第三十四話 家の灯り
神代との再会の夜を越えて、
今回は夏希の家での夕食です。
仮面ライガーV3に夢中の双子。
キッチンでは料理をする夏希と、手伝う湊。
そしてソファの真ん中で、どこか上の空の咲也。
いつもの食卓のはずなのに、
少しだけ賑やかな夜になりそうです。
リビングでは仮面ライガーV3が流れている。
三人掛けのソファに、海斗、咲也、陸斗が並んで座っていた。
「きたきたきた!」
「……変身だ!」
『仮面ライガーぶいすりゃあ!!!』
二人の声がぴったり重なる。
決めポーズも、ばっちりだ。
テンションは最高潮。
咲也はその真ん中で、腕を組んだままぼんやりしていた。
海斗が振り向く。
「さくちゃん?」
陸斗も首を傾げる。
「……どうしたの」
咲也ははっとする。
「いや、別に」
そう言って視線をテレビに戻すが、どこか上の空だった。
キッチンでは夏希がフライパンを振っている。
その横で、湊が皿を並べていた。
夏希がちらりとリビングを見る。
「悪いわね」
小声で言う。
「兄さんが木偶の坊なせいで」
湊は苦笑した。
「いえ」
「いつも美味しいご飯いただいてますので」
夏希はふっと笑う。
「ほんと助かるわ」
フライパンの音が小さく響く。
「いつもは湊くんがソファの真ん中なのにね」
「今日は逆だわ」
湊もちらりとリビングを見る。
双子に挟まれている咲也は、まだどこか上の空だった。
「……そうですね」
少し笑う。
「今日は僕が働きます」
夏希が声を潜める。
「どうしたの? あれ」
湊は少し困ったように笑った。
「昨日バーで、昔の知り合いに会ったんです」
「野球をやっていた頃の」
夏希はふーん、と頷く。
それから、ぽつりと言った。
「とすると、ざっくり七年ぶりの知り合い……」
少し考えて、
「さては、昔の男かしら」
――一瞬、空気が止まる。
「!?」
咲也が振り向いた。
今、さらっと信じられない言葉が出なかったか。
「今なんて言った」
夏希はきょとんとする。
「え?」
「だから、昔の男?」
咲也の口がぱくぱく動く。
言葉が出てこない。
夏希は腕を組む。
「違うの?」
「違うなら違うって言えばいいじゃない」
咲也は言葉を失った。
血の気が引くのが分かった。
――気づいていたのか。俺のこと。
「図星ね」
「違う!」
思わず声が出た。
「何が違うのよ」
「どっちもだ!!」
「はいはい。まあそういうことにしておいて」
夏希は楽しそうに続ける。
「だって気になるじゃない」
「七年ぶりとかなんでしょ?」
「未練あるの?」
立て続けの問いに、容赦がない。
咲也は答えられない。
完全に追い詰められている。
その様子を見て、湊が俯く。
小さく肩が震えている。
咲也が睨む。
「……蒼井くん」
湊が顔を上げる。
「はい?」
咲也は低く言う。
「笑うな」
湊は少し笑った。
夏希がふっと湊を見る。
それから、さらっと言った。
「で?」
「その人と」
「湊くん」
わずかな間。
「どっちがいいの?」
咲也の思考が止まる。
口を開く。
閉じる。
言葉が出ない。
陸斗は真面目な顔で言った。
「……湊くんでいいんじゃない?」
一瞬の沈黙。
咲也が立ち上がる。
「だから黙れって言ってるだろ……!!」
完全に気が動転していた。
双子は一瞬だけ目を丸くする。
それから、楽しそうに笑った。
テレビの中では、仮面ライガーが怪人に必殺キックを炸裂させていた。
夏希は満足そうに頷いた。
そして――
湊が、小さく言った。
「……ありがとうございます」
咲也が振り向く。
「そこで礼を言うんじゃない!!」
リビングに笑い声が広がった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は久しぶりに、少し騒がしい回になりました。
双子の海斗と陸斗、そして容赦のない妹・夏希。
兄としてはたまったものではありませんが、
こういう家族の空気の中でこそ、咲也の素顔が出るのかもしれません。
そして最後の一言。
「……湊くんでいいんじゃない?」
子どもはときどき、核心をつきます。
次回は少し時間が進み、夜の静かな時間へ。
昼の賑やかさとは違う空気の中で、
咲也と湊が少しだけ言葉を交わします。
よろしければ、続きをお付き合いください。




