第三十九話 静かな答え
夜の Bar Haven。
一つの問いと、
静かな答えのある夜です。
夜。
Bar Haven の扉が開く。
ベルが小さく鳴った。
カウンターの奥でグラスを磨いていた湊が、顔を上げる。
見覚えのある男が立っていた。
神代だった。
店内を一度見回す。
カウンターの奥では、マスターが静かにグラスを磨いている。
神代はカウンター席に腰を下ろした。
「ウイスキー」
湊は頷く。
「かしこまりました」
氷を入れる。
カラン、と小さな音。
琥珀色の酒を注ぐ。
グラスを差し出す。
神代はそれを受け取り、一口だけ飲んだ。
しばらく、何も言わない。
低い音楽だけが流れている。
やがて神代が口を開いた。
「見た」
湊は手を止めない。
「何をですか」
神代はカウンター越しに、その手元を見る。
グラスを扱う手が、妙に落ち着いていた。
神代はグラスを見ながら言う。
「ホテルで働いてるあいつ」
少し笑う。
「イキイキしてた」
湊は小さく頷く。
「そうですね」
神代は氷を回す。
カラン、と音が鳴る。
「お前が言ってた通りだ」
湊は顔を上げる。
「え?」
神代は続けた。
「ホテルの仕事」
「似合ってるって」
湊は少し笑う。
「本当に、そう思います」
神代はグラスを傾ける。
それから、ぽつりと言った。
「お前」
視線を向ける。
「好きなのか」
「咲也のこと」
湊は一瞬だけ目を瞬いた。
だが、視線を逸らさない。
「はい」
静かな声だった。
神代はグラスを回す。
氷がゆっくり鳴る。
「……あいつ」
少し笑う。
「いい男だろ」
湊はわずかに驚いた顔をする。
それから頷いた。
「はい」
神代は立ち上がる。
「だろうな」
グラスを置く。
マスターが静かにそれを下げた。
神代は扉に向かう。
「また来る」
ベルが鳴る。
扉が閉まる。
Bar Haven は、また静かな夜に戻った。
湊はグラスを磨きながら、小さく息を吐く。
カウンターには、
さっきのロックグラスが残っている。
氷が、静かに鳴った。
答えは、
思っているより静かに返ってくるものかもしれません。




