


久世は少し驚いた顔をした。

「……そんなこと、生前一度も言ってくれなかったですよね。」


「そうだったか。」


「そうでした。」

久世は笑った。

「黄泉の国に来て、少し変わりましたね、堀田さん。」

私は何も言わなかった。


変わったのかもしれない。


あの飛行機の中で、私は何を考えていたか。

OSのことだった。

あと少しで完成するのに、という悔しさだった。


今、その続きをやっている。

それだけで十分だった。


----------------


一つ解決すれば、次が出てくる。

チューリング殿と後藤殿の力を借りながら、少しずつ前に進んだ。


ある夜、私は作業場に一人残っていた。

設計図を広げたまま、動けなくなっていた。

どこかに答えがあるはずだった。

だが見えなかった。


「堀田殿。」

振り返ると、忠清殿が立っていた。


「……忠清さま。まだいらしたのですか。」


「お主こそ。」


「もう少しで分かりそうなんですが。」


「そうか。」

忠清殿はそれだけ言って、部屋の隅に座った。


何も言わなかった。

ただ、そこにいた。


私はまた設計図に向かった。

忠清殿の気配が、部屋の隅にあった。

不思議と、それが落ち着いた。

一人ではなかった。

そう思うだけで、少し頭が動いた。


しばらくして、私は立ち上がった。

「忠清さま。」


「なんだ。」


「明日、試してみます。」


「そうか。」


「……見ていてくださったんですね。」

忠清殿は何も言わなかった。

ただ、静かに頷いた。

それだけだった。


----------------


私は短いメモを書いた。

「忠清殿は、黙って見ていた。

 何も言わなかった。

 ただ、そこにいた。

 生前、誰かにそうしてもらったことが、あっただろうか。

 ……あまり、なかった気がする。

 この仕事を、完成させる。

 下界でできなかったことを、ここでやり遂げる。

 それだけだ。」

私はメモを閉じた。


明日、また続きをやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ