大人と子供
「おお……何とかなるものだな!」
初めて『ヒール』を範囲化したけど……うまくいったぜ!
この調子でいけば師匠を見返す日も近いんじゃねーか?
そんな俺の元にボスが葉巻に火を付けながら近付いて来る。
「さすがじゃねーか、借りは作っておくもんだな」
「貸し二回分はとっくに超えている気がするけどな」
「まぁ気にするな! 回復とこの護衛で1回ずつってところだろ!」
ボスが豪快に笑い葉巻をくゆらせた。
ちなみに残ったゾンビは倒し、クマとイノシシは離れてから離してやった。
まぁ動物達に罪はねーからな。
一息ついて、マントを羽織り直しているライオンに近付くと、
「……しかし人だけでなく動物達にも蔓延し始めるとはな」
「ああ……しかも群れを成したり集団で襲ってくるとなると、なかなか厄介だな」
ゾンビ化した人達を救済する……その為に倒してきたが、他の動物達ともなると数が多すぎるぜ
何か手を考えねぇとな……
そうして行進を再開しつつも俺は腕を組んで今後の事を考えるのだった。
その後は特に大きなトラブルもなく森の中を進み続け……そして陽が沈みかけた頃、ようやく森を抜けたのだった。
「もう日が暮れるな……」
森を抜けた先は草原が広がりなだらかな丘の起伏が続いていた。
その丘にオレンジ色の夕陽が沈もうとしているのが見える。
空は重い雲が掛かっているが、地平線との隙間だけは空が見え夕陽が何とか見えていた。
「姐さん、そろそろキャンプにしましょう! 俺もう足が棒の様で……」
「だらしねーな! 俺よりでかい図体しやがって!」
腑抜けた声を出すデニムをペシリと叩きつつ、
「だけど日も暮れるし、お前の言う様に今日はちと疲れたしな。 丁度そこも拓けているしキャンプにするか!」
「さっすが姐さん!」
すぐさま飛び跳ねるように開けた場所に行きテントを建て始める。
「結構元気あるじゃねーか。 まぁいいけどな」
そして俺達はいくつかテントを建てキャンプすることになったのだった。
晩飯も終わり、着替えなどを終わらせると俺は外に出て夜空を見上げていた。
雲が厚いな……月も星も隠れてやがる
もしかしたら明日は雨が降るかもな……
不意に小さな足音が聞こえ振り返ると、
「アルトか……どうしたこんな時間に?」
「ルルさん。 あ、いえ、何か悩んでいる様だったので気になってしまって……」
「クックック! ガキのくせにいっちょ前な気を遣いやがって」
俺は少し笑いながらアルトの頭に頭に手を乗せる。
アルトは少し不満げな顔で手を払うと、
「子供かもしれませんが、僕だって誰かを支えることぐらい出来ます!」
「あ~……すまん。 茶化すつもりはなかったんだ」
俺は真面目な顔で頭を下げる。
先程の笑いは茶化すというより、子供に心配させるようなことをした自嘲の笑いだった。
「あ、ご、ごめんなさい! 僕なんて失礼な事を……」
「いや、お前が謝ることはねぇよ。 何も間違ってねーんだからな」
俺は再び空に目を向ける。
暗い空を分厚い雲が流れていくのが見える。
「悩みというかな……色々考えちまうんだよ」
「えっと……?」
戸惑うアルトに視線を戻すと、
「俺のしている事は意味があるのか……とか、この調子で世界を救うなんて大それたことを叶えられるんだろうか……とかな」
「……」
「探している師匠にも会えない。 助けられなかった人や動物は増えるし……って! あああ!!!!」
急に叫んだ俺にビックリしたアルトが目を丸くして固まった。
「すまん、忘れてくれ! 俺としたことがこんな愚痴言っちまうなんてな! 情けないつーか、ナーバスになっていたっつーか……」
誤魔化す様に頭を掻く、
「……ルルさん!!!」
「お、おう? どうした急に大きな声で……」
アルトは俺を真っ直ぐ見つめると、
「ええと、僕は子供ですが愚痴だとしても真面目に……子供としてではなく対等に扱ってくれて嬉しかったです! ありがとうございました!」
「あ、ああ~……ど、どういたしまして?」
「それと、ルルさんのしている事は間違ってないと思います! 少しでも前に進んでいれば間違いなく近づいているはずですから!!」
あどけない顔を真っ赤にして真っ直ぐに俺を見つめて必死に話すアルト。
俺は頭に手を置こうとして……それをやめると、握手のように差し出した。
「?」
「ありがとうな! アルト、お前はまだ子供だけど心はもう立派な大人だぜ」
「~~!!」
照れたようなアルトの手を握り握手をする。
俺よりかなり小さい手……しかしいずれは街ひとつを治める大きな手になるだろう。
「んじゃま、さっさと寝るか。 一人前の大人ってやつぁ自己管理できなきゃな」
「う、な、なんか子ども扱いしてません?」
「クククッ! さぁどうだろうな?」
意地悪く笑ってやるとむくれてポカリと俺を叩く。
二人してテントの方に戻りつつ、
こーいうところはまだまだお子様だな……って考えたら俺も同レベルじゃね?
複雑な気持ちで戻って行く俺だった。
ルルとアルトが去ると、テントの影から二人の人影が現れた。
「び、びっくりしたわね。 ルルって悩みなんかなさそうなのに……」
「ルルは大変な覚悟をしているからな。 俺が支えてやらなければ……」
それはノエルとウィルだった。
ノエルがウィルに「散歩しない?」と積極的に出れば……まさかの黄昏るルルの姿を見つけ思わず隠れてしまったのだ。
「アルトの奴、子供のくせにルルの心を掴もうとは……」
「あんたは何を言ってるのよ!」
ノエルがウィルの頭を軽くはたき、ウィルが顔をしかめる。
「でも、確かにルルがあんな風に思っていたなんてね……自信の塊しかないと思っていたのに」
「お前こそ何を言っているんだ? ルルのあの崇高で美しい清らかな覚悟は生半可な……」
「あ~~はいはい! いつもの奴ね! それはもう良いから!!」
ノエルはウィルにクルリと背を向け、
「うぅ! いっつもルルにばっかり美しいとか言って!! た、たまには私に言ってくれてもいいのにぃ!!」
ブツブツいうノエルに、
「何か言ったか?」
「フン!! 何にも!!!」
プイッ!! と横を向くノエル。
そんなノエルを見て首を傾げるウィルであった。




