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青木との闘いの延長線上にあるのは

すると、観客たちが

「舞斗!」

「ありがとう!」

「最高だよ!」

僕に対して声援をかけながら、僕の名前がプリントされたバナーや国旗を振ってくれた。

僕は、その声に応じるようにその場でガッツポーズをした。


「佐藤舞斗!最高の演技でした。彼は、また私たちを違う世界へと連れ出してくれました。」


実況席に座っていた田中さんがグーサインを僕に向けている。僕は、お辞儀で答えた。田中さんは、僕がシニアに上がった頃、何も分からなかった僕に優しく声をかけてくれた。そんな彼が実況席で僕の演技を解説してくれている。何とも考え深い出来事だ。


リンクサイドを見ると、鬼塚コーチが誰かと抱き合いながら泣いていた。僕は、僕を応援してくれた全ての人々に向けてお辞儀をした。僕は、やりきった。そう思えた演技だった。表現したことがより多くの人々に伝わったことを願いながらリンクサイドへと向かった。


「舞斗!さすがね!」


鬼塚コーチが勢いよく僕を抱きしめた。すると、後ろには、青木がいた。さっき鬼塚コーチと抱き合っていたのは、彼だったのだ。


「舞斗。」


彼は、僕の胸元にあるスパンコールを見ながら話しかけてきた。


「よくやったよ。」


またしても僕の鼻あたりを見ている気がする。こないだの言い合い以降、彼とは、一言も言葉を交わしていなかった。


「お前もな。」


僕は、彼の目の奥を見ながら肩を叩いた。


「舞斗、行くわよ。」


コーチがパーカー、鞄、水、タオルを僕に渡しながら、キスアンドクライまで導く。


「ジャンプ全部決まってたわよ。」


「本当ですか!良かったです。」


「青木と一緒に表彰台登れるはずよ。」


鬼塚コーチが僕にそう言ってくれた。彼とは、この間言い合ってしまったが、今は、彼の夢が実現することを心の底から応援している。僕は、祈った。


「佐藤選手の得点、220.03点、総合得点332.33点、暫定1位です。」


「よし!良かった…」


僕は安心感から涙が溢れ出した。そして急いで青木の元へと向かう。


「おめでとう!!!」


青木が涙を浮かべながら、再び僕を抱きしめてくれた。


「お前と一緒に表彰台に登れて幸せだよ。もう悔いはない。俺は、引退するよ。」


僕は、その言葉を聞いて涙を我慢することができなかった。


「なんでお前が泣くんだよ。」


訳が分からないが涙が溢れた。現時点で僕が彼の点数を上回ったのにも関わらず、僕に1番におめでとうという言葉をかけることができる君が友達で心の底から良かった。そして君の夢を叶えることができた。君と歩んだ15年間を思うと、涙が止まらなかった。


「舞斗ごめん。この間は言いすぎた。」


彼は、律儀な奴だ。こんな時でさえ、先日僕に言った言葉について謝るのである。


「いや、俺も感情的になりすぎた。ごめん。」


年齢を重ねると、謝る機会が徐々に減っていってしまう。特に有名になればなる程、周りの人達は、僕を怒らなくなる。僕が誤った道へ進んだ時に正直に言ってくれる彼を僕は、大切にしていきたい。そう思った。彼のように素直に謝ることができる人になりたい。そう思った。


「お前に言われたから色々と考えたよ。このまま諦めるのが正解なのか、続けることが正しいのか。でもとにかくこの世界選手権まではやり遂げたいと思ったし、やり遂げるならお母さんに向けた演技をしたいって思ったんだ。」


彼のおかげで諦めずに今日まで練習することができた。彼は、僕の話を静かに見守りながら聞いてくれた。


「思いは、全部ぶつけれたか?」


僕は、首を縦に振った。


「おう。届いたかは、分からないけど、思いは、ぶつけれたと思う。」


もしかしたら母は、僕に会いにきてくれないかもしれない。過去の失敗から不安がよぎった。


「なら良かったよ。思いは、伝えることに意味があるんだよ。」


彼は、そう言って僕がやり遂げたことを肯定してくれた。


「競技引退しても、僕らはずっと親友でいような。」


「おう。」


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