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第五章 悪役令嬢、真実に迫るですわ!?

 翌朝。


 アリアは騎士団に呼び出されていた。


「殿下のアリバイが確認されました」


 騎士団員は一枚の書類を差し出した。


「……本当に?」


「はい」


 事件当日。


 皇太子エドワードは


八時頃には王宮へ戻っている。


 それは、執務官や侍従たちが一緒にいた。


その後の皇太子の行動も細かく記されている。


「死亡推定時刻は十時前後ですから……」


「殿下がリリアさんを殺すことは不可能、ということですわね」


「その通りです」


「では、殿下は完全に容疑から外れる?」


「はい、さらに、


被害者の部屋にあった紙は、殿下とは筆跡が違いました」


殿下の筆跡ではない?


「では、誰が?」


「それが分からないのです」


 皇太子は犯人ではない。


 ならば、皇太子のインクを使った人物が別にいる。


 そしてその人物は。


 皇太子の部屋に入れるほど近い人物なのかもしれない。


「……妙ですわ」


「何がでしょう?」


「犯人は、なぜこんな面倒なことを?」


「皇太子を犯人に見せたかったのでは?」


 アリアは目を閉じた。


「つまり」


 犯人が皇太子の部屋へ入り。


 特殊なインクを使い。


 リリアを旧図書塔へ誘導する紙を書いた。


「……もう一人、話を聞きたい人がいますわ」




 生徒会室。


 そこにいたのはセドリックだった。


 リリアの弟。


 そして学園の生徒会長。


「アリア嬢」


「セドリック殿。少しお伺いしたいことがありますの」


「姉さんのこと?」


「ええ」


 セドリックは静かに頷いた。


「何でも聞いて」


「事件の前、リリアさんの様子はどうでした?」


 その質問に。


 セドリックの表情が僅かに曇った。


「……怯えていた」


「やはり」


「何か気づいていたんだと思う」


「何に?」


「誰かに見られている、と」


 アリアは息を呑んだ。


「具体的には?」


 セドリックは少し考えた。


「廊下を歩いている時。


 図書室にいる時。


 中庭にいる時。


 何度も視線を感じると言っていた」


「姿は見た?」


「見ていない」


「声は?」


「聞いていない」


「つまり、誰かに監視されていると思っていたけれど、正体は分からなかった?」


「そういうことだ」


 そう言うとセドリックは目を伏せた。


「姉さんに、しばらく学園を休めと言ったんだ」


「なぜ?」


「怖かったんだ」


「......」


「姉さんが殺されるんじゃないかと思っていた」


 アリアは黙った。


 セドリックの手が、わずかに震えている。


「でも、姉さんは聞かなかった」


「何と?」


「『逃げたくない』って」


「…………」


 セドリックは拳を握る。


「それが最後の会話になった」


 アリアは何も言えなかった。


 少なくとも。


 彼がリリアを憎んでいたようには見えない。


 むしろ。


 誰よりも心配していた。


「事件当日の十時頃、セドリック殿は?」


「生徒会室にいた」


「ずっと?」


「ああ」


「証人は?」


「生徒会のメンバーが数人いる」


 ちょうどその時。


「会長ならずっといましたよ」


 背後から生徒が顔を出した。


「十時頃は会議してましたし」


「その通りです」


 別の生徒も頷く。


「会長が席を外したのは昼休みです」


「…………」


 これなら疑う余地はない。


「ありがとうございます」


 アリアは立ち上がった。


「姉さんを、頼む」


 セドリックが言った。


「え?」


「犯人を見つけてほしい」


 アリアは一瞬だけ目を見開く。


「……必ず」


 そう答えた。





 生徒会室を出ると。


「どうだった?」


 廊下で待っていたカイルが尋ねた。


「リリアさんは、事件前から誰かに監視されていたようですわ」


「……そうなんだ」


 カイルは難しい顔をした。


「それなら、犯人は事件の直前に突然現れた人物じゃないかもしれないね」


「ええ」


「ずっとリリアを見ていた人物」


 その言葉に。


 アリアは足を止めた。


「……そうですわ」


「どうしたの?」


「犯人は、リリアさんの行動をかなり詳しく知っていた」


「うん」


「だから、彼女を旧図書塔へ呼び出すことができた」




 再び旧図書塔。


 アリアは事件現場の扉を前にしていた。


「鍵は内側からかかっていた」


「そう」


 カイルも横で確認する。


「窓は?」


「開いていた形跡なし」


 アリアは扉の隙間を覗き込む。


 そして。


「…………」


 扉の金具。


 鍵穴。


 床。


 以前見つかった、ほんの小さな傷。


「これですわ」


「何か分かった?」


「まだ仮説ですけれど」


 アリアは指先で床の傷をなぞる。


「細い糸のようなものを使った」


「糸?」


「ええ」


 鍵に細い糸を結びつける。


 犯人は部屋から出る。


 そして外から糸を引く。


 鍵が回る。


 最後に糸だけを回収する。


「だから犯人は、鍵を持ち出す必要がなかった」


「なるほど」


「問題は――」


 アリアは顔を上げる。


「誰がこんな仕掛けを知っていたのか」


「…………」


 特殊なインク。


 皇太子の部屋。


 リリアへの監視。


 旧図書塔。


 密室。


 そして。


 犯人は、これら全てを繋げられる人物。


「…………」


 少しずつ。


 少しずつ。


 何かが形になっていく。


「もう少しですわ」


 ――そう。


 もうすぐ。


 全てが繋がる。


 そんな確信が。


 胸の奥に生まれていた。

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