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おじさんの焼いている肉は焼けたと同時にきよちゃんの子供達がかっさらっていく。見かねたおじさんが焼けた肉は別皿に取り分けてくれていた。
「よう食べるねぇ、ほんまに!」
「あんたら、食べ過ぎじゃろ! 肉ばっかり食べて! 野菜食べんさい、野菜!」
一番奥に座っているおじいちゃんがお父さんからビールを注いでもらっていて、子供達の食欲旺盛な様子をにこにこと笑いながら見ていた。
「ほら、たんとお食べ。じいちゃんの分も食べておくれ」
「え、良いの? やったぁ!」
「じゃけぇ! 野菜も食べんさい!」
まだ日も落ちていない時間から夕飯の焼肉が始まった。
父と晃おじさんが主に肉や野菜を焼いていて、母はおじさん夫婦と亡くなったおばあちゃんの話をして盛り上がっていた。姉はきよちゃんの長女、玲奈ちゃんとスマホを見せ合って話をしている。玲奈ちゃんは姉よりも私との方が年齢が近いと思ったけど、黒髪で地味な私とは合わないと思ったんだろうな。だって玲奈ちゃんは毛先の方を金色に染めている。私はこういう雰囲気の人と仲良くなれる気がしない。私よりも姉の方が話しやすいと思ったのかも。来年はきっと受験だろうし。大学受験を終えた姉にいろいろ聞いているのかもしれない。
居間を見渡すと、私と同じようにたいくつそうに黙って食事をしている人がいた。きよちゃんの新しい旦那さんで、名前は和成さんだそう。きよちゃんは去年、和成さんと三度目の結婚をした。前の旦那さんと何があったのかは私は全然知らないけど、今、目の前にいる新しい旦那さんよりも前の旦那さんの方が記憶にある。お小遣いももらったことがあるし。海や夏まつりにも一緒に行った。そんな変な感じの人には見えなかったけど何があったんだろう……。
和成さんと私の間には微妙な空気が流れている。たまに和成さんと目が合って、私はすぐに目を逸らす……というのを何回か繰り返している。この場所に馴染めていない者どうしで様子をうかがっている。かといってお互いに何か声を掛ける気もない。ただ、そこにいて時間が過ぎるのを待っているだけ。
「あーあー! お皿はちゃんと抑えんさい言うたじゃろ。もー、拭くものある?」
子供がたれの入ったお皿をひっくり返してしまったようだ。この騒がしいお肉ばかり食べる子供達は和成さんの連れ子だそうで、きよちゃんは急に3人の子供の母になったということ。子供の着替えを用意して、汚れた服を脱がして……きよちゃんは本当によくやってるなと思う。それで、この新しい旦那さんはきよちゃんが着替えをさせている間、ただビールを飲んで「あーあー」と言ってへらへら笑っているだけ。え、これがきよちゃんの旦那さんなの? 私は、こんな人とは絶対に結婚は無理。この人のどこが良かったんだろう。
きよちゃんも、きよちゃん家族も見ていると何だかもやもやする。
もうお腹もいっぱいになったし、部屋に戻っても良いかな? お肉はもう少し食べたかったけど……。子供達の3分の1の量くらいしかたぶん食べられていない。
「部屋に行ってる」
親戚と盛り上がって話をしている母に声をかけて立ち上がった。
「そう? ちゃんとお肉食べれた? お風呂入るならボタン押すだけだから」
「うん……おやすみ」
「おやすみー」
「騒がしくてごめんねぇ、夏実ちゃん。おやすみ」
いちおう居間にいる親族達に軽く挨拶をして私は居間から出た。
襖を閉めると他の部屋はしんと静まり返り真っ暗で、時計の秒針の音と、家の裏手にある木々が風で揺れている音が聞こえている。
すぐ後ろではみんながわいわいと話をしている会話まで聞こえてくるのに、私だけが別の世界に来たように感じる。少し……怖いかも。
今さら1人で居間を出てきた事を後悔した。姉も一緒に部屋に行こうと誘おうかな……いや、断られたら嫌だな。それに私達の部屋には白黒の写真が飾られている。たぶんひいおじいちゃんやひいおばあちゃんのご先祖様の写真だと思うけど、上から見下ろされて監視されている感じがして、目も合いそうでそれも怖い。仏壇も置いてあるし、そんな仏間に1人で戻れるの? そう思うとこの場から動けなくなってしまった。
私ってバカだな。「あれ? 戻ってきたの? 怖くなったんでしょー」と言われても良いから戻ろう。
襖の引き手に指を掛けると、視界の端で白いものがぴょんこと横切った。
「何?」
顔をそちらの方へ向けると真っ白なうさぎがいた。
二本足で立ち、私に顔を向けて鼻をひくひくとさせている。瞳は虹色で毛は白いうさぎ。月明かりで照らされたほの暗い縁側にうさぎが1匹いる。時が止まったように、うさぎもそこから動かない。
あれ? この子って……もしかして島で見たうさぎ? なんでこんなところに……?
この状況は絶対におかしい。こんなところに島で見たうさぎがいるなんて変だ。不思議と怖くはなかった。
うさぎがひょこひょこ動き出すと、自然と私の足もそちらに向かった。
こんなところにうさぎがいるのはおかしいと頭ではわかっていても、好奇心の方が勝っていてこの子はどこに行くのかと自然と体が追ってしまっていた。
廊下を進み突き当たりに来るとうさぎは二本足で立ち上がった。立ち上がり、大きな耳をピンと立てて私の方を向いた。ガラス戸を開けてくれと言っているようだった。
「外に出たいの?」
そう感じたままガラス戸を開けるとうさぎは勢い良く走り出し、裏手のもう使われていない廃墟のような建物に向かった。
もしかして飼われていたうさぎが逃げ出して勝手にそこに巣を作っているのかも。あそこは一度おじいちゃんと入ったことがあったけど、物が散乱していて先のとんがった器具も置いてあったりと危なかったのを記憶している。
人を呼んで来ようか、どうしようかと一瞬迷い、外に置いてあったサンダルを履いてうさぎの向かった建物の方に歩いた。
建物が見えてくると、月明かりに照らされてボロボロの柱や屋根が目に映り元々不気味で怖かった場所がさらに恐ろしい場所のように思えた。
やっぱり人を呼んで来よう。
母屋に引き返そうと振り返るとそこに人が立っていた。




