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43 ファーストキス

 楓と真里がたこ焼きを食べ終えると同時に、ブルルと紀夫のスマートフォンが振動した。ディスプレイには『佐伯貴子』と表示されている。紀夫は応答ボタンをタップした。


「もしもし。」

『もしもし。今タクシーを降りたわ。どこにいるの?』

「ショッピング施設のフードコートにいる。」

『もしかしてお昼食べちゃった?』

「いや、まだだ。」

『そう、良かった。今すぐ行くから待ってて。』

「わかった。」


 電話を切って程なくすると、貴子がフードコートに姿を現した。


「あら、貴子。どうしたの?」


 楓は貴子を見て、なぜここにいるのか?と不思議そうにした。


「ちょっと手違いがあってね。予定が狂っちゃった。合流してもいい?」

「いいも何も、既に来てるじゃない…」


 楓はハァと溜息を吐いた。仕方ないなという消極的肯定だ。


「お嬢様もいいですか?」

「私はかまいませんよ。」


 貴子は真里にも訊いた。真里も内心は穏やかでないものの、拒否はしなかった。


 貴子がお腹が空いたと言ったので、施設内にある和食レストランで昼食をとった。楓と真里はたこ焼きを食べたので、にぎり寿司八貫盛りを。貴子はせっかくの大阪だからと言って、バッテラや鯖、鯛などの箱寿司盛り。紀夫はちらし寿司を堪能した。


 食後は海遊館へと入った。


「わぁ〜!大きな口〜!」


 真里が眺める巨大な水槽の中では、大きなジンベイザメがゆったりと泳いでいた。海遊館の巨大水槽による展示は海遊館が開館した当時、それまでの国内にある水族館にはなかった手法で一躍話題となった程である。

 真里がジンベイザメを気に入ってしまい、巨大水槽から移動しようとしないため、紀夫達はその場でしばし足止めとなった。


「真里、そろそろ次へ移動しないか?」


 真里が動きそうもないので紀夫が声をかけた。


「あ、うん。そうですね。」


 我に返った真里が水槽から視線を外し、後ろにいる三人を見た。


「よくもまぁ、飽きずに見てたわね。」


 楓が呆れた様に言った。


「え?私、そんなに夢中になってました?」

「ええ。」

「どれくらい?」

「三十分よ。」

「すいません!」


 真里は頭を下げた。


「いいわよ。次に行きましょう。」


 楓に急かされ四人は館内を順路に従い進んでいった。

 その後、クラゲの展示コーナーの幻想的な雰囲気で再び真里の足が止まり、海遊館を出た時には既に十六時半を回っていた。


「この後、どうするの?」


 楓がが紀夫に尋ねた。


「ねえ。あれに乗らない?」


 そう言ったのは貴子だ。彼女が指差す方を見ると、帆船を模した遊覧船が丁度港に帰ってきたところだった。


「遊覧船か。良いかもな。」


 紀夫は頷いた。


「でしょ?お嬢様はどうですか?」

「良いですね。乗りましょ。」


 真里も同意した。貴子が楓を見ると、楓も頷いた。遊覧船の乗船券を購入して乗り場へと降りていった。

 護岸に停泊している遊覧船はコロンブスが大西洋横断に使用したサンタ・マリア号を模している。

 四人が乗り込んでしばらくすると、ディーゼルエンジンの音を唸らせながら岸壁から離れた。マストはあるのだが帆は張られていない。


「観覧デッキにあがりましょ!」


 観覧デッキは前後にある。真里が前部のデッキに向かって走りだした。


「走ると危ないわよ!」


 楓が真里を追いかけていく。紀夫と貴子は二人の背中を見ながらゆっくりと歩きだした。


 船は一旦、安治川を少し上り広くなったところで左旋回をし、下りだす。右舷にUSJがチラッと見える。ゴーッとジェットコースターの音とキャーッと言う奇声が聞こえる。


「何かあった?」


 紀夫は隣に立つ貴子に訊いた。


「え?」


 貴子は首を右に振り、紀夫の顔を見た。紀夫は真っ直ぐ前を見ている。


「いや、なんて言うか…あまり喋らないから、どうしたのかなと。」

「そういうとこなのよね。」

「ん?」


 紀夫が顔を左に向け、貴子の顔を見る。


「なんでもない。私は大丈夫よ。」

「そうか。」

「うん、ありがとう。」


 貴子はニコリと笑ったが、いつもの様な陽気な笑いではなかった。


「紀夫さーん。こっち来て!」


 真里が紀夫を呼んだ。


「どうした?」

「いいから、早く!」


 真里はデッキの一番前に立っていた。紀夫が近づいて来ると、


「私の後ろに立って下さい。」


と言った。紀夫は言われるまま真里の後ろに立つ。


「私の腰に手を回して下さい。」


 紀夫は真里の背中に寄り添うと手を真里の腰に当てた。潮風に煽られる髪が紀夫の顔に少しまとわりつく。真里のうなじからコロンの香りがフワッと鼻の奥をくすぐった。

 真里が両腕をスッと水平に広げる。


「『タイタニック』だな?」

「ええ。」

「今時、こんな事やってる人はいないぞ?周りを見てみろ。」


 一緒に乗船している他の観光客達は、少し冷ややかな視線をチラッと二人に浴びせると、すぐに目を逸らしていた。


「あはは。やっちゃいました?」

「ああ。というか、このシーンをよくも知ってたな。」

「紀夫さんもご存知じゃないですか?」

「まあ、有名なシーンだからな。」

「ですよね。でも、私は少し違うんですよ。」

「ん?どういう事だ?」

「昔、両親と一緒に旅行に行った時、フェリーか何かに乗った事があるんです。その時、両親がデッキの先頭で楽しそうにこうやっていたんです。その頃の私は何をやってるのかわからなかったんですけど。最近になって、ネット配信で『タイタニック』の映画を観てたら、このシーンがあって…」


 真里は手を下ろすとクルリと百八十度回転し、紀夫と向き合った。


「好きな人と船に乗る事があったら真似してみたいなと思ってた次第です。」


 そう言って真里は紀夫の胸に顔を埋めた。


「貴方達、何やってるのよ!」

「こんなに日の明るい時間に、よくやるわね。見せつけられてる私の方が恥ずかしくなるんですけど?」


 楓と貴子に言われ、真里はハッとなって紀夫から離れた。周囲の観光客達は見て見ぬフリをしていた。真里は真っ赤になった顔を両手で隠して、『恥ずかしい〜』とワーワー喚いた。


 遊覧船は四十分程クルーズして元の船着場へと戻った。遊覧船を降りた四人は再び海遊館の前に戻って来た。

 時刻は十八時前。太陽がようやくと傾き始め、差し込む日差しも少し赤みを帯び始める。


「次はあれに乗りますよ!」


 真里は観覧車をビシッと指差す。乗り場へ行くと、思ったほど混んではいなかった。チケットを購入して乗車待ちの列に並ぶ。

 いよいよ乗り込む順番となった。


「何名様ですか?」


 大学生のアルバイトだろうか。乗車案内の係員が人数を訊いてきたので真里が『四人です』と答えた。貴子が係員の女の子のそばに行き小声で何かを言った。バレない様に隠しながら、彼女の手にそっと千円札を握らせる。


「どうぞ乗って下さい。」


 係員の指示に従い、真里、楓の順にゴンドラに乗り込む。


ガチャン


 係員がゴンドラのドアを手動で閉め、落下防止の為の鍵をかけた。


「え?」


 ゴンドラのドアを閉められ、驚いた真里と楓は、ゴンドラの外にいる紀夫と貴子を見た。紀夫は驚いた顔をしていたが、貴子は満面の笑みを浮かべて手を振っていた。


「ちょっと!どう言う事?」


 楓はドンドンとゴンドラの窓を叩くが、観覧車のホイールは回り続けている。無常にも二人を乗せたゴンドラは紀夫、貴子の元を離れていった。次のゴンドラが乗り場へと回って来る。


「どうぞ、乗って下さい。」


 案内をする係員の顔がニコリと笑った。貴子は『ありがとう』と言いながらゴンドラに乗り込む。紀夫が続いて乗り込むとドアを閉め鍵をかけた。貴子が係員の女の子に手を振ると、彼女はサムズアップのポーズを決め『頑張って下さい』と貴子に向かって言った。


 紀夫と貴子は向かい合う様にして座った。


「佐伯さん。」

「はい。」

「あの係員の子を買収しただろ?」

「なんの事かな?」


 貴子はゴンドラの外を見る。眼下に大阪港の風景が広がる。USJのアトラクションに並ぶ大勢の人の列が見て取れる。


「まあ、いいや。二人だけになりたかったのには、何か理由があるんだろ?」

「久保田君、さすがね。」

「何があったんだ?」


 貴子は黙ったままだった。ゴンドラは静かに上昇を続けいく。頂点の半分の高さまで来たところで貴子は口を開いた。


「信用していた人にちょっとした裏切り行為をされたの。」

「そうか。」

「私、彼女達に腹が立って辛辣な態度をとった。」

「そうか。」

「でね。今、冷静に考えてやりすぎだったかなって…」

「そうか。」

「さっきから『そうか』しか言ってくれないね。」

「すまん…」

「ううん。それで良いの。久保田君らしいから。」

「そうか?」

「そうよ。」

「そうか…」


 外を見ていた貴子は顔を紀夫に向けると、ウフフと笑った。紀夫はポリポリと自分の頬を右手で掻いた。


「でもね。その根本的な原因は久保田君にあるのよ?」

「なんの事だ?」


 貴子は腰を浮かすと紀夫の隣に座った。貴子と紀夫の視線が絡みあった。


「久保田君。好きよ…大好き。」


 楓と真里が乗ったゴンドラは頂点に達しようとしていた。楓達が乗るゴンドラからは少し低い位置にある紀夫達のゴンドラの中が覗ける。


「あ!佐伯さん、ダメッ!何しようとしてるの!」


 真里が紀夫達のゴンドラを見てドンドンと窓を叩く。楓も隣のゴンドラを覗いた。


 貴子が顔を紀夫の顔に近づけ、紀夫の唇に自分の唇を重ねていた。


「貴子!離れなさい!」

「紀夫さんも嫌がりなさいよ!」


 二人がいくら叫ぼうが、紀夫達のゴンドラに声は届かない。


 長い口付けから唇を離した貴子は紀夫の耳に口を近づけてボソッと囁いた。


「私のファーストキス。やっと久保田君に捧げられた…」

お読みいただきありがとうございました。


【タイタニック】

1997年公開のハリウッド映画。

タイタニック号で知り合った男女の悲恋物語です。

タイタニック号の舳先でローズ(ケイト・ウィンスレット)が両手を広げ、ジャック(レオナルド・デカプリオ)が後ろから抱いているシーンは当時、バカップル達の間で大流行でした。

観光船やフェリーなんかで真似してるのをよく見かけましたね。



筆者ですか?

黒歴史です…orz



(`-ω-)y─ 〜oΟ

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