27 宣戦布告
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金曜日。
五月も昨日で終わり、今日から六月となった。梅雨の季節と言っても、天気予報の気象図には梅雨前線は見当たらない。気候的にカラッとした日が続いているが、気温は夏の到来を感じさせていた。
一週間お疲れ様と労をねぎらうサラリーマン達で賑わう居酒屋に、楓と貴子の姿があった。二人用テーブルに向き合って座っている。
「これ、お通しっす。ドリンクのオーダー貰っていいっすか?」
「私はチューハイライム。」
「角瓶のハイボール。」
「ありがとうござい〜オーダーいただきやした〜…」
二人は軽いノリの店員に飲み物を注文した。店員は厨房の方へと下がっていく。
「久しぶりね、貴子。」
「大学四年の秋以来だったっけ?」
「夏よ。」
「そうだった、そうだった。」
二人は同じ高校に通っていたが、違う大学へと進学した。それでも時間が合えば会っていたのだが卒論のまとめなど忙しくなり、社会に出てからは仕事に追われたり。いつのまにか疎遠になっていた。
「びっくりしたわよ。紀夫から連絡貰った時は。まさか紀夫の転職先に貴女がいたとはね。」
「うん。私もびっくりしたよ。五月の連休明け頃に出向社員が来るなんて連絡があって。名前を確認したら久保田君だったんだもの。」
貴子はパチッと割り箸を割ると、お通しの小鉢に箸を入れ一口頬張る。ボイルされた鶏ササミに練り梅とポン酢が良くあっていて美味しい。
「久保田君も来たらよかったのに。」
「あら?来ても良かったの?」
「ええ。久保田君が来たら何かマズい事でも?」
紀夫から貴子が会いたがっていると楓は聞いた時、ピンとくるモノがあった。だから紀夫が『一緒に行こうか?』と申し入れたが、貴子と一対一のサシ飲みが良いと断った。
「別にマズい事はないわ。でも、貴子の本音は違うでしょ?」
「あはは。楓には敵わないな。」
「ドリンクお待ち〜!」
先ほどの軽い店員が飲み物を持ってきた。楓にハイボール、貴子にチューハイの入ったジョッキを置く。
「ご注文ありやせんか?」
「そうねぇ。サーモン・カルパッチョに…」
「私はとろろ芋のお好み焼き、大根サラダ…」
「ご注文は以上で?」
二人ともコクリと頷くと店員は『オーダーいただきやした〜』と言いながら下がっていった。
「喉も渇いたし、飲みましょう。」
「そうね。」
「「乾杯〜!」」
ジョッキをカチンと軽く当てて、ゴクゴクと二口、三口飲む。
「今日から六月ねぇ。」
「思い出すわね。高校一年の時を。」
「何を思い出してるの?楓。」
「衣替え。」
「それがどうしたの?」
「貴子。」
「はい?」
「貴女…また成長した?」
「なにが?」
「全体的には引き締まったラインなのよね。」
「言ってる事がわかんないよ?」
「60のGってところかしらね。」
貴子は楓の言った事をすぐには理解できなかった。しばし間があく。そして理解した。
今日の貴子の服装は、薄いピンクのブラウスにグレーのスカートスーツ。ジャケットもスカートもタイトで貴子のスタイルの良さを強調している。
貴子を視る楓の目は、いつぞやの目になっていた。
「な…なんで分かるのよ!ホント、その『下着売り場の売り子』スキルって要らなくない?」
「あら、意外と便利なのよ?仕事でもけっこう役立ってるし。」
楓はアパレルメーカーに勤めている。今の部署は女性向けの輸入下着、とりわけ大きめサイズを扱う仕事をしている。楓にうってつけの職場だろう。
「貴子が羨ましいわ。痩せたクセにオッパイは大きくなるなんて。私は少し萎んでるのよね。」
そう言って楓は自分の胸を両手で下から持ち上げ、タユンタユンと揺らしてみせる。
今日の楓はピッタリとした七分袖のサマーニットを着ているので、胸の形がくっきりと分かる。Vネックなので揺するたびに谷間が見え隠れしていた。
隣のテーブルのハゲオヤジが楓の仕草を横目でチラッと見て助平な顔をしていた。
「ねぇ、貴子。ちょっとだけでいいから揉ませてくれない?」
「嫌よ、何を言ってるの。」
「じゃあ、触るだけ。」
「ダメ!」
「先っちょだけでも…」
「先っちょはもっとダメ!」
楓の顔が隣のハゲオヤジと同化している。
髪はダークブラウンに染められているので大和撫子とはいかないが、それでも和風美人に違いはない。違いはないのだが、残念感は今も変わらないのねと貴子は思った。
「そもそも先っちょだけって信じたらダメなんだから!」
「何がダメなの?」
「先っちょだけで済むはずないでしょ!」
「貴子。ナニの話をしてるのかしら?」
まだアルコールはそんなに飲んでない。のだが、既に酔ってる様な二人の会話。
「べ、別にそんな目にあった訳ではないよ?」
確かにそうだ。貴子は初恋を拗らせている。今まで男と付き合った事が無い。貴子も楓に負けないくらいの美貌の持ち主だ。言い寄ってきた男の数は数えきれない。だが全て断ってきた。行き摩りで関係を持った事もない。即ち、未だ処女なのだ。
三十まで童貞だと魔法使いになれる都市伝説がある。女も三十まで処女だと魔女になれるのだろうか?
「ふーん。」
楓がジト目で貴子を見る。
聴き耳をたてる隣のハゲオヤジと、その前に座る一見、真面目そうな七三分けのメガネオヤジのムッツリな視線を感じて、貴子は話題を変えようとした。
「こちらサーモンのカルパッチョになりやす!」
店員が来てテーブルの上にカルパッチョの皿をトンと置いた。
「私、お腹ペコペコなのよね。食べよ!楓。」
貴子は取り皿を持つと箸をカルパッチョへとのばす。
楓も『そうね』と言って割り箸を割るとカルパッチョに手をつけた。
「楓。久保田君とはどうなの?」
「どうなのとは?」
「ほら、私たち二十五じゃない。」
「そうね。」
「ほら、その…結婚とか考えてないの?貴女達、付き合いだして九年でしょ?」
「結婚ねぇ。私はしたいと思ってる。でもねぇ。」
「久保田君はその気がない?」
「そんな事ないと思ってる。思ってるんだけど…」
「けど?」
楓の頭には真里が思い浮かんでいた。二ヶ月前、突然現れた現役女子高生。目の前で紀夫とディープキスをして婚約者だといきなりの宣言。その後、紀夫と別れてくれという傍若無人ぶり。
紀夫は楓に対して別れを告げる事は無いのは分かっているのだが、結婚に対し慎重になっているのが楓には伝わってきていた。
「佐々倉真里って女の子、知ってるわよね?」
「知ってるも何も…と言うか、なんで楓からお嬢様の名前が出てくるの?」
「ちょっとした事で知り合いになったの。」
「その経緯に興味がわいてきた。」
「それについては後日話すわ。それよりも、真里さんについて何か噂とか聞いた事がないかしら?」
「噂?」
「ごめん。今の話は忘れて。」
楓の質問は悪手だった。誤魔化す様にジョッキを手に取ると、ゴクリとハイボールを飲む。
「ねぇ、気になるんだけど?」
「だから忘れて。お願い!」
「どうしようかな〜」
「ほら、私のオッパイ揉んでいいから。」
「それは要らない。と言うか、オッパイネタから離れなさい!」
「はいよ〜大根サラダになりやす!」
テーブルにサラダの皿を置いた店員が楓の胸をガン見していた。
貴子が店員をキッと睨み付けると、アタフタと去っていった。
それからは、たわいない話で盛り上がった。
楓が去年催された同窓会の話をして、仕事で参加できなかった貴子が悔しがった。ちなみに紀夫は同窓会に参加していない。紀夫は楓や貴子の同窓会に参加する資格が無いからだが。
かれこれ二時間近く話をして、そろそろ帰ろうかとなった時、貴子が真面目な顔をして楓に言った。
「ねぇ、楓。」
「なに?」
「私達って友達だよね?」
「私は親友だと思ってるけど?」
「嬉しい事言ってくれるね。」
「貴子は違うの?」
貴子は少し考えた。楓は不思議そうな顔をして貴子を見ていた。
「あのね、楓。」
「うん?」
「あの時、楓が言ってくれた事を覚えてるかな?」
「あの時っていつ?私、何か言ったかしら?」
「覚えてないか…」
「ごめん。」
「あ…あのね…」
二人の間に沈黙が訪れる。店内はまだ宵の口と言わんばかりの賑わいだが、二人の周りだけ静寂が支配していた。
意を決して貴子が言葉を発した。
「私、まだ久保田君の事が好き。」
貴子の声を楓は黙って聞いた。貴子は俯いていた。
「私ね、自分でも思う。諦めの悪い女だって。」
「…」
「久保田君と再会した時にね、ドキドキが止まらなかった。」
「…」
「二人がまだ結婚してない。婚約もしてないって知って…」
貴子が顔を上げ、楓をジッと見つめる。
「だからね。気持ちを抑えるのをやめる!」
「貴子…それって…」
「うん。そうだよ。ライバル宣言。」
真里に加えて、貴子の復活。
楓はハァと溜息を吐いた。
紀夫から貴子と職場で再会したと聞いた時から、こうなるとは予想はしていたのだが。
「わかったわ。貴子の想い。」
「うーん。分かって欲しいような、欲しく無いような…」
「でもね、貴子。」
「なに?」
「それでもね、私は貴女を親友だと思ってる。」
「うん。」
「だからね。『恋敵』ではなくて『親友』と書いて『ライバル』と読むことにする。」
「ありがとう、楓。楓と親友でよかった。」
「『親友』ではなく『親友』ね?」
「そうだね!」
「それでもね、リードしてるのは私の方よ?」
「余裕があるのは今のうちよ?」
二人はニコッと笑いながら、お互いに左手を出して握手をした。
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衣替えの件については
【私は九十九番目の女】
の第四話を参照下さい。
https://ncode.syosetu.com/n8757gk/4/
(`-ω-)y─ 〜oΟ




