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第七十四話 ここに戻っても

少しだけ、遠回りをして。

同じ場所に戻ってきた夜の話。


Bar Haven。


扉を押す。


ベルが鳴る。


さっきと同じ音。


カウンターへ向かう。


いつもの席。


残されたグラス。


氷は、もう溶けている。


座る。


何も言わない。


新しいグラスが置かれる。


氷が鳴る。


酒が注がれる。


一口、飲む。


不思議と落ち着く。


湊は何も聞かない。


グラスを拭く。


いつもの動き。


グラスを傾ける。


氷がゆっくり回る。


少しして。


「終わりましたか」


湊は手を止めない。


「……ああ」


短く返す。


それ以上は続かない。


ポケットに触れる。


キーホルダー。


小さな星。


その感触。


わずかに口元が緩む。


「……いい顔してます」


湊が言う。


「……そうか」


「ええ」


氷の音。


低い音楽。


グラスを置く。


立ち上がる。


「また来る」


視線を上げる。

湊の静かな目と合う。


「……湊くん」


そのまま背を向ける。


耳が、ほんの少しだけ熱い。


ベルが鳴る。


扉が閉まる。


館内の空気。


そのまま歩き出す。


⸻


店内に静けさが戻る。


湊は手を止める。


それから、わずかに目を細める。


「……はい。咲也さん」


小さく。


確かに。


⸻


Bar Havenの灯りは、変わらず穏やかだった。


大きく変わったわけじゃない。

ただ、戻る場所がはっきりした。

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