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45 約束

 翌日の日曜日。


 紀夫達四人は午前中に大阪城などを散策し、午後の早い時間には新幹線に乗っていた。当初はグリーン車に乗る予定にしていたがグリーン車は全席二人掛けシートの為、誰が紀夫の横に座るのか揉めた。揉めた結果、三人が同じシートに並んで座れば抜け駆けにならないという訳の分からない結論に至り、普通車の指定席で三人掛けシートに窓側から真里、貴子、楓。通路を挟んで二人掛けシートの通路側に紀夫が座る事となった。


 昨夜、真里が紀夫の部屋で泣いていた現場を見た楓と貴子は、紀夫が無理やり真里に迫ろうとしていたのではないか?と誤解したのだが、真里が違うのだと説明して一応納得はしてもらえた。自分から紀夫に迫った事は流石に言えなかったので、その辺りは誤魔化しだのだが。

 紀夫は真里をジト目で睨むと真里に『えへ!ごめんなさい』と軽く謝られ、毒気を抜かれてしまってそれ以上は真里に強くでれなかった。


 新幹線は京都駅に着いた。京都観光を終え帰宅の途に就く乗客達で乗車率が一気に上がった。


「あれ?真里ちゃんじゃないか。」


 通路を歩いていた青年が楓の横に立ち止まると、窓側に座る真里を見て声をかけてきた。


「あら、圭吾さん。お久しぶりです。」

「久しぶりだねぇ。元気にしてた?」

「ええ、見ての通りですよ。」


 真里に圭吾と呼ばれた青年は真里をジッと見つめた。


「そうだね、元気そうだ。それと、前に会った時より美人になってる。」

「はいはい。圭吾さんの軽さも以前に比べて磨きがかかってますよ。」

「軽いだなんて酷いなぁ。僕はいつでも真面目なんだけどなぁ。」

「自分を真面目だと言う人ほど不真面目なんですよ。圭吾さんに限ってですけど。」

「それ、偏見だ!」

「あはは、冗談ですよ。ところで圭吾さん。いつまでも通路に突っ立ってると他の方の迷惑になりますよ。」


 新幹線はいつのまにか京都駅を離れていた。車内販売のワゴンが車両に入ってきたのが視界に入る。


「圭吾さんの座席はこの車両なんですか?」

「ああ、5のE席なんだ。」


 5は真里達が座っている座席列、E席は二人掛けシートの窓側、すなわち紀夫の横の席であった。紀夫はそれを聞いて立ち上がると通路に出た。


「ありがとうございます。」


 圭吾はそう言うと窓側の席へ体を滑り込ませ着席した。圭吾が座ったのを確認して紀夫も席に座る。


「不躾で申し訳ないのですが…」


 圭吾が紀夫に声をかけてきた。


「はい、なんでしょうか?」

「席を代わってもらうことはできませんか?」

「貴方とですか?」

「いいえ、違います。向こうの窓側に座っている女性と。」


 紀夫は真里を見た。真里は少し嫌そうな顔をしたのだが、すぐに元の表情に戻すとペコリと紀夫に謝った。


「ああ、いいですよ。」


 紀夫が再び立ち上がり通路へと出る。


「楓さん、佐伯さん。ごめんなさい。」


 真里がそう言って立ち上がると楓、貴子の二人も立ち上がり通路へと出た。真里が紀夫の座っていた圭吾の横に座る。


「じゃあ貴子は窓側ね。紀夫は真ん中の席。私は通路側に座るわ。」


 楓がそう言って座席の並びを仕切った。貴子がやれやれと言った感じで先に窓側の席へと座った。紀夫が続いて真ん中の席に座ろうとした時、真里が言った。


「紀夫さんは通路側に座って下さい。お願いします。」


 真里が紀夫に通路側に座る様に言った。紀夫は楓と貴子の顔を見る。貴子は何か知っている様子で仕方がないとい感じで頷くだけだった。


「真里さん。少し我儘が過ぎない?」

「楓さん、今だけは許してくれない?」


 楓が紀夫の顔を見ると黙って頷くので楓は何も言わずに真ん中の席に腰を下ろした。最後に紀夫が通路側に座る。

 貴子、楓、紀夫、通路を挟んで真里、圭吾という並びとなった。


「真里ちゃん。」

「なんですか?」

「あちらの三人とは知り合いなのかな?」


 先ほどのやり取りを見ていた圭吾が真里に尋ねた。


「ええ、そうですよ。」

「紹介してもらっても?」

「そうですね。」


 そう言って真里は通路の反対に座る三人を見た。三人ともコクリと頷き同意した。


「こちらは伊集院圭吾さん。私の従兄になります。」

「伊集院圭吾です。東都大学三年生です。宜しく。」


 圭吾は三人に向かってペコリと頭を下げた。


「私は佐伯貴子と言います。宜しくお願いします。」

「吉田楓と言います。」

「久保田紀夫です。宜しくお願いします。」


 紀夫と貴子は真里の従兄という事もあり丁寧に挨拶したが、楓は相手が真里の従兄だという事は関係がないので名前だけを名乗った。


「佐伯さんはお爺様の秘書をされてるの。」

「何度かパーティ会場で見かけた事があったけど、そうか。兼吉(かねよし)さんの秘書さんか。」

「あら、佐伯さん。そうなの?」

「ええ、何度か。ご紹介していただく機会がなかったので、お名前は存じてませんでしたけど。」

「僕の事、覚えてくれてたんだ。美人に覚えもらってて嬉しいなぁ。」

「ほら、また軽い事を言う。佐伯さん、嫌がってるわよ?」

「美人を美人と言って何が悪いの?ねぇ、佐伯さん。」

「そうですね。伊集院様の様な美男子に美人と褒められて嫌な気がする女子はいないと思います。」


 圭吾は女性向けマンガに出てきてもおかしくない美男子だった。だがノリの軽さが容姿に似合わない。貴子はこう言った軽薄そうな男が苦手だ。本音としては圭吾に褒められた事を嬉しく思っていない。


「ほら、佐伯さんもああ言ってるよ?」

「はいはい。社交辞令を真に受けるとか、どうなんでしょうね。」

「真里ちゃんが冷たい!」

「今に始まった事ではありませんよ。」

「酷い!」


 圭吾に合わせると話が進まないので、真里は次に紀夫を紹介した。


「紀夫さんは私の専属秘書をしてくれています。」

「あ、そうか。今月から取締役に就任したんだったね。」

「ええ。」

「久保田さん、ご愁傷様です。」

「えっと、それはどう言う意味ですか?」

「いや、何と言うか…真里ちゃんて自由奔放な所があるから、振り回されるんだろうなって思うと…」

「同情ですか?」

「あ、それそれ。同情します。」


 あははと笑う圭吾を真里は冷めた目で一瞥(いちべつ)した。


「…それで、真ん中に座っている女性…吉田さんはどういった関係?」

「楓さんは…」


 真里は言葉に詰まった。楓の事をどう紹介すれば良いのか困ったのである。


「私は紀夫の恋人です。」

「は…はいっ?」


 楓の自己紹介に圭吾は戸惑った。紀夫も貴子も佐々倉に直接関係している人物だとわかる。だが楓は紀夫の恋人だというだけで佐々倉に直接関係していない。真里と楓の関係性が見えないから戸惑ったのだ。


「えっと…では吉田さんは久保田さんの恋人で、真里ちゃんとは久保田さんを介しての知人?いや友人という事かな?」


 なんとか正解であろう関係性を圭吾は口にした。


「友人ではないわ。」


 楓は圭吾の言った事を否定した。


「そうですね。友人ではないですね。」


 真里も楓の言った事を肯定した。


「あれ?では、単なる知人?」

「ええ。楓さんはもうすぐしたら紀夫さんの元カノになる人。」

「な!何を言ってるの!この泥棒猫!」

「泥棒猫とは心外ですね。それより紀夫さんと早く別れて下さい。」


 楓と真里がギャーギャー煩くなってきたので、間に挟まっている紀夫はゲンナリとしてきた。


「ちょっと冷静に!」


 そう言ったのは圭吾だった。楓と真里は圭吾に言われ少し落ち着きを取り戻す。


「真里ちゃん。久保田さんは真里ちゃんの秘書なんだよね?」

「ええ、そうですよ?」

「今の吉田さんとのやり取りって…まるで恋人を取り合ってケンカしてるみたいだったけど?」

「恋人?」

「うん、恋人。」

「それ、認識を間違えてますよ。紀夫さんは私の婚約者です。」

「え!」

「私は認めてないわ!」

「楓さんが認めようと認めまいと、紀夫さんと私が結婚する事に変わりはありません。」

「ちょっと待って!」


 圭吾は思考が追いつかず、少し声を荒げた。


「真里ちゃん。僕との約束はどうするの?」

「圭吾さんとの約束?」

「そう、約束。」

「何か約束をしましたか?」

「したよ?」


 真里は思い出そうとしてウーンと唸ったが思い出せない。


「思い出せない?」

「ごめんなさい。何を約束したのかしら?」

「結婚…」

「はい?」


 圭吾から思わぬ単語が飛び出てきて真里は思わず呆けた相槌を打った。


「僕と結婚するって言ってくれたじゃないか!」

お読みいただきありがとうございました。


(`-ω-)y─ 〜oΟ

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