第二十六話 笑ってた
高宮スマイルのあと、帰り道の小さな会話です。
大きな出来事はありませんが、少しだけ余韻の残る時間を書いてみました。
夕方の風が、少し涼しかった。
さっきまで響いていた公園の歓声が、もう遠くなっている。
公園を出ても、双子の興奮はまだ冷めていなかった。
「さくちゃんすっげー!」
海斗が振り返って叫ぶ。
「めちゃくちゃ速かった!」
陸斗も頷く。
「……速かった」
咲也は苦笑した。
「大げさだ」
「大げさじゃない!」
海斗が両手を振り回す。
「ドーンってきた!」
陸斗がぽつりと言う。
「……重そうだった」
「お前らな」
咲也が軽く頭を掻く。
そのやり取りを聞きながら、湊は少し笑った。
「びっくりしました」
咲也が横を見る。
「そうか?」
「ええ」
湊は素直に頷く。
「速かったです」
海斗が飛び跳ねる。
「でしょ!」
「さくちゃんプロ!」
「元、な」
咲也が訂正する。
海斗は気にしていない。
「また投げて!」
陸斗も言う。
「……また見たい」
咲也は小さく息を吐いた。
「機会があればな」
四人は並んで歩く。
少しして、陸斗がぽつりと言った。
「……楽しそうだった」
湊は思わず陸斗を見た。
陸斗は前を見たまま言う。
「さくちゃん」
「……笑ってた」
海斗が振り向く。
「確かに!」
「めっちゃ笑ってた!」
咲也は困ったように頭を掻いた。
「覚えてない」
「うそだ!」
海斗が笑う。
「めちゃくちゃ笑ってた!」
咲也は小さく肩をすくめる。
「そうか」
それだけ言う。
でも、その声はどこか柔らかかった。
四人はそのまま歩き続ける。
空はまだ高く、青かった。
――笑ってた。
陸斗の言葉を心の中で反芻する。
湊は小さく息を吐いた。
吐いた息が、どこか熱を帯びている気がした。
夕方の風が、少しだけ心地よかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
子どもたちの何気ない一言から生まれた回でした。
次の回から、物語はまた少し動き始めます。




