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整備された道を4人でゆっくりと歩いていく。
時々、うさぎが日陰で横になっている姿が見えた。ここではうさぎもゆったりとした時間を過ごしている。
母のさしている日傘の影が少し後ろに伸びて、私は影に入るように母のすぐ後ろを歩いた。今日は日焼け止めをしていないから。
時々、日傘の先の部分が私の頭に当たったけど母は特に気にしていない様子だった。
「うさ耳はまだ先?」
「どうだったっけ? 案外広いんだよね。ここって」
「海水浴場には前はよく来たよね。そこの近くじゃなかったっけ」
「そうねぇ」
母は気の抜けた返事をよこしてゆっくりと前を向いて歩いている。
夏の午後だけれど風が吹けば涼しい。
「水着持って来れば入れたね。海行きたかった?」
「え、絶対に嫌。何でそうなるの」
「お姉ちゃんは行きたそうにしてたけど。なっちゃんが嫌だろうなと思ってやめようって言ったのよ」
「水着を着て写真撮りたいだけでしょ。友達とすれば良いじゃん」
「だって。愛海、言われてるよ」
「んー?」
姉は海の方を見ながら気の抜けた返事をしている。母も姉も人の話をそこまで受け止めないところは似ている。気楽だけど、寂しい時もある。
少し開けた場所にトイレが見えて、その先に白いとんがりが並んでいるのが見えた。
「私は海よりもあっちの方に行きたい」
海側にはうさぎ耳集音器があって、指をさした山側に進めば資料館がある。私は資料館の方に興味がある。
「ずっと前に行った時はなっちゃん泣いちゃって大変だったのよね。行ってみる?」
「行ったことあるんだ? 全然覚えてないや。うん、時間があれば……」
記憶にはないけど資料館には行ったことがある様子だった。内容は全く覚えてないや。かなり小さい頃に行ったんだろうな。保育園の時か小学校低学年か、もっと小さい時かもしれない。
姉は小走りで集音器に向かった。そんなに映える撮影が大事なのかな。きっと私が資料館に行きたいと言ったら文句を言うんだろうな。
「あ、じゃあお父さんと行ってる? お母さんは愛海といるから。連絡が来たら早く帰らないといけないけど……」
ちょうどそこで母のスマホから音が鳴った。
「あ……きよちゃん来たって。早く帰らないと。今日は焼肉だって。もーだから早く出ようって言ったのにぃ」
「私じゃない! お姉ちゃんが支度に時間掛かってたんじゃん!」
「あーそうね。はいはい。今日は写真撮ったら帰ろう。また明日来れば良いでしょ」
「良いよ1人で来る」
「船だからお父さんが嫌がるでしょ……」
「じゃあお父さんと一緒なら良いんでしょ!」
母はそれ以上何も言わず集音器の方へ行ってしまった。父は我関せずといった具合でスマホをいじりながら母に続いて集音器の方に行った。父は船で何かあったら怖いからと姉や私が一人で船に乗ることを良しとしない。昔からそこだけはなぜか固くなで父か母と一緒でないとフェリーは乗れない。そんなわけのわからないルールを押し付ける父も面倒だし、それに「明日」って言ったけど、明日は明日で予定があるので明日にこの場所へ来るのは無理なのはわかってる。母も途中でそれに気付いて話を切り上げたんだ。いつもなぜか姉ばかりが優先される。姉の希望が通る。ただ私のタイミングが悪くてトロいだけかもしれないけど、それがとても悔しい。姉ばっかり!
要領が良く、周りも自然に味方をしてくれる姉と不器用でタイミングも悪い私。あーあ、理不尽。
こういうことには慣れているので、諦めて私も集音器の方へ向かった。
それにしても……資料館は何を展示している資料館だったっけ。島の歴史だったかな。覚えているのは展示の写真が怖くて泣いたことと、その後にお母さんがアイスを買ってくれたこと。後で資料館の事をネットで調べてみよう。
うさぎ耳の形をした集音器は4つ設置されていて、そのうちのひとつに姉が頭を入れて音を聞いていた。人に大きなうさぎの耳が生えたように見えて、その上後ろには青い海と山がある。他では見られないインパクトのある風景はこの島きっての有名なフォトスポットだ。
「風と波の音が聞こえる」
目を閉じて自分の耳と集音器の耳当て部分に手を添えて立っている姉の足元には何匹かうさぎが集まっていた。
「観光客がたくさんいるところでは餌がもらえるから集まってくるんだね。足元気を付けてよ」
フェリーに乗る前に母が購入したうさぎの餌を袋から取り出すと、少し離れた場所にいたうさぎ達も足元に集まってきた。
「うわ、うんち踏んだ」
「お父さん、気付いてないかもしれないけどあちこちたくさん落ちてるよ」
「え、そうなの?」
「前も同じ話した気がする」
しゃがんでうさぎに細長いにんじんを与えると、さっそく1匹のうさぎが鼻をひくひくとさせながらにんじんにかぶりついた。
しゃくしゃくとリズミカルに食べてあっという間に食べ終えてしまった。
「お腹空いてるのかなぁ」
「あげたらあげただけ食べるのかもね」
姉もしゃがんでカットしたにんじんを差し出した。
私も追加のもう1本のにんじんを差し出すと、手前の方にいるうさぎをかき分けて奥の方から白い毛色で、瞳が虹色の綺麗なうさぎがにんじんをかじった。
シャクシャクと小気味の良い音を口元から出してそのまま1本を食べ終えた。
虹色の瞳をしたうさぎなんて珍しい。うさぎって赤とか黒の瞳ばかりじゃないんだ。綺麗だなと思い、白いうさぎの頭をそっと撫でるとパチリと静電気が走った。驚いて手を引くと、その場にいるうさぎは一斉に私の方に向いた。中には警戒をしたのか耳をピンと立て私をじっと見ているうさぎもいる。
「じゃ、お姉ちゃんも写真たくさん撮れたでしょ? きよちゃん一家がもう来てるみたいだから次のフェリーで帰ろ」
「着いたばっかりだけどなぁ。もう?」
「夕飯待たせちゃうでしょ。ほら餌は残ると持ち帰りになっちゃうからあるだけあげちゃって」
母は餌のにんじんを全部手に取ると、父、姉、そして私に配った。
もう一度虹色の瞳をした綺麗な白うさぎに餌を食べさせたいと思い姉の足元を見ると、周りにいるのは茶色やグレーのまだら模様のうさぎ達だけで、まっ白なうさぎはいつの間にかいなくなっていた。




