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第三十二話 星の下で

店から外に出ると、夜の空気が少し冷たかった。

ホテルの明かりが歩道に落ちている。

遠くで車の音がする。


星を抱えたクマのキーホルダー。

少女からもらったそれを、ポケットの中で無意識に指で転がす。


ぼんやりとそんなことを考えていると――


「……咲也」


背後から声がした。


振り向く。


神代が立っていた。

ポケットに手を入れたまま、こちらを見ている。


「話は、まだ終わってない」


咲也は小さく息を吐く。


「終わってる」


神代は首を振った。


「終わってない」


一歩、近づく。


街灯の光が顔を照らす。


「なあ」


低い声。


「どうして姿を消した」


咲也は黙っている。


「連絡も全部絶って。

俺達に何も言わず、いきなりだ」


神代の視線はまっすぐだった。


「七年だぞ」


夜風が通り過ぎる。


咲也は直視できず、視線を逸らした。


神代はしばらく黙っていた。


それから、小さく息を吐く。


「……まあいい」


肩をすくめる。


「今日のところは帰る」


少し間を置く。


「しばらくホテルに滞在する」


「また会おう」


くるりと背を向ける。


足音が夜に遠ざかる。


咲也はしばらくその背中を見ていた。


「何なんだ、いったい……」


思わず漏れる声。


偶然にしては出来すぎている。

黒崎とも知り合いのようだった。


どこか作為的なものを感じる。


けれど今さら、何のために。


まさか――

咲也に会いに来たとでも言うのか。


「まさかな」


それこそ今更だ。


そのとき。


ポケットの中で携帯が震えた。


取り出す。


画面には名前。


夏希。


通話を取る。


「……どうした」


『お兄ちゃん?』


聞き慣れた声。


『明日さ、夕飯どう?』


少し間。


『海斗と陸斗もいるんだけど』


咲也は空を見上げた。


夜の星がひとつ光っている。


『あ、あとさ』


夏希の声が少し弾む。


『湊くんも誘っていい?』


咲也は一瞬、言葉を止めた。


Bar Havenの灯りが、背中で静かに光っている。


「……聞いてみる」


それだけ言って通話を切った。


咲也は携帯をポケットに戻す。


そして振り返る。


Bar Havenの扉は、まだ静かに灯っていた。

終わったはずの時間が、静かに動き出した夜。

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