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「おー夏実ちゃん! 機嫌直ったんじゃなぁ! スイカがよう冷えとるよ。今からなぁ切るところじゃけぇ!」
「ちょっと、もう良いから。早く切ってよ。もう」
晃おじさんが赤い顔をして包丁を大きなスイカに突き立てている。スイカか転がらないように母はおじさんの横で一緒にスイカを支えていた。
夕飯を食べていたあの時からそんなに時間が経って無いんだ……。きよちゃんの子供達は居間の端の方で集まってゲームをしている。全員私が過去の昭和13年に行っていたなんて全く知らないし、みんなは普通に夕飯の時間を過ごしていたんだ。
私は奥の席でにこにことしているおじいちゃんのところに行ってそばに座った。おじいちゃんは座椅子の背もたれに背中を預けてゆったりとお茶を飲んでいた。
「おお、夏実。散歩に行っとったんかいの? 夜は気ぃ付けんさいよ」
「うん……」
この人がひいおじいちゃん達の子供かとまじまじと見た。
少し薄くなった白髪、おでこや口のまわりなどあちこちにしわも目立つ。肌は張りも無いしシミもいくつかあるし、どこからどう見ても年相応のお年寄りだった。目の前の人があの2人の子供かと思うと信じられない気持ちになる。どちらかというとひいおじいちゃんも芳子さんも美男美女に近いと思うんだけど……。遺伝ってよくわからない。
「あ、そうだ。これ見て欲しいんだけど」
持っていたスマホを起動し、診療所で撮影をした2人の画像をおじいちゃんに見せた。
「これ……ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんだよね?」
「んー画面が……」
おじいちゃんは見ていたスマホを少し離して、辺りをきょろきょろとし始めた。
「眼鏡。ちょっと眼鏡取ってくれんかの。そこのタンスの一番上の引き出しの中じゃ」
タンスの前にいる晃おじさんの奥さんが引き出しの中から茶色の眼鏡ケースを取り出してひいおじいちゃんに手渡した。眼鏡をかけてスマホを手に持ち、目に近付けたり離したりしている。
「おお、そうそう。父さんと母さん。かなり若い時じゃのう。よう出来とるねぇ」
「じいさんとばあさん? どれどれ?」
スイカを何等分かに切り分けた晃おじさんもおじいちゃんが手にしている私のスマホを覗き込んだ。
「これが噂のエーアイっちゅうヤツか! よくできとるなぁ!」
母もスマホを覗いている。
「こんなのも作れちゃうの? すごいねぇ……」
「えー見せて見せて」
他の親戚もみんなが私のスマホの中の画像を見ている。生成AIで作った画像だと完全に思い込んでいるようで2人の画像を特に怪しまれることも無かった。
この時代に戻ってきてもあの時に撮影した画像は消えておらず他の写真とともに保存をされている。
「そういや写真ならいろいろあったよなぁ? 捨てんと取っとった思うんじゃけど。こんな小さい頃の写真もあった気がするんよな」
「私も見た事あるかも。父さんがよだれかけしてるやつだよね」
「どこにやったかねぇ」
「確か寝室だよ。片付け手伝ったけぇ。持ってくるわ」
晃おじさんが急に席を立って居間から出て行った。切り分けられたスイカは皿に盛られ、食べ終えた茶碗や他の食器を母ときよちゃんが片付け始めている。
「写真があるの?」
「白黒じゃけどの。家を建て替えた時に片付けして、その時に取っといたんじゃったかのう」
おじいちゃんはお茶をすすりながらスイカをひとつ取ると、スイカの種を指で皿の上に落とし始めた。
「あの……おじいちゃん。ひいおじいちゃんは島に行ってたんだよね? その……大丈夫だったの?」
「んー? わしが生まれとるけぇ大丈夫っちゃあ大丈夫じゃったんじゃろうけどのう。やっぱり気管支じゃな。よう咳をしとったんよ」
自分の喉を指でとんとんしながらおじいちゃんは言った。
「島での話は一度もせんかったのう。まぁ……思い出したくなかったんじゃないかのう。この辺はそういう人がようけおったけぇな」
種を取り終えたスイカをかじり、その手を近くにあった手ふきで拭くと、ゆったりと座椅子の背もたれに背中を預けた。
思い出したくもない記憶ってそんなに壮絶だったのかな。ひいおじいちゃんがそんな場所に行くのに、私、ちゃんとお別れも言えなかったな……。自分の肩に手をやるとまだひいおじいちゃんに押された手の感触が残っているような気がした。どういう思いで私の肩を押したんだろう。
おじいちゃんは手を伸ばし、またスイカを手に取るとさきほどと同じように種を皿の上に落とし始めた。
「父さんよりも母さんの方が怖かったのう……中学の時、思うたより成績が悪いことがあっての。母がえらい剣幕で担任に怒鳴り込みに行ったんよ」
あぁ芳子さんならやりかねないかもとふっと笑いが込み上げてきそうになった。きっとひいおじいちゃん尻に敷かれていそうだな。
「あった。これこれ」
晃おじさんが勢い良く居間の襖を開けて入ってきた。手には段ボールを持っている。
おじさんは段ボールを下に置くと、皿を少しよけてテーブルの上にアルバムや封筒を広げはじめた。その様子を見て部屋の端の方でゲームをしていた子供達も他の人もおじさんの周りに集まった。おじいちゃんは座椅子から動き気は無いらしく、スイカを静かに食べている。
「これ、私じゃん! うわぁ細い」
「お母さんも父さんも若い! 何この髪型?」
「その時はこういう髪型が流行ってたんだよ」
いくつかある写真は少し髪の長い父と、眉が細い母が写っている。2人はタキシードとドレスを着ているので結婚式の時の写真のようだった。
「あ、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんだ。この時来てたもんね」
「この時はまだ元気だったもんなぁ」
新郎新婦のその隣りに体の小さなお年寄りが着物を着て座っていた。鼻筋の通ったぱっちりとした少したれ目の優し気な顔の老人と、形のきれいな眉に涼しげな目元の上品な老夫人が写っていた。2人とも顔にはシワができ、痩せて体は小さくなっているけれど確かに私の見た2人だった。この時代まで生きていたんだ……。
夢のような、でも夢ではない感覚がとても不思議で、その中で私もこうしてここにいるのが当たり前だけど当たり前じゃない、本当は自分もすごく大切な流れの中にいるんじゃないかなという気になった。
「これ、ずいぶん古そうなんだけど……」
姉が底の方から取り出した茶色い封筒の中に色あせている白黒の写真が入っていた。姉の手にしている写真を覗き込むと、膝に赤ん坊を乗せて縁側に座っている芳子さんが写っていた。




