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第二十四話 マウンドの記憶

青空野球教室の続きです。


久しぶりにグラウンドに立った咲也。

子どもたちに囲まれながら、少しずつ昔の感覚を思い出していきます。

グラウンドでは、すでに子どもたちが集まり始めていた。


「コーチ来たー!」


「新しい人だ!」


小学校低学年くらいの子どもたちが、わっと集まる。


咲也は少し困ったように頭を掻いた。


「えーと……」


こんな風に大勢に見られるのは久しぶりだった。


「今日はキャッチボールやるぞ」


子どもたちが一斉にグローブを構える。


だが——


ボールはあちこちに転がった。


「おっと」


咲也は転がったボールを拾う。


「いいか」


子どもたちの前で軽く構える。


「難しいことは考えなくていい」


ボールを持つ手を見せる。


「相手の胸を見て投げる」


軽く腕を振る。


ボールはまっすぐ飛んだ。


パシッ。


子どもが驚いた顔をする。


「すげえ!」


「まっすぐ!」


咲也は笑う。


「今みたいに、優しく投げればいい」


子どもたちがもう一度投げる。


さっきより、少しまっすぐ飛んだ。


「そうそう」


咲也は頷く。


「野球はな」


少しだけ笑う。


「まず楽しいと思うこと」


子どもたちが笑った。


「はーい!」


グラウンドに、また白球が飛び交い始めた。


しばらくして。


子どもたちのキャッチボールを見て回っていた咲也の前に、黒崎がやってきた。


「高宮さん」


振り向くと、黒崎がグローブを叩いていた。


「ちょっと見せてやってくださいよ」


「見本」


そう言ってボールを放る。


咲也はそれを受け取る。


軽く握る。


子どもたちが集まってくる。


「すげー人?」


「投げるの?」


黒崎が構える。


「こい!」


咲也は小さく息を吐く。


腕を軽く振る。


シュッ。


パシッ。


黒崎のグローブに収まる。


子どもたちが歓声を上げた。


「すげー!」


「まっすぐ!」


「はやーい!」


だが黒崎は首を振った。


「そんなんじゃ手本になんねえな」


思わず顔をしかめる。


「十分だろ」


黒崎はグローブを軽く叩いた。


「いや」


「そんなんじゃ、こいつら納得しねえだろ」


黒崎はニヤリと笑った。


そして子どもたちを見る。


「お前ら」


「もっとすごいの見たいだろ?」


一瞬の静寂。


次の瞬間。


「見たい!」


「見たい!」


「すげーの!」


黒崎が肩をすくめる。


「だそうですよ、高宮さん」


グローブをパシッと叩く。


「本気でこいよ」


ニヤリと笑う。


咲也はため息をついた。


「本気ってなあ……」


七年前から、全力では投げていない。


年齢も重ねた。


体力も落ちている。


それでも——


子どもたちが見ている。


あの純粋な期待を裏切るのは、少し気が引けた。


「……一回だけだ」


咲也はボールを握った。


少し距離を取る。


腕を回す。


その瞬間。


カチリと、頭のどこかで音がした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は

咲也が本気で投げた、その瞬間のお話です。

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