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第四十四話 決めた夜

同じ夜。

まだ誰にも届かないところで、ひとつの決断がなされます。


Bar Havenの灯りは、静かだった。


ゆるやかな音楽。

グラスの触れ合う音。

低い照明。


扉が開く。


ベルが小さく鳴る。


「……いらっしゃいませ」


顔を上げる。


ほんのわずかに、間があった。


「神代さん」


軽く手を上げる。


そのままカウンターに腰を下ろす。


「ウイスキー」


「ロックでよろしいですか」


「ああ」


氷がグラスに落ちる。


カラン、と音が鳴る。


琥珀色の液体が満ちる。


差し出されたグラスを受け取り、ゆっくり一口飲む。


店内を見回す。


静かだった。


騒がしさはない。


作られた空気でもない。


ただ、落ち着いている。


視線が、カウンターに戻る。


整えられた道具。

無駄のない動き。

均された空気。


――あいつが来る理由。


神代はグラスを回す。


氷が静かに鳴る。


「……いい店だな」


ぽつりと呟く。


湊は小さくうなずく。


「ありがとうございます」


それ以上は続かない。


神代は視線を落とす。


グラスの中で氷がゆっくり回る。


――楽しそうだった。


ホテルでの顔。


あの空気。


自然だった。


無理がなかった。


それが答えのようにも思える。


だが。


神代は小さく息を吐く。


「……いや」


低く呟く。


グラスを傾ける。


「それでも、だ」


誰に向けたわけでもない言葉。


湊は何も聞かない。


ただ、そこにいる。


神代はグラスを置いた。


氷が、小さく鳴る。


「……一回くらいは」


ぽつりと落とす。


Bar Havenの夜は、変わらない。


神代の中では、もう決まっていた。



言葉にする前の、静かな決意。

次は、その先へ。


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