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この景色の先には  作者: 汐見かわ
伝えてくれと
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31/31

8-5

「芳子さんだ……」

「芳子さん? 誰? この写真の人?」


 あの時に見たそのままの家の縁側が写っている。写真を撮ったのはひいおじいちゃんかな。写っているほっぺたがふっくらとしている赤ん坊は信じられないけれどきっとおじいちゃんだと思う。芳子さんは膝にだっこをしている赤ちゃんの右手を少しあげて、カメラに向かって微笑んでいる。幸せそうな親子の写真にまた目頭が熱くなるのを感じた。

 

「芳子ってばあちゃんの名前じゃな。君らからしたらひいばあちゃんじゃ」


 晃おじさんが大きな声で教えてくれた。

 

「へぇ、なっちゃん名前知ってたの?」

「う、うん……前に聞いてたから」

 

 とっさに芳子さんの名前が口から出てきたけど、よく考えると祖父母の名前は知っていても、その前の世代の名前を知っているはけっこう珍しいのかも。私も今の今まで知らなかったし、母との会話でも出てきた事が無かったし。


「じゃあ夏実ちゃん、この人の名前はわかるか? ひいじいちゃんなんじゃけど」


 晃おじさんは別の写真を指差して私に質問をした。その写真はひいおじいちゃんが何かの表彰状をもって白衣の姿で映っている。直立不動でにこりとも笑っていない。あの時見た姿よりも少しふっくらとして貫禄というか落ち着いた印象になっていた。

 ああ、ピンと背筋を伸ばして立って真っ直ぐにレンズに視線を向けて真面目くさった顔をして。写真写りはずっと変わらないんだね。名前も顔も忘れるわけない。一番最初に私を助けてくれた人で私のひいおじいちゃん。


「……川本省吾(かわもとしょうご)

「おーよう知っとるね。正解! 子孫の鑑じゃのう! ご褒美にスイカの一番甘いとこやろう」


 晃おじさんは切り分けたスイカの中から真ん中あたりの特に赤く色付いているものを取り皿に取り分けてくれた。


「えー……何それ。それがご褒美って何? あーおかしい」


 私は目尻にたまった涙を指でぬぐった。ひいおじいちゃんがあの後もちゃんとしっかり生きていたってことがわかって安心もしたし、嬉しいし、何だか切ない気もするし。

 何とも言えない感情があふれてきて胸がいっぱいだった。


「一緒に写っているのはおじいちゃん?」

「じーさん、これじゃろ?」


 晃おじさんは写真を持っておじいちゃんの方へひらひらひらと上に掲げた。

 

「そうだよ。こんな時代もあったんじゃ。誰でも赤ん坊の頃はあるけぇのう」


 おじいちゃんはそう言ってひと口スイカをかじった。

 他にもひいおじいちゃん達の写真が無いか確認していると、2人が豪華な着物を着て正座をしている写真があった。芳子さんは白い袋状の被り物をしている。


「これ、白無垢じゃん」


 姉が写真を手に取った。

 テレビで見た事がある。結婚の時に着る婚礼衣装だ。2人とも真っ直ぐにこちらを見て緊張した顔つきでいる。


「そっかぁ、昔は家で結婚式ってするんだね。この時の写真が残ってるって凄いよね。まだそんなに写真って普及してない時代なんじゃない?」


 横で2人の写真を眺めていると姉から「はい」と写真を渡された。婚礼の時の写真を改めて眺めると2人の前にはお膳が置かれその上に食器や料理が置かれている。そのお膳とお膳の間、2人の間に白い小さな箱のようなものが置いてある。


「これって……」


 もしかしてイヤホンじゃないのかな。私はズボンのポッケに手を入れ確かにイヤホンがないことを確認した。私が芳子さんにあげた白いイヤホン。2人の大事な晴れの舞台なのにここに置いてくれている。何でこんなところに飾ってあるんだろう。もしかしていつかこの写真を私が見た時に。私のことを忘れてないよ覚えているよっていうメッセージかな。

 私はまた目の奥から涙がにじみ出てくるのを感じた。今でもひいおじいちゃんや芳子さんと深く繋がっているような気持ちになる。私がいなくなってからも忘れないでふとした時に思い出したりしてくれていたのかな。そう思うと切なくてきっと今もどこかで私たちを見守ってくれている。そんな気持ちにもなった。


「おじさん、これ何か知ってる? ここに写ってる箱みたいなヤツ」

「ん?」


 晃おじさんは眼鏡を上げて写真を目に近付けたり離したりしながら見ている。


「これなぁ、ようわからんのじゃけど葬式……焼く時に一緒に入れてくれって、ひいばあさんが言うとったんよなぁ? ほんで入れたんじゃったっけ? 確か?」


 晃おじさんは大きな声でおじいちゃんに向かって話しかけた。おじいちゃんはスイカを食べ終えて、座椅子に背中をあずけ眠たそうにしている。


「ああそれなぁ、もらいもんじゃ言うとったけどずっと部屋に飾っとったのう。何かの置き物じゃないんかねぇ。葬式の時に一緒に燃やしたけぇ、ここには無いんよ」


 そう言って飲みかけのお茶をひと口飲むと、静かにグラスをテーブルに置いた。


「あの時はそんなもんかと思うて、気にもせんかったんじゃけどの。父さんも母さんも孫ができた時はそりゃあ嬉しそうにしとった。でもそれとはまた違うんじゃ……あれは誰の話をしよったんかのう。すまほがどうしたって。うちの門を出て右にちょっと行ったところにあるじゃろう? あそこの空き地な。そこから海の方を見てみろって言うとった。朝焼けが特にええけぇ、それをいつか伝えてくれってのう」


※あとがき※

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

評価(★)やブックマークは励みになりますので、応援していただけると大変嬉しいです。


また、本作は大久野島をはじめとした忠海町を舞台にした小説でありフィクションです。実際の歴史的事実とは異なる描写も含まれています。実在する人物や団体とは関係がありません。

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