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王が死んだ/地球のラスボスになったので人類相手に暗躍します  作者: 赤べこ様万歳


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3/11

1.2 旧き煤の王

―

――

―――「王の遺産ではないのか」


 誰かの声がした。とても低くしわがれて、けれどどこか優しさを感じる声音。

 一瞬、死後の世界に来たのだろうかと考えたが、体はから感じる痛みはそのままだった。


(生きて…る?)


 恐る恐る目を開くと、そこには黒壁があった。


(違……う。ひ……と?)


 それは黒壁に思えるほど広い背中だった。

 先ほどの声からして男だろう。

 ローブを被った誰かが、羽根川を守るようにモンスターの前に立ち塞がっていた。

 その足元には先ほど飛びかかってきたと思われるモンスターが倒れており、巨体の一部が粒子へと変わり始めている。


 そして倒れ伏す羽根川の見つめる先で、彼はまるで親しいものを迎えるように両手を広げた。


「だが、いい。あぁ、それでいい。つまらない世界になったと嘆いていたんだ。それがどうだろう、紛い物の獣と言えどいるじゃないか――」


 その言葉を遮るように獣が飛びかかった。

 彼の背丈は190を超える。しかしそれより獣は巨体。

 羽根川は男が倒れ伏すさまを幻視した。


「――私を持て成す玩具どもが」


 しかし結果は真逆。

 彼に牙が届く寸前、《《潰れた》》。

 まるで見えない巨岩に押しつぶされたように、モンスターの巨体が垂直に地面へとめり込んだ。土煙と轟音が響き渡る。


「故に歓迎しよう。歓喜しよう。教授しよう」


 地面と一体化したモンスターを踏みしめ、彼は歩み出た。

 同時に残っていたモンスターたちも彼に向かって襲い掛かる。

 迫る巨体を前にしても、彼の歩みは止まらない。

 その堂々たる様は、まるでステージ上を歩く往年の俳優のように、あるいはどこかの歌手のように、もしくは絵物語で語られる王族のように。

 羽根川の目には映っていた。


 そして彼が歌うように言葉を紡ぐと――


「私こそが君らが討ち滅ぼすべき絶対であり」


 地面から生えた巨大な杭がモンスターの巨体を貫き――


「私こそがこの星始まりの一人であり」


 光が瞬くとモンスターの巨体が細切れとなり―― 


「私こそが最も旧き王である」


 激しい轟音とともに炎に包まれた。


 そして”誰か”の足が止まった時、まるですべてが夢だったかのように、周囲には蝉時雨と川音だけが響いていた。


 それからしばらく、全てのモンスターが粒子へかえると、男は羽根川へと顔を向けた。


 瞬間――自然と羽根川の体は強張った。


 化物がそこにいた。

 黒いローブから覗くその顔は灰色の鱗に覆われ、鋭い眼光は炎のように紅く染まっている。

 龍――その言葉が羽根川の頭に浮かんだ。

 

 固まる羽根川に男はゆっくりと近づくと、その長身を屈ませて彼女の首筋に触れた。

 固い鱗に覆われた手。それは彼女の細い首を覆うほどの大きさだった。

 今度こそ死ぬのかな。そう思った彼女に、男は「意識はあるかい?」声をかけた。


 予想していなかった言葉に、一瞬、思考が白く染まる。しかしすぐに我を取り戻して、慌てて口を開いた。


「……あ…ぅ……こ……ろ……さな…ぃ?」


 呂律が回らぬ言葉だったが、男には伝わったらしく、彼は小さくため息をこぼした。


「死にたいのか?」

「……ぃ…き…たぃ」

「ならそう言えばいい。恩を着せるつもりはないが話を聞きたい。まずは……治すのが先かな」


 直後、首筋に触れる男の手が熱くなった。

 触れられた皮膚が熱くなり、その熱は体全体に広がっていく。そして全身に熱が行き渡ると、男の手は離れていった。


「話せる程度には回復させたつもりだが、問題はないかな?」


 羽根川は言われて気付く。

 苦痛の一切が消えていた。まだうまく体は動かせないが、痛みも無ければ意識も鮮明。視線を巡らせれば、服は汚れているが見える範囲の傷は消えていた。


(治療薬?アビリティ?いや違う)


 彼女の知るどんな治療法でもこれほど短時間に、しかも瀕死の状態から回復するなんて馬鹿げた物はない。

 技能(アビリティ)であれアイテムであれ、だ。

 彼はいったい誰なのか?なぜ自分を助けたのか?

 次々と浮かぶ疑問。しかしそれに答えが出るより先に、男は一人立ち上がった。


「では行こうか」


 それだけ言って、羽根川に背を向けて歩き出した。

 今なら逃げられるだろう。きっと男は追ってこない。そう羽根川は直感した。

 少なくとも自分へ対する害意はないだろうし、彼が女子高生を町中で追いかけるさまが一切想像できなかった。

 薄い根拠でしかないが、直感が正しいにしろ、間違っているにしろ、逃げるなら今しかない。

 そう考えても、逃げようという気にはならなかった。


(助けてくれたんだよね。この人)


 少なくとも害意はないだろうし、聞きたいこともある。なにより人に与えられた恩に無視を返したくはなかった。


 男についていく。そう決めた羽根川は立ち上がろうとするが、まだうまく体が動かず再び地面に倒れこんだ。

 何度かそうしていると「すまない、気遣いが足りなかった」男がまた近づいてきた。


「運ぼう」


 男はそう言うなり、羽根川を抱き上げた。

 まるで赤子のように抱き上げられた羽根川は、とっさに離れようと腕に力を入れるが「暴れるな。運びづらいだろう」と言われ押し黙った。


 布越しに感じられる筋肉質の体、ほのかに香るシトラスのような香り、人肌の温かさ。

 それは遠い記憶の中にある両親の温もりを連想させた。


 途端、羽根川の瞼は次第に重くなっていった。


 知り合ったばかりの、それも名前すら知らない怪しい男性に抱きかかえられ、理性が寝てはいけないと叫んでいた。

 それでもすでに体力も気力も限界だった。


 現実と夢の境界線。

 羽根川は何年も忘れていた安堵に包まれ、夢の中へ落ちていった。

応援よろしくおねがいします。

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