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38 年齢相応

サブタイトル変えました

 翌週の水曜日の午後。


 紀夫は昼食を済ませると聖神女学園へ真里を迎えに行った。迎えとはいえ学校内には立ち入れないので校門前で落ち合う事になっている。車が校門前に到着すると、既に真里は校門前で待っていた。


「おい、真里。なんとかしてくれ。」


 後部座席から紀夫が降り立つと六人の女子高生に囲まれてしまい、真里に助けを求めた。


 矢須田美也子(やすだみやこ)

 三津井涼子(みついりょうこ)

 角共京華(すみともきょうか)

 岩咲桃子(いわさきももこ)

 登世太芹香(とよたせりか)

 登世太香里奈(とよたかりな)


 真里の親友達が校門前で待っていて、紀夫が車を降りるや(かん)(はつ)を容れず取り囲んでしまったのだ。


「凄いイケメンね。」

「いいなぁ、真里。」

「そうだ!私をバイクに乗せて下さい!」

「私もバイクに乗りたい!」

「後ろから押し付けたいです。」

「私は紀夫さんに乗りたい。」


 紀夫は女子高生パワーに圧倒されタジタジとなっていた。


「皆さん、紀夫さんが困ってるのでやめなさい。香里奈、押し付けていいのは私だけです。それと涼子。最後にしれっと何か言いましたね?」


 涼子は『私、なにか言いましたっけ?』と言う様に、胸の前で腕を組むと右手の人差し指を顎に当て、ハテ?と考え込む様なあざといポーズを決める。


「私もまだ乗ってないのですよ。どちらかと言うと紀夫さんに乗って貰いたいですけどね…」


 真里の言葉に六人はジト目を向けた。紀夫は眉間のシワを人差し指と親指で摘み、揉みほぐしていた。


「そろそろ行かないと乗り遅れるぞ。」


 紀夫は左腕のロンジンを見た。十四時を少しまわっている。真里は慌てて車の後部座席へと滑り込んだ。紀夫が続いて乗り込みドアを閉めた。

 紀夫が窓を開けると真里は六人に声をかけた。


「では明日、明後日の授業のノート取りをお願いしますね。」


 六人が『任せて』と応えるのを聞き、『では、ごきげんよう』と言いながら真里が手を振ると車は走り始めた。


「ふぅ〜。しかし、なんだな…」

「どうしました?」

「真里の友達って…」

「あの子達がどうかした?」

「類友だな。」

「な…なんですって!」

「ガンガンとくるところとかさ。似てるなって思うと…」


 紀夫がプププと思い出し笑いをした。


「わ…笑いすぎです!それに私は彼女達ほど厚顔ではありませんよ?」

「いや…『人の振り見て我が振り直せ』と真里に言いたいくらいだ。」

「それ、酷すぎませんか?」


 プーッと真里の頬が膨れた。紀夫は両手でその頬を摘んで引っ張る。


「ひゃにをしゅりゅにょ。」

「膨れっ面するな。せっかくの美人が台無しだ。」

「ふぇっ!」


 真里の顔が一気に赤くなった。バックミラーで様子を(うかが)っていた運転手から苦情が入った。


「取締役に久保田室長付。誠に言いにくいのですが、イチャつくのは控えてもらえませんか?仲が宜しいのは結構な事なのですが一応、業務中ですので…」


 この車は会社の業務用であり、運転手は佐々倉の執事では無い事を思い出すと、二人は借りてきた猫の様におとなしくなった。


 最寄りの新幹線駅に着いたのは十六時前と余り余裕がなく、二人は車を降りるとバタバタと改札に向かって急いだ。


「あ、忘れてた。」


 紀夫はジャケットの内ポケットから一枚のカードを真里に渡した。デザイン化された文字でEXと書かれた新幹線専用のIC乗車カードだった。真里が取締役に就任したので、真里の出張用に会社が用意した法人カードである。


「これ、渡しておく。」

「これ、なんですか?」

「新幹線の乗車券みたいな物だ。知らないか?」

「ええ、初めて見ます。どうやって使うのですか?」

「そんなに難しく無い。自動改札機のカード読み取り部にかざすだけだ。新幹線の切符を事前購入しておけば、すんなりと改札を通れる。」

「私、事前に新幹線の切符を買ってませんよ?」

「それは佐伯さんが前もってしてくれてるので大丈夫だ。」

「そうですか…」


 真里は(こうべ)を垂れるとしょぼんとなってしまった。紀夫は真里の様子が気になったが、時間が余り無いのでこの場で問いかけるのはやめた。


「とにかく急ごう。」


 紀夫は自分のICカードを右手に持つと自動改札機にかざす。改札機からピッと音がして改札機の前から名刺サイズの紙が出てきた。紀夫はその紙を手に取ると改札機を通過した。

 真里も紀夫のしたようにカードを改札機にかざすと、ピッと音がして通過できた。


「真里。その紙を取り忘れるな。」


 紀夫に言われ、改札機から出てきた紙を取り忘れていた事に気づき、慌てて紙をもぎ取った。


 二人がホームに着くと、予約していたのぞみ号がちょうど入構してきた。


「さっき改札機から取った紙を見てみろ。」


 真里は紀夫に言われ、紙を見た。紙面には予約した新幹線の情報が印刷されている。


「そこに乗るべき新幹線の発車時刻や乗車する車両番号、指定座席番号が記載されている。今日、乗るのは九号車だ。」


 新幹線が完全に停止し、プシュっと圧縮空気が抜ける音をさせ自動ドアがゴトっと音をさせてスライドした。ドアの横には四葉のクローバーを模したマークが描かれていた。

 紀夫が先に乗り込み、真里が後に続く。紀夫は車両の壁に貼り付けられた座席番号のプレートを確認しながら、車内中央へと進む。


「ここだ。」


 座席番号に間違いが無い事を再確認して、真里を手招きする。


「俺の席は窓側なんだけど、どうする?変わって欲しいなら俺が通路側に座るぞ?」


 男より女の方が化粧室に行く頻度が高い事を考慮してか、貴子は通路側の席を真里にあてがう様に予約していた。


「ええ、窓側がいいです。」


 真里がそう言ったので、先に真里を窓側の席に座らせ紀夫が通路側の席に腰を下ろした。

 程なくして新幹線は静かに発進する。車内アナウンスが流れて、女性のパーサーが使い捨てのお手拭きを配ってきた。


「失礼します。」


 車内販売が車両に入ってくる。


「コーヒーにジュースなどのお飲み物。お弁当など如何ですか?」


 女性の声が静かに車内に響く。


「俺はコーヒーを買うけど、真里は何か飲み物は?」

「私も同じ物で。」


 車内販売のワゴンが横を通り過ぎる時に紀夫が声をかけた。


「すいません。ホットコーヒーを二つ。」


 ワゴンが止まり、売り子のパーサーが紀夫の顔を見た。


「あら、久保田さん。」


 綺麗に整った顔がにっこりと微笑んだ。


「あ、牧田さん。」

「お久しぶりですね。最近、お見かけしなかったので、どうされたのかなと思ってましたよ。」

「出向で他所の会社に勤める事になってね。内勤になったので出張する事がなくなったよ。」

「そうだったんですね。今日はご出張ですか?」


 牧田は隣に座る真里をチラッと見た。学校から直接だったので、真里は制服を着ている。夏服なので白地の半袖セーラー服だった。一般の学校の上下セパレートのセーラー服と違い、お嬢様学校なのでワンピース仕様で清楚感がある。


「うん。大阪で色々とね。」

「そうなんですね。あ、そうだ。私、今日はこの後、新大阪に着いたら業務は終わりなんです。良かったら大阪で一緒にお食事でもしませんか?」

「あ、ごめん。今夜は会社の上役と膳を囲む事になってて。」


 紀夫の言った事は牧田の誘いを断る為の嘘ではない。ホテルにチェックイン後、兼吉(かねよし)、貴子と合流して夕食をとる事になっている。


「あら、残念です。」

「せっかく誘ってもらったのに、申し訳ない。」

「いいえ、毎回断られてるので慣れてますよ。でも、断られ続けられると拗ねちゃいますからね?」


 牧田は屈託のない笑みを浮かべていたが、拗ねるのは本当ですよと変に圧力をかけた。


「紀夫さん、そちらの方とはどういった関係?」


 紀夫と牧田が仲良さそうなのを見て、真里が紀夫に訊いた。


「ああ、こちら牧田さん。見てのとおり、新幹線パーサーをされている。前の会社で新幹線で大阪とか出張に出た時、よく車内販売で見かけてて、コーヒーを買ったりするうちに話をする様になったんだ。」

「久保田さんの様なイケメンから声をかけられるなんて、パーサーをやってて良かったと思える出来事ですからね。役得って感じでしょうかね。」


 ふーんと真里は訝しげな顔をした。


「ところで久保田さん。お隣のお嬢さんは?」


 牧田は紀夫の前の席からテーブルを倒して広げると、用意していたコーヒーの入った紙コップとスティックシュガー、カップミルクを二つずつ、テーブルの上に置いた。


「ああ、こちらは上司の…」

「紀夫さんの婚約者の佐々倉真里と申します。」


 紀夫が真里を紹介しようとして、真里が被さる様に自己紹介をした。


「そ、そうなんですね。久保田さんとは仲良くさせて頂いてます。宜しくお願いしますね。」


 急に気まずい雰囲気になった。


「あ、牧田さん。支払いはこれで。」


 紀夫は自分のスイカを牧田に渡した。牧田はスイカを受け取ると領収機にかざし、ピッとなると印刷された領収書と一緒に紀夫に返した。


「ありがとうございました。」


 牧田は軽く頭を下げると、そそくさと去った。


 真里は窓の外をずっと見ている。紀夫は真里の前のテーブルを引っ張り出すと、真里のコーヒーとシュガー、ミルクをテーブルに置いた。

 紀夫はコーヒーに何も入れないブラック派なので、そのまま紙コップに口をつけ、コーヒーを飲んだ。


「あ!」


 真里が声を上げた。


「富士山!」


 窓の外には勇壮な富士山の雄姿があった。溶岩の黒い山肌が、夏の強烈な日差しを浴びて少し青みがかって見える。

 紀夫は何度となく車窓から眺めた事がある。山頂に冠雪をいただく冬の富士山の方が神秘的で好きだな…と紀夫は思った。


「見て見て、紀夫さん。富士山よ。」


 真里はクリンと顔を紀夫に向けると窓の外を指差しながら興奮している。それだけを言うとまた窓の外に視線を戻し、


「綺麗だなぁ。一度、登ってみたいなぁ。」


と、一人はしゃいでいた。


 そんな真里を見て『まだまだ子供なんだな』と紀夫は思った。

お読みいただきありがとうございました。


(`-ω-)y─ 〜oΟ

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