第六十四話 立ち尽くす場所
その場にいない人の変化は、
外からの方がよく見えることがあります。
グラウンドの端。
フェンスの外。
神代は立っていた。
腕を組むでもなく、ただ視線を向けている。
その隣に、黒崎。
同じ方向を見ていた。
少し離れた場所には、湊たちの姿もある。
だが神代は、そちらには目を向けない。
中では。
ボールの音が弾んでいる。
さっきまでとは、明らかに違う音。
神代は、わずかに目を細めた。
輪の中心。
咲也。
少年たちと、キャッチボールをしている。
フォームは変わらない。
無駄がない。
それでも。
「……笑ってるな」
ぽつりと漏れる。
黒崎は小さくうなずく。
「ですね」
軽い調子。
だが、視線は外さない。
神代は何も言わない。
ただ見ている。
一球。
また一球。
投げる。
返す。
リズムがある。
昔と同じ。
いや――
少し、違う。
「……変わったな」
小さく呟く。
黒崎が少しだけ首を傾げる。
「いい意味で、ですよね」
神代は答えない。
それがいいのか。
それとも――
一度だけ、視線を外す。
空を見る。
青い。
高い。
それから、もう一度。
グラウンドへ視線を戻す。
ボールを受ける。
投げる。
笑い声。
その中にいる。
あいつ。
神代は、ゆっくりと息を吐いた。
踏み出すでもなく。
背を向けるでもなく。
ただ、立っていた。
踏み出すことだけが、
変化じゃないのかもしれません。
同じ場所に立ったまま、
それでも、見てしまうこと。
それもまた、選択なのだと思います。




