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第七十一話 少しだけ、違う

同じ場所で、同じように過ごしていても。

ほんの少しだけ、違うと感じることがある。




ロビー。


先ほどよりも、少しだけ人が増えている。


ざわめきは小さい。


「高宮さん」


声。


振り向く。


見覚えのある女性と、小さな少女。


一瞬だけ考える。


それから思い出す。


「ああ。あの時の、小さなお嬢さん」


しゃがみ込む。


視線を合わせる。


柔らかく、微笑む。


「こんにちは」


少女は顔を真っ赤にして俯いた。


それでも。


両手を突き出す。


小さなラッピング袋。


「これ、あげる」


わずかに迷って、受け取る。


「……ありがとう」


袋を開ける。


中には、小さな星のチャーム。


光を受けて、きらりと揺れる。


母親が苦笑する。


「あれから、ものづくりにハマってしまって」


少女は顔を真っ赤にしたまま言う。


「お星さま、きらきらしてて……きれいで」


視線が上がる。


咲也と目が合う。


「お兄さん、みたいなの」


わずかに目を細める。


少女はまた俯いてしまう。


母親がくすくすと笑う。


「あらあら、この子ったら。本当におませさんで」


「よろしければ、受け取っていただけますか」


「ええ。ありがとうございます。大切にします」


小さく頷く。


手元のチャームを見る。


それから、ポケットに手を入れる。


取り出す。


あのクマのキーホルダー。


金具に、小さな星を添えるように通す。


クマの横に、星が並ぶ。


少しだけ、目を細める。


少女がぱっと顔を上げた。


「あ……!」


そのまま、嬉しそうに笑う。


母親も、その様子を見て柔らかく笑った。


「ご滞在中でしたか」


「ええ」


「よろしければ、屋上庭園をご案内できます」


「夜になりますが、星も少し見えます。きれいですよ」


少女の目が一気に輝く。


「お星さま!」


声が弾む。


小さくうなずく。


「ええ」


それだけ。


母親が頭を下げる。


少女もぺこりと頭を下げる。


そのまま去っていく。


小さな背中。


やがて見えなくなる。


ロビーはまた静かになる。


手元を見る。


クマと星。


並んでいる。


小さく微笑む。


そのとき。


「先輩」


声。


振り向く。


司が立っている。


少し呆れたような顔。


「ほんと、無自覚に罪ですよね」


「何がだ」


首をひねる。


司は苦笑して、首を振る。


「いえ、なんでもないです」


それから、


「やっぱり、先輩は先輩ですね」


それ以上は言わない。


視線を戻す。


ロビー。


光。


人の流れ。


変わらない景色。


それでも。


ぽつりと。


「……悪くないな」


歩き出す。


同じ場所で。


少しだけ、違ったまま。


変わったわけじゃない。

それでも、少しだけ前に進んでいる。


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