第十六話 家庭の味
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は少し穏やかな回です。
双子たちのお泊まり回が始まります。
元メジャーリーガーの咲也ですが、
この家ではすっかり「さくちゃん」。
子どもたちに振り回されながらも、
どこか楽しそうな夜になりました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
タクシーが家の前で止まった。
海斗が先に飛び降りる。
「ただいまー!」
陸斗もその後ろをついていく。
「……ただいま」
湊は少し頭を下げた。
「お邪魔します」
玄関には小さな靴が並んでいる。
子どもの家の匂いがした。
リビングに入ると、すぐにテレビがつく。
仮面ライガーBLACK。
海斗がソファを叩いた。
「湊くんここ!」
三人掛けソファの真ん中。
自然とこうなる。
海斗、湊、陸斗。
テレビの中ではライガーが戦っていた。
海斗が身を乗り出す。
「ここ! ここで変身する!」
陸斗がぽつりと言う。
「……この怪人強い」
湊は素直に頷いた。
「なるほど」
その間に咲也は廊下の奥へ向かう。
「風呂準備してくる」
「あとで飯な」
「なに食べたい?」
すぐ返事が飛ぶ。
「オムライス!!」
一瞬。
湊が少し固まった。
咲也が振り返る。
「嫌いか? 蒼井くん」
「いえ」
湊は小さく首を振った。
「好きですよ……オムライス」
少しだけ間があった。
咲也はそれ以上聞かなかった。
――――
「すいません。服まで借りちゃって」
風呂から上がった湊は、義弟のトレーナーを着ていた。
義弟と体型が似ているのか、ぴったりだった。
少し湿った髪。
ふわりとシャンプーの匂いがする。
咲也は思わずどきっとして、慌てて視線をキッチンに戻す。
「気にしないでくれ。義弟も構わないって言うだろうから」
やや上擦った声。
……何を動揺してるんだ俺は。
ごまかすように料理に集中する。
自然と鼻歌が出る。
メジャー時代、日本の味が恋しくて自炊を始めた。
それに栄養管理もある。
それなりに一通りのものは作れるし、作るの自体は嫌いじゃない。
むしろ好きな方だ。
その時。
「おお、すっげー!」
「もう一回やって!!」
リビングで歓声が上がる。
振り返ると、湊がライガーの変身ポーズをしていた。
動きが綺麗だった。
流れるような所作。
「……止めがしっかりしてる」
陸斗は難しいことを言う。
しかし確かにその通りだった。
美しい動きだった。
……何かスポーツ、あるいは格闘技でもやってるのか。
意外と力も強いしな。
不意に、あの夜のことを思い出す。
咲也は慌ててフライパンに目を戻した。
煩悩を打ち払うように、リビングに声をかける。
「そろそろできるぞー」
「TV止めて手伝ってくれー」
「はーい!」
海斗がテレビを止めてキッチンへ走る。
陸斗も続く。
湊も立ち上がった。
三人で皿を並べる。
「いつも手伝ってるんだ。えらいね」
湊が言うと、双子は嬉しそうに笑った。
その時。
「おい、皿落としそう」
海斗の皿がぐらりと傾く。
すんでのところで咲也が手を伸ばす。
ぱしっとキャッチ。
「危ないだろう。気をつけなさい」
「さすがさくちゃん!」
「……戦隊ピンク」
「やかましいわ」
ピンクのエプロンが似合っていないことくらい自覚している。
だがこれしかないのだから仕方ない。
テーブルにオムライスが並ぶ。
「いただきます!」
海斗はもう食べている。
「うまっ!」
陸斗も頷く。
「……好き」
湊もスプーンを取る。
一口。
そのまま動きが止まった。
ぽたり。
テーブルに小さな雫が落ちた。
見ると湊の目はやや赤く、涙が滲んでいた。
「泣いてるの湊くん?」
「……熱かった?」
子ども達が心配そうに声をかける。
「どうした?」
咲也が聞く。
湊は少し笑った。
「いえ……」
「本当に、久しぶりに食べたもので」
少し間。
「小さい頃、母がよく作ってくれました」
「大好きでした」
母が、か。
オムライスが、か。
どちらなのかは聞かなかった。
咲也は言う。
「また作るよ」
湊は驚いたように顔を上げた。
それから、破顔する。
「ありがとうございます」
動悸がうるさいのは、きっと気のせいだ。
今日はなんだか、調子が狂ってばかりだな。
咲也は心の中で小さく息をついた。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
今回は「家庭の味」ということで、
オムライス回でした。
普段は静かなバーの物語ですが、
子どもが入ると一気に空気が変わりますね。
湊の過去や、咲也の少しずつ変わっていく気持ちも
これからゆっくり描いていけたらと思っています。
次回はお泊まり回の続き、
少し静かな夜のお話になる予定です。
よろしければまた読みに来ていただけたら嬉しいです。




