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44 焦り

どうか運営様の教育的指導がありませんように…祈

 紀夫と貴子がゴンドラを降りると、楓と真里が待っていた。二人の顔は能面の様に感情がなかった。

 いや、感情が無いと言うと能面には申し訳ない。能楽師や狂言師がかぶる面は感情が豊かだ。下を俯けば悲しそうな表情になるし、上を向けば目尻を下げ嬉しそうな顔になる。

 今の楓や真里と比べると、能面の方がはるかに感情は豊かだろう。それだけ二人の表情には凄みがあるという事だ。


「さ・え・き・さ・ん?」

「た・か・こ?」


 二人が声を揃えて貴子に呼びかけた。その声はどちらも低く、抑揚のないフラットな呼びかけだった。それに対し貴子は、


「あはは。ごめんなさい。」


とあっけらかんとした感じで謝った。真里はキッと貴子を睨みつけるが、貴子はノホホンとして真里の視線を受け流す。ギュッと握りしめられた真里の両拳はプルプルと震えていた。楓はハァと溜息を吐いた。


「ここで止まってると邪魔になるから行こう。」


 紀夫がそう言って出口に向かって歩き出すと貴子は『そうね』と答えて後に続いた。楓と真里は黙って渋々と続く。


 貴子がチラリと後ろを振り向くと、千円札を握らせた係の女の子と目があった。声を出さず『ありがとう』と言ったら、彼女は貴子の口の動きを見て察したのか右手で握り拳を作るとガッツポーズを決めた。貴子の口元が少し緩んだ。


「この後、どうする?」


 紀夫が三人に訊いた。


「私、お腹が空いてきた。」


 そう言ったのは貴子だった。


「そうね、一旦ホテルに戻らない?梅田の地下街とかなら、食べ物屋が色々とあるでしょ。」


 楓がそう言うと紀夫と貴子は同意した。


「真里さんも、それでいいかしら?」


 楓が問いかけると、真里は黙って頷いた。


 タクシー乗り場でタクシーに乗り込みホテルへと向かう。紀夫がタクシーの助手席に、三人は後部座席に乗った。

 ホテルに着くまで四人は会話をする事がなかった。異様な雰囲気を察したのか運転手も紀夫達に話しかける事はなく、粛々と運転をするだけだった。


 ホテルに着くとそのまま地下街へと足を向ける。紀夫が大阪に来るとよく行くという串カツの店に入った。四人とも社交性は持ち合わせているので、食事の時は楽しく過ごそうとそれなりに会話は成り立っていた。


「私、こういったお店初めて。これはなんですか?」


 真里がそう言ってテーブルに置かれていたステンレスの入れ物を指差す。深さのある入れ物の中にはソースが並々と入っていた。


「こういった庶民のお店って、お嬢様は立ち寄る機会が無いからもの珍しいでしょうね。」

「ええ、なんだかワクワクします。」


 店員が注文した串カツを持ってきた。揚げたてで美味しそうだ。紀夫が串カツを一つ持つと真里に言った。


「そこに入ってるのはソースだ。こうやって串カツを浸すんだよ。」


 紀夫は串カツをソースにサッと浸すと、串カツを口にする。


「お嬢様、ソースは二度漬け禁止というルールがあるんですよ。」

「二度漬け禁止ってなんですか?」

「久保田君がした様に、このソースは串カツを浸します。ソースの容器はテーブルに一つしかありません。皆んなで一緒に使います。一度口にした食べかけをもう一度ソースに浸すのは衛生上良くないので禁止なんですよ。」

「なるほど。言われてみると、そうですよね。」


 貴子の説明に真里は納得した。


「え?そうだったの!」


 そう言ったのは楓だった。


「『え?』って、楓。知らなかったの?」

「ええ、知らなかった。じゃあ、アレはやってはいけなかったのね。」


 楓は以前、同僚と仕事で大阪に来た時、串カツ屋で二度漬けをしていたと打ち明けた。


「楓、それは無いわぁ。誰も注意しなかった?」

「ええ。でも皆んなが顔を引きつらせてた気がするわ。」


 真里が可愛そうな者を見る様な眼差しで楓を見た。


「まあ、なんだな。旅の恥はかき捨てって事にしとけ。知らなかったんだから仕方ない。それより、串カツが冷めてしまうから早く食べよう。」


 紀夫のフォロー?に楓は『ありがとう』と言った。


 串カツを心ゆくまで堪能し、四人はホテルへと戻った。飲みに行くか相談したが、暑い中、一日中外を歩き回ったので疲れている事もあり、おとなしく寝ようということになったのだった。


 紀夫は部屋に入るとすぐに風呂に入った。浴室から出るとTシャツとジーンズを身に纏った。濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながら、備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り、プルタブを開けるとゴクリと飲んだ。ラッキーストライクを口に咥えて火をつける。ソファに座るとフーッと煙を吐いた。


♪ピンポーン


 部屋のドアチャイムが鳴った。紀夫は煙草を灰皿に揉み消すと立ち上がり、ドアへと向かう。ガチャッとドアを開けると真里が立っていた。真里も部屋に戻って着替えたのであろう。緑のTシャツにデニムのホットパンツという肌の露出が多い格好をしていた。いつもは清楚な服装をしている真里からすると過激な印象を受ける。


「どうした?」

「紀夫さんと少しお話がしたくて。入ってもいいですか?」

「ああ、いいぞ。」


 紀夫は真里を招き入れドアを閉めた。真里はソファに座らず、ベッドの端に腰を下ろした。


「何か飲むか?」

「いいえ。紀夫さんはビールを飲んでたんですね。」


 真里はテーブルに置かれた缶ビールの缶を見やる。


「ああ、風呂上りのビールは格別だからな。」

「なんだかオジサン臭い!」

「自覚はしてる。現役女子高生からすると、俺なんかオッサンだろ?」

「ウフフ…冗談ですよ。紀夫さんはオジサンではありません。」

「そうか。」


 紀夫は飲みかけの缶ビールをグビッグビッと飲み干した。

 紀夫がソファに座ろうとすると、真里は左手でベッドをポンポンと叩く。


「紀夫さん。こっちに座って下さい。」


 真里に促され、紀夫は真里の左横に腰を下ろした。刹那、真里が紀夫の方へ体を向けると右手を紀夫の左肩に当てて力一杯押した。紀夫の体はバランスを崩しベッドへと背中から倒れ込む。真里も同じくベッドに倒れると、紀夫の上に体を移動し伸し掛かった。


「真里。何してる…」


 紀夫が何か言おうとしたが、声が続かなかった。真里の唇が紀夫の口を塞いだからだ。真里の舌が紀夫の咥内を侵略し始める。真里による咥内暴力が始まった。時折、『ん…ンッ…』と真里が嬌声をあげる。一、二分ほどして真里が紀夫の口を解放した。ツツーと透明な細い糸が二人の唇の間を繋いでいたが、それもプツッと切れた。


「ビールの味がしました。」


 真里は組み伏している紀夫の目をジッと見つめながら言った。


「ビールの味を知ってるのか?」

「いいえ。でも今、知りました。結構、ビール好きかもしれません。」

「未成年なのにビールを好きになっちゃダメだろ。」

「覚えてしまいました。紀夫さんのせいです。」


 そう言うと真里はもう一度、紀夫の唇を求めた。真里の咥内暴力が再び始まる。しばらくして真里が唇を離した。


「どうしたんだ?」


 真里は紀夫に対しいつも積極的であるが、今の真里はいつも以上に感じられる。


「私にもわかりません。」


 真里は素直に今の気持ちを答えた。真里自身も何故、いつも以上に積極的なのかわからなかった。


「わかりませんが、こうしていないと落ち着かないと言うか、ダメな気がすると言うか…」


 真里の視線は紀夫の目に固定されている。


「佐伯さん、魅力的な女性(ひと)ですよね。頭もいいですし。」

「うん、そうだな。」

「楓さんもです。美人な上に料理が上手とかチートです。」

「あはは、楓の料理の腕は確かにチートだ。」


 真里は体を少しずらして顔を紀夫の胸に押し当てる。スンスンと匂いを嗅いだ。


「煙草の匂い…」

「さっき吸ってたからな。」

「紀夫さんの匂い…好きです。」


 そう言うと真里はまた、スンスンと匂いを楽しみだす。

 真里の頭は紀夫の胸に乗っている。真里の頭頂部がちょうど紀夫の鼻の辺りにあり、真里が発するいい匂いが紀夫の鼻腔を刺激する。


「紀夫さんからすると、私なんて未だ未だ子供なんでしょうね。」

「ん?そんな事無いぞ。」

「私、魅力ありますか?」

「ああ、真里は魅力的だ。」

「紀夫さんはオッパイ星人ですよね?」

「ああ、否定はしない。」


 真里は左腕の肘をついて体を少し浮かす。紀夫の左手首を右手で掴むと、自分の右胸へと誘導した。紀夫の掌がたわわな真里の右胸へと触れる。


「おい。」

「なんですか?」


 紀夫の掌は柔らかい肉塊の先にある突起をTシャツ越しに感じた。真里がノーブラだという事は真里が上に伸し掛かった時にわかっていたが、この様な展開になるとは予想していなかったので敢えて言わなかった。


「ブラしてないのか?」

「その方が紀夫さん的に良いでしょ?」


 紀夫に密着している真里の下腹部が、硬い棒状の感触を覚えた。真里は嬉しくなり、口角がグイッと上がる。


「今の私の魅力と言えば、無駄に大きくなった胸しかありません。紀夫さんの好きにして下さい。」

「いや、それはマズいだろ。」


 紀夫は左手を真里の胸から離した。


「さっき私の事を魅力があると言ってくれたじゃない。」

「ああ、言った。」

「では何故、私に魅了されてくれないの?」


 真里の目に涙が滲んできた。


「やっぱり私が子供だから?」


 遂に真里は泣き出した。ウェッウェッと嗚咽している。


♪ピンポーン


 ドアチャイムが鳴った。紀夫は優しく真里をのかすとドアに向かって行った。真里は仰向けになり、顔を両手で覆うと咽び泣きを続けた。

 ガチャッとドアを開けると、楓と貴子が立っていた。


「どうしたんだ?」

「お嬢様が部屋に居ないの。久保田君のところに来てない?」


 貴子がそう言っている間に楓が部屋の中を覗き込む。部屋の奥からウェッウェッと泣き声がする。楓がスルリと部屋の中へと入った。貴子も楓の動きに何かあると感じ、サッと部屋の中へ入った。

 ベッドの上で仰向けになり嗚咽する真里を二人は見た。


「紀夫〜!」

「久保田君!」


 紀夫の方を振り向いた二人の顔は表現し難いほどに恐ろしかった。


「「そこに正座しなさい!」」

「ちょっと待て。二人とも何か勘違いしてるぞ!」

「「問答無用!座りなさい!」」


 二人に命令され、紀夫はその場に正座した。

お読みいただきありがとうございました。


(`-ω-)y─ 〜oΟ

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