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この景色の先には  作者: 汐見かわ
尋常小学校
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19/31

6-1

 やみくもに探してもしょうがないのでうさぎがいそうな場所をいくつかピックアップして探すことになった。身を隠せるような草が生い茂っているところや、うさぎを多く飼っている小学校にも行くんことになった。そこで見つかれば良いけれど。

 ひいおじいちゃんの家からは小学校が近いようなのでまずは小学校を目指して歩く。お昼用に用意されていたおにぎりと捕獲用のかご、そしてうさぎの餌用にきゅうりを持って3人で行くことになった。


「うさぎを捕まえるの?」

「いや、とりあえずかごを持って来ただけだよ。うさぎを見かけて気づいたらここにいたんだろう? 触るとか噛まれるとか接触があることが条件ではないみたいだし」

「うさぎは足が速いんですよね。ご存じです? 足の力も凄いんですよ」

「うん、すごかった。ピューって。逃げ足かな。何ともない時はぴょこぴょこしてる感じなのに」

「大きな音とかびっくりすると特にそうなるかもしれないですね。本当に暴れて――」

「暴れて?」


 芳子さんは隣りにいるひいおじいちゃんをちらりと見てから黙った。何だろうこの沈黙は。

 彼女の様子を不思議に思いつつ坂道を下りていくと二又の道があった。うさぎがいた低木のあった場所だ。

 

「ここは来た時にも見ましたよね」

「うん。そこの木の下から急に出てきたんだけど……」


 ひいおじいちゃんが低木の根元を覗きながら、枝もかき分け葉をごそごそと念入りに見ている。ズボンや裾に土ぼこりがついてしまっていた。何だか……そこまでしてもらって申し訳ない気持ちになった。私はこちらでは頼れる人はひいおじいちゃんしかいないけど、なんでここまでしてくれるんだろう。見ず知らずの、しかも未来から来たってわけのわからない事を言っている怪しい人間と思われても仕方がないのに。


「うーん、いる気配はないなぁ。それらしい毛も落ちてないなぁ」

 

 立ち上がり汚れを手で簡単に払い、先に進みだした。


「若先生も芳子さんも、あの……すごくありがたいんですけど、なんでこんなに親身になってくれるんですか? 私が嘘をついてるかもしれないのに」


 前を歩くひいおじいちゃんは足を止めて振り返り、芳子さんは不思議そうな顔をして私を見た。


「最初は驚いたが……でも、本当に困っているんだろう?」

「お家に帰りたいって言っていたし……それに」

『何だか放っておけなくて』


 2人の声が重なり、ひいおじいちゃんと芳子さんは顔を見合わせてお互いにクスリと笑った。

 ああ、私、やっぱりこの2人の子孫なんだ。切ないような締め付けられるような、胸がぎゅっとなって少し目頭が熱くなった。

 ありがとう。心の中でそうつぶやいた。


「でも……ご友人の妹さんっていうのは嘘だったってことですの?」

「え、うん……そう、なるかな?」

「夏実さんに聞いた時、おどおどしてましたものね」


 あの時は芳子さんに嘘をついたわけだけど、それは仕方がなかったというか。

 芳子さんは怒っているそぶりもなく、少し笑っていた。

 

「ひいお……若先生がそう言えって」

「診療所に若い娘を寝泊まりさせてるなんて噂が広まったらたまったもんじゃないですからね。俺のひ孫かどうかは眉唾だけどな」

「確かに……それはすさまじい衝撃で倒れてしまいますわ」

「そうですよね。うちの診療所では入院はできないってことになっているはずなのに、不公平だと思われてしまいますからね。医療に不公平はあってはならない」


 芳子さんが「衝撃で倒れる」って言ったのはそこじゃないと思うんだけど。ひいおじいちゃんってとんでもなく真面目で鈍いのかな? 芳子さんの顔を見ると目をぱちぱちまばたきさせていた。

 何とも言えない空気の中、二又の道を左に進んだ。真っすぐの道が続いていてその先の開けた土地に白い壁の建物が見えた。グレーの屋根瓦に白い壁の二階建ての建物で、建物の回りには木が植えられている。


「あの建物が小学校ですか?」

「そう。俺も通っていたし、橘高さんも通っていましたよね?」

「はい。ずいぶん前に卒業しましたけど懐かしいですね」


 自分の通っていた小学校よりも校舎の大きさはずいぶん小さかったが、校庭は広そうに見える。


「若先生と芳子さんは同い年?」

「いや違うよ。俺が6年生の時、橘高さんは……」

「3年生ですわ」

「そうでしたか。3歳下だったんですね。ああ、思い出した。浜旦那(はまだんな)のお嬢さんが入学してきたってそういえば騒がれていましたね」

「浜旦那って?」


 さっきも芳子さんが自分のことを話した時に言っていたな。とりあえずお金持ちのお嬢様ってことはわかるけど。


「この辺りは製塩業が盛んでな。塩田を所有している経営者のことだ。橘高さんは代々塩田経営しているお家でな。それはもう知らない人はいないくらい有名なんだ」

「でも分家です」

「いやいやそれでもこの地域の人の生活を支えてるって言っても過言ではないでしょう」


 率直にやっぱりなと思った。広島特有のなまりもないし、着ている物の雰囲気が違うというか……。芳子さんはそんなすごいお金持ちの家の人だったんだ。だから母もスーパーで買い出しをした時に挨拶をするかしないか迷ってたんだ。

 でも、そんな医者のひいおじいちゃんとお金持ちのひいおばあちゃんが結婚して……その子孫、私の家族は普通のサラリーマン家庭なんだけど、どうして? おじいちゃんがお医者さんじゃないから? 私もお金持ちの生活ができたんじゃないの? 欲しいものは誕生日の時しか買ってもらえなかったし、洋服はいつもネットで買っているし……またひとつ謎が増えて私の中にはもやもやが残った。


「ちょっと止まって」


 ひいおじいちゃんの声で歩いていた足を止めた。

 

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