7-3
「さて、そろそろ戻るか。この景色を一緒に見れて良かったよ」
私も良かったと思う。
おじいちゃんや姉や母にもこの景色のことを教えるんだ。ひいおじいちゃんに会ったことは信じてくれなくても同じ景色は見れるはずだから。
ひいおじいちゃんは振り返りまた雑草の生えている元来た道を歩いた。
真上にあった太陽は少し傾いて雲も出てきたのか、時々薄い影があたりの地面を覆った。そしてまた太陽が顔を出し、地面に日がさしている。
脇道を抜け家の前についてひいおじいちゃんはそのまま左に曲がり敷地に入っていった。後から私も敷地に足を踏み入れた。
「え……」
玄関前に男の人が3人立っていた。
私の姿を見るなり、その中の1人が「この娘じゃ」と言って指をさした。
この人……港に行く前に会った老人だ。首に白いタオルを巻いて日焼けをした、島で何が起きてるか教えてくれって言ってきた人!
「この娘、島の方をしきりに見よったんじゃ。なんぞ怪しい思うてのう。島へ行きたいとも言うとったし。確かに聞いとるけぇ」
「報告ご苦労。もう帰っていいぞ」
軍服を着た1人が老人に下がるように手で払った。老人は私達とは目を合わせずにそのまま出て行った。
何でこんなことをするの? 何でわざわざ兵士を呼んだの? 私が島に行けなかったのを見ていたの?
玄関の奥ではひいおじいちゃんのお母さんが心配そうにこちらの様子を見ていた。
「島行きの船に乗ろうとしていたという兵士からの話も聞いている。怪しい奴め」
「落ち着いて下さい兵隊さん、一体何の話です?」
まあまあとなだめるようにひいおじいちゃんが落ち着いた声色で兵士にたずねた。
「先ほどの老人から軍の施設を観察していた怪しい娘がいると報告があがってな。聞けば船にも乗ろうとしていたとか。怪しげな機械で島を撮影をしていたという話も聞いている。その機械を見せろ手帳ほどの大きさだと言っていた。場合によってはこのまま連行して取り調べをしなくてはならない」
背筋が凍った。
スマホで島を撮影していたのを見られていたんだ……。でも、何で私のことをわざわざ兵士に告げ口をしたの? 息子さんが働いているって……私、何か騙されたの? 人にあの島のことを聞いてはいけなかったの? 軽率な行動をしていたことを今、激しく後悔した。
「機械? そんなもの持ってまいせんが。何の話でしょう? この娘は私の医専時代の友人の妹です。時々せん妄が見えると私のところで療養をしていたのです。失礼があったのなら私が謝ります」
そう言って兵士に頭を下げた。
「せん妄とは何だ?」
「何らかの原因で意識の混乱や幻覚が見えることです。兵士さん、あなた方もわかるでしょう。こういうご時世ですからそういう患者も多いんです。戦場でたくさんいると聞いていますよ」
兵士は心当たりがあったのか、ひいおじいちゃんから視線を逸らし下を向いた。
「何かあったとしても自分の意思での行動ではないのです。主治医は私です。あなた方の姿を見てまた症状が悪化するかもしれない。もう良いでしょう。お帰り下さい」
「そうは言っても証拠がない。もし娘をかばって我々に虚偽の報告をした場合は先生、あなたも取り調べの対象になりますが」
別の兵士がひいおじいちゃんを見据えて淡々と説明をした。
「私が嘘を言っているとでも?」
ごくりとのどを鳴らした。緊張のあまり、手がかすかに震えているのがわかる。私のせいでみんなに迷惑がかかってる。
「まずは確認をさせて下さい。撮影をしたとされる物を渡して下さい。その中に何もなければ良いでしょう」
「そんなもの持っていませんが……わかりました。夏実、身体検査をするそうだが良いか?」
「うん……」
体を触られるのはすごく嫌だけど私は持ってないし。スマホは今、ひいおじいちゃんが持っているんじゃ……? ひいおじいちゃんも念のために検査となるとスマホが見つかってしまう。ひいおじいちゃんが大変なことになるんじゃないの? 私のせいで捕まることもあるかもしれない。私のせいだ。みんなが島については触れたくなさそうにしていたのに、何も知らずに撮影して他人に聞いたせいだ。全部私のせいだ。
心臓がバクバクと鳴り、息が上手くできない。苦しい。それでも表情や態度で怪しまれないようになるべく落ち着いて気付かれないよう、大人しく両手を上げた。
上の立場らしい兵士に目くばせをされた乱暴な口調の方の兵士が私に近付いた。紫色のシアーシャツの袖の部分を触り、わきの方へとおりてきた。腰の辺りを入念に両手でぱたぱたと叩いた。布の感触以外無いことを確認すると、次にズボンを触り始めて、
「ポケットの中を見せろ」
偉そうな態度で横柄に言った。
何でこんなに高圧的な態度なの? 体を触られる気持ち悪さよりもスマホを見つけられてしまったらどうなるんだろうと、そちらの方がずっと気になる。
ポケットの裏地を引き出して何も入っていないことをアピールした。ももや膝、すねもズボンの上から触られ、サンダルも脱ぎ足を見せると兵士は別の兵士の元へと戻り耳打ちをした。
兵士達は同時にひいおじいちゃんの方を見た。
「では先生もお願いします」
そんな……。
スマホを今持っているのはひいおじいちゃんだ。それが見つかれば島を撮影したことがばれてしまうかもしれない。でも操作方法なんてわからないだろうから知らんぷりしていても大丈夫かもしれない。背中に冷たい汗をかいているのを感じる。
その時、「拷問」の言葉が急に頭をよぎった。ひいおじいちゃんを私の見ている目の前で痛めつけたりして私に無理矢理スマホの操作をさせるのかもしれない。




