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第六十二話 見ててあげてね

会えない時間の話。


Bar Haven。


低い照明。

静かな音楽が流れている。


カウンターの奥で、湊がグラスを拭いている。


カウンターの端に、一人の客。

静かにグラスを傾けている。


ベルが鳴る。


「こんばんはー」


軽い声。


湊が顔を上げる。


「夏希さん」


夏希が手を上げる。


「湊くん、久しぶり」


カウンターに近づく。


「仕事、近くだったから寄っちゃった」


椅子に座る。


「双子は夫が見てるから」


さらっと言う。


湊は小さくうなずいた。


「そうなんですね」


グラスを用意する。

氷が鳴る。


夏希はそれを受け取る。

一口、飲む。


ぽつりと。


「最近さ」


視線を向ける。


「誘っても来ないんだもん、兄さん」


少しだけ肩をすくめる。


「“用事ある”って」


「2人に会えなくて双子が寂しがってるわ」


湊は少しだけ笑う。


「すみません」


「高宮さん、今、忙しいみたいで」


曖昧に濁す。


夏希はふーん、とだけ返す。


グラスを軽く揺らす。

氷が鳴る。


「……何してるの」


何気ない声。

だが、視線は外さない。


湊の手が、わずかに止まる。


一瞬だけ考える。


「野球を、教えてるみたいで」


夏希の手が止まる。


「……へえ」


少しだけ、意外そうに。


口元が緩む。


「まあでも、兄さんらしいわ」


小さく笑う。


「で、どうなの」


「楽しそう?」


湊は少しだけ考える。

グラスを置く。


「……どうでしょう」


短く。


「でも、熱心でした」


夏希はじっと見る。

それから、ふっと笑った。


「そっか」


グラスに口をつける。


「じゃあさ」


軽い口調に戻る。


「今度、双子も連れて見に行こうかな」


湊が顔を上げる。


「行くんですか」


「うん」


「“さくちゃん先生”見たいって、きっと言うわ」


少し楽しそうに言う。


湊は少しだけ考える。


「……場所、分かりますか」


「知らない」


即答。


「湊くん知らない? こういうの、兄さんに聞いても絶対教えてくれないし」


湊は言葉に詰まる。


「いえ、僕も詳しくは……」


言いかけて、止まる。


最近、ここにも来ていない。


それだけが、残る。


「俺、なんとかしましょうか?」


カウンターの端。

男が、口を開いた。


湊は小さく息を吐く。


「……黒崎さん」


黒崎は、わずかに口元を緩める。


「知ってるんで」


「場所」


夏希が目を細める。


「……誰?」


黒崎は肩をすくめる。


「ただの知り合いです。高宮さんと、ミナトくんの」


軽い調子。

だが、視線は逸らさない。


夏希は少しだけ笑う。


「へえ」


興味深そうに見る。


少し考えて、うなずく。


「じゃあ、お願いしようかな」


黒崎は小さくうなずく。


「任せてください」


湊は何も言わない。

ただ、二人のやり取りを見ている。


少しして。


「ねえ、湊くん」


湊が顔を上げる。

こちらを見上げる夏希と、目が合う。


「はい」


「ちゃんと見ててあげてね。あの人、しっかりしてそうで危なっかしいから」


湊は少しだけ目を細めた。


「……はい」


静かに答える。


Bar Havenの夜は、

いつも通り、静かに流れていた。


「見ててあげてね」


その一言だけで、

任されたものは、少なくない。

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