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再びフェリーに乗り、予定よりも早く港へ帰ることになった。姉は撮影をした画像や動画を見返しているようでずっとスマホをいじっている。
徐々に離れて行く島は来た時と変わらず静かでずっと同じ場所で青い海の上に浮かんでいる。
当たり前のことだけど、ずっと昔からそこに島はあって船で人々は行き来していたんだろうな。村とかあったのかな? 人は住んでいたのかな? 周りは海だから漁業で発展していそうなイメージがあるけど。それにしても昔の商店街の跡も無い本当に小さな島だよね。島にたくさんいるうさぎもいつからそこにいるんだろう。雨の日も嵐の日も島に雪が降るのかは知らないけど、この先もずっとこの場所に島はあるんだろうな。そう思うと資料館に行けなかったことが残念だけど、またおじいちゃんの家に来た時に来れるしな……と、座席に座りながらぼんやりとそんなことを考えていた。
港に着くと近くにある駐車場へ行き、見慣れないレンタカーを探す。シルバー色の日本で一番有名な車種の車。東京にいる時は車の運転なんてほとんどしない母の運転は少し不安だけど、母の運転でおじいちゃんの家へと向かう。エアコンを入れた直後の車内はサウナのように熱がこもり、後部座席の窓を全開にした。
「飲み物買って帰るから。きよちゃんところと……晃おじさんと……橋本さんとか橘高さんにも挨拶した方が良いかな」
「いや、ちょっと誰が誰だかわからないけど、挨拶くらいはした方が良いんじゃないのかな。こっちはそういうの気にするんだろ?」
「ビール?」
「それか日本酒か」
母と父で親戚への手土産を何にするのか話し合っているらしい。私には関係のない話。きよちゃんは母の妹で晃おじさんは母のお兄さん。
母方の親戚がこの辺りにはたくさん住んでいて橋本はおばあちゃんの旧姓で橘高は知らない。全然わからない。その他にもたくさん親戚がいるみたいだけど、誰が誰だかわからない。母に聞いても遠い親戚すぎて繋がりがさっぱりわからなかった。
今日は私達一家が2年ぶりに帰省をしたので久しぶりに親戚が集まって夕飯を食べるってことらしい。私と姉がちょうど受験で去年も一昨年も来れていなかったから。
でも母以外の父、姉、私はその場にいる人が誰かよくわかっていないので話に相槌をうって、にこにことしているだけ。正直、知らない人に囲まれるのはただただ疲れる。それに、田舎の人って思ったことをすぐに言うし、デリカシーも無いし、こちらの人は声も大きくて少し乱暴な言葉に聞こえるから少し苦手。
これから憂鬱な親戚の集まりが始まるんだなと覚悟をした。そんな時間がこれから来る。食べることだけに専念しよう。私は開けた窓のそばに顔を近づけて生ぬるい風を顔に当てながらそんなことを思っていた。
スーパーに到着をして、母と父が後部座席の私と姉を置いて店内に入った。都内では見たことがない店舗名のスーパーで、何か買い出しをする時はいつもこのお店を使っている。
隣りの座席にいる姉はイヤホンをつけて、スマホを操作していた。
「お姉ちゃん」
「ん? 何?」
姉はイヤホンを外して私の方を向いた。
「お母さん、炭酸買って来るかな」
「きよちゃん家族も来るから買って来るんじゃない? 夏実も一緒に行けば良かったのに」
「……うん」
姉は再びイヤホンをつけた。
姉はこうやって私との会話もめんどくさがらずにしてくれるし、嫌いではない。嫌いではないんだけど……。
しばらくして両親は両手に大きいビニール袋を持ち、車に戻って来た。
「お母さん、炭酸は?」
「買ったよ、買った。じゃあ行こっか」
自分の実家だからか母は妙に元気で張り切っている。
トランクをあけ、買ってきた飲み物類を入れると勢いよくトランクを閉めた。閉めた勢いで車は少し揺れた。私達家族は普段、車には乗らない生活なので、扉を閉める時の力加減がよくわかっていない。私も扉を閉めるときはめいいっぱいの力で閉めてしまうのでよくわかる。
ゆっくりと車を出して緩やかな坂をほんの少し走るとあっという間におじいちゃんの家、つまり母の実家に着いた。
少し高台にあるこの平屋の家はこの辺りでも広い方に入るようで、おじいちゃんの住む母屋とそして晃おじさん夫婦の家、蔵、そして昔は使っていたらしい廃墟のような建物がある。
駐車場は特にないので門を入ってすぐの適当な場所に停める。人が来て車が邪魔だったら少し奥の庭のような開けた場所に車を停める。
母の運転する車が敷地に入ると、黄色のエプロンをつけたきよちゃんがサンダルを履いて奥から出て来た。
「お帰りー島行っとったんじゃろ。暑かったでしょう」
「久しぶり! 飲み物買って来たから」
母が嬉々とした声を出して運転席から降りた。それに続いて父と私達も車から降りる。
「まぁた、愛海ちゃんはぺっぴんになって。誰か思うたわぁ。何歳になるの?」
「大学1年生です」
「楽しい時よねぇ。若いけぇええね。夏実ちゃんも大きゅうなって」
ほらね。私には特に何もない。
きよちゃんはにこにこして全く悪気はないんだろうけど、いつも姉が褒められて私はおまけ。姉と比べたら私には褒めるところは何ひとつ無いのかもしれないけどさ。慣れたから別にもう良いけど。こういうことを1人に言ったら、何も言われないもう1人がどう思うかなんて全く気にしないんだ。これだから私は親戚の集まりは嫌いなんだ。
私はやるせなくなって買って来た飲み物を運ぶ手伝いもせずにそのまま引き戸を開けて玄関に入った。脱いだ靴も揃えずに私達が使わせてもらっている仏間にそのまま一直線に向かった。きよちゃん家族にも、おじさん家族にも、おじいちゃんにも今は顔を合わせたくない。
「気難しい子でねぇ」
「年頃の女の子はみんなそがいなんよ。うちのもそうよ。あ、お肉取りに行かにゃいけん」
後ろの方でそう話しているのが聞こえた。私のことを話してるのも不快で、やるせなくてわざと大きな音を立ててどすどすと廊下を歩いてやった。
早く帰りたい。
仏間の襖を大きな音を立てて締めると私は転ぶようにして畳の上に座った。こんな風に八つ当たりなんてしたくないのに体がそうしてしまう。こんな自分にも嫌だった。
壁の上の方には着物を着た人の白黒の写真がいくつもあって、一番端には亡くなったおばあちゃんのカラー写真が飾られている。
こんなしょうがない理由でいじけている私を見てご先祖様はどう思うかな。呆れて笑っているかもね。




