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第四話 月に一度
七年目の夜。
彼には、誰にも知られない時間があります。
月に一度、と決めている。
衝動ではない。
習慣でもない。
ただの確認だ。
自分がまだ、男を欲する側の人間であることを。
仕事を終え、Bar Havenを出る。
扉を押して外に出る。
背中に、なにかが残る。
視線か、気のせいか。
振り返れば確かめられる。
だが、振り返らない。
胸の奥が、妙にざわつく。
体が、じわりと熱を持っていることに気づく。
――そうか。もう一ヶ月だった。
エレベーターのボタンを押す。
ガス抜きが必要なだけだ。
そう自分に言い聞かせる。
二階の灯りが、ゆっくりと閉じていった。
*
駅を二つ乗り換え、雑居ビルの三階へ上がる。
目立たない小さなプレート。
受付で会員証を提示し、入場料を払う。
渡されたロッカーキー。23番。
それが今夜の自分の名前だ。
ネクタイを外し、ジャケットを脱ぐ。
鏡に映る男は、ホテルのベルではない。
ドアを抜けると、空気が変わる。
薄暗いラウンジ。
壁沿いのソファ。
低く流れるジャズ。
服は着たまま。
声は小さく。
名前は呼ばれない。
視線だけが、行き交う。
次話、夜はさらに深くなります。




