35 株主総会
後半、文章がグダグダです。
修羅場を書くって難しい…
(;-ω-)ゞウーン…
六月二十五日、月曜日。
梅雨らしい曇天とした空が広がっていた。湿度も高く、外でジッとしているだけでジワッと汗が滲み、不快感を煽ってくる。天気予報では不快指数が80を超えると言っていたが、エアコンの効いた室内では全く関係ない。
佐々倉ホールディングスの株主総会は、私営の文化ホールで行われていた。
総会出席者は団体株主、個人株主合わせて千三百人強。文化ホールの収容人数が千五百人なので、パラパラと空席が目立つ。
株券を一株でも持っていれば立派な株主である。全国にいる佐々倉ホールディングスの株主は何万人といるので、会場に足を運んだ千三百人の株主はほんの一握りという事だ。
株主総会は経営陣から会社の業績や今後の方針、役員人事など法律に従い必要な決済を出席した株主に多数決で承認してもらう場となる。
そのような大事な議決が一握りの株主に委ねられる。総会に出席できない株主は、一部の例外を除き出席した株主による決議に準じる形となるのだ。
株主総会の議決は普通の多数決とは異なる。賛成した人数ではなく、賛成に投じられた株数で決まる。
例えば、一株保有する株主が四十九人、五十株を保有する株主Aが一人いたとする。株の総数は九十九株。過半数は五十株。株主A一人が賛成すれば、残りの株主四十九人が反対したとしても、賛成多数となる。
議決権の無い株(無議決権株式)とか、三分の二以上の賛成が必要な議案とか、細々とした規定や法律があるので株主総会の議決はそう単純ではないのだが、ここは経済学や商学のゼミではないので割愛する。
何が言いたいのかと言うと、佐々倉ホールディングスの株主総会では、ほぼ否決される事は無いと言う事だ。
佐々倉兼吉は佐々倉ホールディングスの株式を四十九パーセント保有している。会場に来ている株主千三百人の株を合わせても発行株二十五パーセントに満たない。出席していない株主の株二十数パーセントは委任株となるので、中立数と扱われ決議結果に従う立場となる。議決はこの会場内で行われるので、否決される事は無い。
唯一抗えるとしたら、兼吉以外の株主達が結託する方法がある。全株主が、一人の株主に議決権の委任状を託せば四十九対五十一で否決に追い込む事は可能だ。しかし、全株主から委任状を取り付けるなど現実的では無いという事だ。
「…以上が議案1に示します昨年度決算案となります。質問のある方は挙手をお願いします。」
ステージの演壇で昨年度決算案について説明し終えた佐々倉ホールディングス社長・井口が、来場した株主と質疑応答を始めた。複数の手が上がり、係員がワイヤレスマイクを持って挙手している株主の元へと走る。
矢継ぎ早の質問に対し一件一件、井口は真摯に答えていく。
ステージには佐々倉ホールディングスの取締役達が椅子を並べて座っている。兼吉は目を閉じていた。一見すると寝ている様にも見える。
真里も末席に座っていた。普段とは違い、白のブラウスにグレーのパンツスーツという出で立ちだった。
「他に質問が無ければ議決に移りたいと思います。議案1に賛成の方は拍手をお願いします。」
ステージ右脇に控える司会、秘書室室長・山岸香澄がマイクに向かってアナウンスをした。パチパチパチパチと会場の半数くらいの株主から拍手があった。
「賛成多数により議案1は承認されました。続きまして議案2。今年度予算案についての審議に入ります…」
会場の誰も拍手をしなかったとしても、兼吉が反対しない限り否決される事は無い。出来レースであるが法律に従い、粛々と議事を進行していくだけである。
「株主総会って、株主から野次や罵声が飛んで荒れるものだと思ってだけど、意外と静かなもんなんだな。」
舞台袖からステージを覗いていた紀夫が言った。
「あはは。ニュースやネットとかで見られる光景ね。あんなのはなかなかに無いよ。何かやらかさない限り、無いかな。」
隣に立っていた貴子が答えた。
「いずれ、久保田君もあの椅子に座る様になるのね…」
貴子は役員達が座る椅子を見て悲しげな表情になった。
「なんか言ったか?」
「ううん、なにも。もうすぐ午前の部が終わるから、予定通り先に早昼しにいきましょ。」
「もう、そんな時間か…じゃ行くか。」
「うん。」
秘書室の面々は昼休憩に役員達の相手や、大口の株主の相手などがあるので、早昼をとる事になっていた。紀夫は貴子と一緒に建物の中にあるレストランへと食事に行った。
昼休憩を挟み、株主総会は午後の部へと入る。午後の議案も大きな問題も無く承認決議は進み、最後の議案となった。
「本総会最後の議案となります。議案15、非常勤取締役人事について。佐々倉真里の非常勤取締役就任に賛成される方は拍手をお願いします。」
大多数の株主が拍手をしていた。
「賛成多数で議案15は承認されました。」
香澄のアナウンスが終わると、役員が座る席の末席に座っていた真里が立ち上がり、株主達に向かって一礼をした。
「以上を持ちまして、◯年度佐々倉ホールディングス定期株主総会を終了いたします。ありがとうございました。」
椅子に座る役員全員が起立するとステージ上の緞帳が降り始めた。緞帳が降りきるまで役員達は頭を下げ続けた。
片付けなどはホールスタッフが行ってくれるので、紀夫達は帰って行く役員達を見送ると仕事は一段落となる。兼吉はこの後プライベートで取引先の社長と懇親に行くという事で、貴子はお暇となった。
「久保田君。お疲れ様。」
「ああ、お疲れ。」
「この後、用事とかある?」
「別に無いけど。」
「だったら私とお茶しにいかない?」
「ん?逆ナン?」
「そう、逆ナンです。良いよね?」
ウフフと笑いながら貴子がズイッと紀夫に近づく。貴子の大きな双丘がボイ〜ンと紀夫にぶつかりそうなほどだ。紀夫より十五センチほど背の低い貴子が上目遣いで紀夫を見つめる。紀夫は少し後退りした。
「佐伯さん。」
「はい。」
「ち…近いよ。」
「久保田君、照れてる?」
「そんな事ないぞ?」
「嘘。疑問形になってるよ。」
紀夫はチラリとよそ見をした。視線の先には、香澄や他の秘書と雑談をしている真里がいる。チラッと紀夫を見た真里は表面上ニコニコとしているが、背後に薄黒いモヤをまとっている気がした。
「いいから、行きましょ。」
真里に気付かない貴子は紀夫の右手を掴むと、ホールに併設された喫茶店へと紀夫を引っ張っていった。
喫茶店に入ると四人席に案内された。紀夫はアイスコーヒーを、貴子はアイスティーと季節の果物を使ったショートケーキを頼んだ。
程なくして頼んだ物が二人の前に運ばれてきた。
「ここのケーキって、◯◯って洋菓子屋が卸してるのよね。」
貴子が言っている洋菓子屋なら紀夫も知っている。確か二年前に洋菓子コンテストで金賞を取ったパティシエがオーナーをしている店だったはずと記憶を呼び起こす。
「うーん!美味しい!さすが金賞を取ったパティシエのお店だけあるな〜。」
ケーキを口にした貴子が身震いをしながら絶賛する。幸せそうな貴子の顔を見て、紀夫の表情筋も少し緩くなった。
「久保田君も食べてみる?」
貴子はケーキをフォークで切り取るとフォークに刺して紀夫の口を目掛けて突き出す。
「あ〜んして!」
「いや、俺はいいよ。恥ずかしいし。」
「サッと食べないと余計に恥ずかしくなるよ?ほら、あ〜ん!」
「楽しそうですね。」
二人はギクッとしながら声のした方を見た。真里が二人の座るテーブルに向かって歩いてくる。ニコニコしているが目は笑っていない。
「お嬢様!」
貴子は紀夫に差し出していたフォークを引っ込めるとケーキの皿に置き、起立した。
「佐伯さん。今日はお疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。お嬢様。」
「慰労会ですか?私もご一緒しても?」
「は、はい。どうぞ。」
「ありがとう。紀夫さん、隣に詰めてもらえますか?」
紀夫は隣の椅子へと移動した。紀夫が座っていた椅子に真里が座る。
「佐伯さんも座ってくださいね。」
真里に促され貴子は椅子に座った。気まずい空気があたりを包む。お冷やを持ったウェイトレスが近付き難そうにしている。
「いらっしゃいませ。ご注文は…」
意を決して飛び込んできたウェイトレスは勇者の称号に値するだろう。
「彼女と同じ物をお願いします。」
「畏まりました。」
真里は貴子と同じ物を注文した。ウェイトレスはお冷やを置くとそそくさとその場を退散する。
「紀夫さんもお疲れ様でした。」
「ああ、お疲れさん。」
「お二人は仲がよろしいんですね。」
「高校の同級生だったからな。」
「同級生ですか?ただの?確か佐伯さんは紀夫さんの九十九番目の女だったんですよね?」
「真里さんや。今その話をしなくても…」
「私は事実確認をしているだけですよ。」
「多分、真里は大いなる勘違いをしていると思う…」
紀夫は迷っていた。九十九というキーワードについて真実を教える方が良いのか、悪いのか。多分、真実を言ったとしても理解してもらえない可能性は大きい。
「はい。私は久保田君の九十九番目の女でした。」
戸惑う紀夫に代わり、貴子が真里に答えた。紀夫が貴子を止めに入る。
「佐伯さん!」
「だって本当の事でしょ。」
だが貴子は肯定をする。真里が貴子に質問を続けた。
「それは元カノって事ですか?」
「いいえ、違いますよ。私の片思いでしたから。」
「という事は、佐伯さんは紀夫さんに体だけ求められてヤリ捨てられたって事ですか?」
「おい、真里。それは聞き捨てならんぞ。」
「紀夫さんは黙ってて下さい。佐伯さん、どうなんですか?」
「そうですね。でも私はそれでも良いと思ってます。今でも久保田君の事が好きですから。」
「だからなんですね。社内で佐伯さんが紀夫さんの情婦だと言う噂が流れているのも。」
真里はハァと溜息を吐いた。
「ちょっと待て。俺がとんでもなく女癖の悪い男になってないか?」
「いいえ、私はそう思ってませんよ?紀夫さんですもの。モテるのも理解してます。納得はしてませんけどね。」
「いやいや、待ってくれ。確かに女性から声をかけられる事は多い。モテるんだという認識はある。だが関係を持った女性は二人だけだ!」
「「えっ?」」
真里と貴子の感嘆がシンクロした。
「久保田君。それって楓と、その…」
貴子はチラッと真里を見た。
「わ…私はまだ紀夫さんに抱かれてませんよ。今すぐにでも抱かれたいとは思ってますけど…」
真里は否定した。最後の方はゴニョゴニョと小声になって聞こえにくかったが。
「久保田君。お嬢様では無いという事は誰なの?」
「そう言う質問をするという事は、佐伯さんでは無いのですね?」
「ええ。私はまだバージンですから!」
場がシーンとなってしまった。
「わ…私、なにを口走ってるの?わ…忘れて。ね?バージンの件…久保田君、お願い。あ、このお願いって言うのはバージン貰ってねって事じゃ無いからね?いや、本当は貰って欲しいんだけど…いや、そうじゃなくて…」
思わずカミングアウトしてしまった貴子はパニックになって、自分でも何を言っているのか訳が分からなくなっている。
「佐伯さん、落ち着いて下さい。紀夫さん、そのお相手は?今も関係が続いているのですか?」
真里の目がキッときつくなった。
「留学した時にお世話になったホームステイ先のお嬢さん。」
ボソっと紀夫は答えた。
「それ、楓さんはご存知なの?」
「いや、楓には言ってない。だから、黙ってて欲しい。いや、二人とも忘れてくれ。」
「わかりました。旦那様の黒歴史、墓まで持っていきます。」
真里は静かに頷いた。逆に貴子はニッと不気味に笑う。
「ところで佐伯さん。」
「はい、なんでしょう。」
「佐伯さんと紀夫さんの間に男女の関係が無いのはわかりました。」
「ええ。」
「ですので、今後は二人だけで逢引の様な真似事はなさらない様にお願いしますね。」
「差し出がましいのですが、それはご期待にそえかねます。」
「どうして?紀夫さんには私という婚約者がいます。ですから…」
「婚約者と言ってもまだ正式ではありませんよね。その証拠に久保田君はまだ楓と付き合ってます。」
「うっ…」
「私は久保田君が好きです。一歩も引く気はありません。相手がお嬢様だろうと、楓だろうと。」
「先程から気になったのですが、楓さんと佐伯さんの関係は?」
「高校時代からの親友です。つい最近、久保田君を巡ってライバルになりましたけど。」
「そうですか。では私ともライバルという認識でよろしいんですね?」
「そういう事になりますね。」
「フフフ…受けて立ちます。」
「お嬢様、お覚悟を。」
真里と貴子の視線の間にバリバリと空間が裂け、何かがぶつかりバチバチと弾けあう音がしている気がした。
真里の注文したケーキとアイスティーを運んできたウェイトレスに紀夫は気づいた。
すぐ側で右往左往する彼女が不憫でならなかった。
お読みいただきありがとうございました。
色々と伏線をぶっ込みました。
全て回収できるか自信はありませんが…
(`-ω-)y─ 〜oΟ




