第二十八話 七年
野球教室の帰り道。
四人の背中を、フェンス越しに見つめる男がいました。
七年。
長い時間です。
怒りも、戸惑いも、いろいろな感情がその間にあったはずです。
それでも、今日――その男はついに、動くことを決めます。
公園の駐車場。
人はもうほとんど残っていなかった。
黒崎が煙草に火をつける。
煙を吐きながら言う。
「驚きました?」
男は答えない。
視線はまだ、公園の方だった。
黒崎が続ける。
「七年っすよ」
少し笑う。
「なのに、なんですかあの投球」
肩をすくめる。
「化け物っすか」
男がようやく口を開く。
「……変わってない」
黒崎がくすりと笑う。
「むしろ良くなってません?」
男は答えない。
少し沈黙。
やがて男が言う。
「隣にいた男」
黒崎が煙草をくわえ直す。
「気づきました?」
男は短く言う。
「……誰だ」
黒崎は灰を落とす。
「さあ」
黒崎が肩をすくめる。
「俺もまだ、よく知らないんで」
男は黙っていた。
しばらくして、低く言う。
「……会う」
黒崎が笑った。
「でしょうね」
ポケットからスマホを取り出す。
ひらひらと振る。
「で、日本での滞在先は決まりました?」
男は視線を向けない。
黒崎が続ける。
「俺、いいホテル知ってますけど」
ちゃめっ気たっぷりにウインクする。
「バーも、いいんですよ」
男の目がわずかに細くなる。
夕方の風が、静かに吹いていた。
七年ぶりに見た咲也の投球。
そして、その隣にいた青年。
男は多くを語りません。
ただ一つ、決めたことがあります。
――会う。
次の舞台は、Bar Haven。
止まっていた時間が、いよいよ動き出します。




