青木の夢への道
大会2日目。
ショートプログラム2位で終えた僕は、巻き返しを計りたいと考えていた。
そして僕と共に表彰台に登ることが最大の夢だと語っていたチームメイトであり親友である青木もショートプログラム4位につけていた。
青木は、王子様やアイドルが着るようなスパンコールがたくさんついているキラキラの衣装を身に纏っていた。
6分間練習が終えるアナウンスが流れると、選手たちが次々とリンク外へと向かった。そして青木は、リンク内に残った。
「まずはショート4位に着けました日本の青木選手です。佐藤選手とは、練習拠点が同じで8歳の頃から切磋琢磨してきた仲だと言います。青木選手は、僕はずっと舞斗の背中を追ってきた、舞斗と一緒に表彰台に立つのが夢だと語っています。その夢が近くまで来ています。」
僕は、控室へと戻る途中、アナウンサーが彼について話している言葉を聞き、目に涙が浮かびそうになっていた。彼とは、あの日以来、言葉を交わしておらず、気まずい空気が流れていたのだった。
「それでは、青木選手でMy friendです。」
彼は、世界ジュニアの時もショートプログラムは、2位発進だった。だがフリープログラムでの失敗が響き、結果4位となってしまっていた。だから今回も今日の演技が表彰台への鍵を握っていた。
名前がコールされ、彼は、リンクの中央へと足を進めた。最初のポーズを取った手は、微かに震えていた。表情も強張っており、自信がなさそうに見えた。だが音楽が流れた瞬間、他の誰かが彼の中に入ってしまったのではないかと思えるほど自信に満ちた表情へと変化した。
僕は、控室で彼のその表情を見て、安心し、自分の準備を始めた。
僕は、ウォーミングアップの為、走り続け、イヤホンを装着した。しばらくすると、イヤホン越しに大人たちの歓声が聞こえた。
「青木、ノーミス?」
「おう。これ、点数出るんじゃないか?」
「え?青木ノーミス、いつぶり?」
「4回転も全部決めたよな?」
僕は、イヤホンを外し、控室にあるモニターに注目した。
「青木選手、圧巻の演技でした。ジャンプ全て揃えてきました。」
テレビの音声が割れる程、アナウンサーの声が大きく聞こえてきた。
「後半のトリプルアクセルだったり、ジャンプ1つ1つの質が高かったですね。GOE、出来栄え点の方でも加点されると思います。」
実況の山本さんの声も涙声だった。山本さんは、青木の大学の先輩でずっと可愛がってもらっていた。そんな可愛い後輩の青木がノーミスで演技を揃えたのだ。しかも世界ジュニアの時に失敗した後半のトリプルアクセルも決めたのだ。
「青山選手の得点が楽しみです。暫定1位になるためには、160点が必要となってきます。果たして160を超えてくるでしょうか。」
客席中が歓喜に沸く中、アナウンサーが冷静に言葉を発した。160点を越えることができれば、現時点で4位以上確定となる。
「青木選手の得点、161.08点、総合得点246.83点、現在の順位は1位です。」
「161.08点!超えた!!!青木選手、なんと161点超えてきました。暫定1位です。」
先程まで冷静だったアナウンサーが取り乱れたように言葉を連呼した。そしてそんな自分に気づいたのか、椅子へと座り直した。
キスアンドクライに座る青木と鬼頭コーチ。青木は、頭を抱えていた。下を向きながら泣いているようだった。
「よく頑張ったね。」
鬼頭コーチが青木に声をかける。青木は、静かに頷いた。だが安心するのは、まだ早い。まだあと3人残っている。表彰台に登れるかは、残りの選手にかかっている。
「続いて登場するのは、ショート3位のステファンミュラー選手です。青木選手を超えるには、151.79という得点が必要です。超えることはできるでしょうか。ステファンミュラー選手で未来です。」
ステファンミュラー選手は、まさかの冒頭のジャンプを失敗し、続く4回転ルッツも転倒、そして最後のトリプルアクセルからの3連続のジャンプも降りることができなかった。そして得点は、150.03点、総合得点245.08点、暫定2位だった。
「来たーーー!!!ステファンミュラー選手2位です。ここで青木選手の表彰台が確定しました!シニアに上がって初めて世界選手権でのメダル確定です!」
もう冷静では居られないと感じたのか、アナウンサーは、机より身を乗り出した。
控室でモニターを見ていた青木がその場で泣き崩れた。
「くうっ くっくっ ううっ うっうっ」
その姿を見た鬼塚コーチが彼を抱き寄せた。
「せんせぇぇぇ」
「良くやった!!!神様が見てくれていたんだよ。」
すると、演技を終えた選手たちが自分達の悔しさよりも彼のなし遂げたことを讃えていた。
彼の背中をさすっていた鬼塚コーチが僕の元へとやってきた。
「よし!舞斗行こうか。」
さすが多くのスター選手を抱えている先生だ。切り替えがプロ並みだ。
「佐藤選手とのW表彰台見てみたいですね。」
僕がリンク近くへと歩みを進めると、実況の田中さんの声が耳に入ってきた。その言葉は、いい意味でも悪い意味でも僕にプレッシャーをかけてくれた。
ステファンミュラーが下を向きながら、控室と向かう姿が目に入ってきた。先程まで僕が見ていた景色とは、似ても似つかなかった。喜ぶ者がいる反面、必ず涙を流す者もいる。これが戦いという場である。
彼と交代する様に、僕は、リンクインした。
「フリーに選んだ曲は、側にいてくれる君へです。この曲は、幼馴染への恋心に気付いていない主人公が彼女への想いに気付くまでの物語の曲です。どのように表現するでしょうか、佐藤選手の演技です。」
この曲が流れた瞬間、昨日のリサとの喧嘩を思い出していた。今感じた感情を大切に、僕は、僕にしかできない演技を目指した。ジャンプは、全て成功。その後のステップ、コレオ。ここに僕の残りのエネルギー全てをかけたのだ。僕は、最後のポーズを決めた時、全ての力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。




