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胃の奥がぎゅっと握りつぶされるような気持ちの悪さを感じた。心拍数が上がっている。空気を吸おうとすると吸う息が浅くなってしまいうまく息ができない。胸が苦しい。ひいおじいちゃんが大変なめにあうかもしれない。
額から嫌な汗がじっとりと出ている。
「調べますが良いですね?」
「どうぞ」
ひいおじいちゃんが両手を上げると、兵士がもう1人の兵士に目くばせをした。乱暴な物言いの兵士はひいおじいちゃんの前に立つと、私の時と同じように服の上から体を触り始めた。腕、わき、腰、私の時よりも強くぱんぱんと服を叩いている。
だめだ……それ以上触られるとスマホが見つかってしまう。ズボンのポッケに入ってる。そこしかスマホを入れらるところなんてない!
私はもう見ていられなくて、目を逸らそうとしたけどここでおかしな態度をとるとよけいに怪しまれてしまう。その瞬間を見届けるのなんて嫌だ。
兵士の手がズボンのポケットに触れられた瞬間、私は「あっ」と声が出そうになった。それと同時にひいおじいちゃんは自分でポケットに手を入れズボンの裏地を引き出した。
そこには何も入っていなかった。
兵士も乱暴にポケットの布を触り、執拗に手で触っている。兵士もそこにスマホが入っていると最初から思ってたんだ……。何度も確認したが、スマホは見当たらなかった。ポケットを調べた後はももや膝、すねもズボンの上から触り、靴も脱がせて改めて見てもひいおじいちゃんはスマホを持っていなかった。
どういうこと? 私のスマホはどこに?
とにかく兵士の検査は終わり、ほっと胸をなでおろした。スマホが消えたのは気がかりだけど、連行されることはない。
その時、腕を組んで検査の様子を眺めていた上司らしきもう1人の兵士が言った。
「2人とも服を脱いで裸になって下さい。それで終わりとしましょう。こちらも業務なんでね」
「は?」
思わず声が出てしまった。
「何度も念入りに調べていましたけど、そこの兵士では信用ならないってことですか?」
「な、そんなことあるわけないだろうが!」
うろたえた様子で兵士が声を荒げた。でも内心ではそうかもしれないと本人も思っているのか、もう1人の兵士の顔をちらちらと伺っている。そんな兵士には目もくれず、もう1人の兵士は私と目が合った。何この人……怖い。
「持っていなくても部屋の中など隠すのはどうとでもできるでしょう。まぁ、そこまで言われていないのでそれはしませんが、どうも気になるんですよね。こちらの娘が。こんな服装見たことない。敵国の諜報員かもしれないですし」
「そこまでの権限は認められているんですか?」
「今、この場の責任者は私ですから。さ、どうぞ。じゃあ先生からで良いですよ」
「ほら、さっさと服を脱げっ!」
「触るな!」
兵士はひいおじいちゃんのシャツをつかんだが、とっさにその手を激しく振り払われ、目を見開いて驚いた顔をしている。大人しそうな人に反撃をされた事がよっぽと意外だったのだと思う。こんなに激しく抵抗して大丈夫なのかな? 逆につかまったりしないかな。私はひいおじいちゃんが心配でまばたきもできずに目を見開いていた。
「う~ん……名前は使いたくなかったが……」
ひいおじいちゃんは少し乱れたシャツの襟を直しながら大きくため息をついた。
「……私の父親をご存じか? 川本威と言います。陸軍軍医少佐です。広島陸軍病院にいます。あなた達、世話になったことがあるか、これからなるんじゃないですか? 無礼な兵士2名が家に押しかけてきた。諜報員だと疑われ、目の前で裸になれと言ってきたと父に報告しますけど」
「そんなのはったり――」
「やや! これは失敬!」
もう1人の兵士が急に大きな声でにこにことし始めた。何こいつ……お父さんの名前を出したとたんに急に態度を変えた。こんなあからさまに態度を変えることってある? すごく不気味で怖い。それと同時に人間のすごく汚い物を見た気持ちになった。
でも、代々医者の家系っていうのは本当だったんだ……。ひいおじいちゃんの父親は医者でその上、軍の偉い人ってことかな。軍人だったんだ……。
「少佐のご自宅でしたか。それは失礼しました。無礼をお許し下さい。くれぐれも川本威少佐によろしくお伝え下さい。敷地周辺の安全は確保しましたと。行くぞ」
「え? は、はいっ」
上司らしき兵士はにこにことしながらかぶっていた帽子をとり、ひいおじいちゃんと奥にいるお母さんに深々とお辞儀をするともう1人の兵士を連れて家から出て行った。
口調が乱暴な方の兵士は1回だけこちらを振り返ったけど、見ただけでそのまま2人は去って行った。
「良かったぁ……」
私は急に力が抜けてしまい玄関前でしゃがみこんでしまった。
「私もびっくりしました。急に来るもんだから……あなた達、何かしたのかと思うて」
「でも、私のスマホは……」
「外の茂みに置いてある。家に入る前にそこに投げておいた」
「えぇ! 投げたの?」
とっさに画面が割れたんじゃないかとスマホの心配をしたけど、とりあえず見つからずに済んだから良いか。ひびが入るくらいなら壊れないよね。ひいおじいちゃんは島を撮影をしたスマホを持っているとこうなるってわかっていたんだ。兵士に連れて行かれた先はどうなるんだろう……そう思うとぞっとした。
「あの……」
少し言いにくそうにお母さんが手に持っているものをひいおじいちゃんの前に差し出した。
「急なことがあって言うのが遅くなりましたが。これを」
差し出されたものは赤い紙で『臨時召集令状』と書かれている。
これ……知っているかも。教科書に書いてあった。兵士になりなさいって紙だ。ひいおじいちゃん、軍に入るの? ひいおじいちゃんは武器を持って戦わなければならないの?
「……配属は大久野島」
目の前に見えているあの赤い島だ。戻って来る人は体調がおかしくなっているっていうあの島にひいおじいちゃんは配属される。




