フラグ建築士 二人目
婆さんのご厚意で一晩止めてもらった俺達。
次の日の早朝には起き出し、早速出発する準備を進めていた。
旅支度を終えた俺達に声を掛けてくる。
「準備は終わったかえ?」
「ああ、一日だったが世話になったな」
「いや、儂も久しぶりに人と話せて楽しかったし、お菓子と果物以外も口に出来て嬉しく思うたぞ」
そしてニッと笑う。
シワシワの皮膚に更に皺がより、笑う口からは歯が抜けたのが見えた。
「本当に一緒に行かなくていいの?」
心配そうなアルトに、
「ありがとうのぅ、しかし儂はここでええ。 今更街に行っても家もないし食い物にも困る。 この年じゃ働くのもキツイし、家族や親族もおらん」
アルトの頭に手を載せいい子いい子している。
「短かったが……儂にも孫がいればこんな感じじゃったのかのう」
アルトを撫でるその顔は優しく、初めて見た時とはまるで違う。
シワシワの手が優しくアルトの頭を撫で、そのたびに髪がサラサラと揺れた。
「お、お婆さん、僕が街をしっかり治められるようになったら、その時は僕の街に来てほしいです! お家も準備しますし、お食事も困らない様にしますから」
「おやおや、この子は大きく出たねぇ。 まぁせいぜい頑張んな」
お婆さんはアルトから手を離すと俺のところに来る。
「あんたがこのパーティーのリーダーだってね?」
「ん? ああ。 リーダー兼依頼人見たいな感じだけどな」
「なかなかどうして……ゾンビだらけの森を抜けたり、みんないい子ばかりで、凄いじゃないか」
「あ〜みんな強いからな」
「リーダーが子供とは思えないよ」
ズルッ と、思わずズッコケる。
「おい、婆さん! 俺は子供じゃねーよ!」
「ヒッヒ、分かっとるわ。 ほんの冗談じゃよ」
そう言うと再び楽しげな声を上げる。
……ったく! 本当に分かってんのか?
「お主らの来た道をアチラに進めばバロックと言う街がある筈じゃ」
「バロックの街だな?」
「ああ、儂を拾った馬車の運転手がそう言いおうたからな」
一瞬遠い目をしたが、すぐに、
「気をつけていくのじゃぞ?」
「ああ、ありがとな! 世話になったぜ」
「ありがと、お婆さん!」
「お世話になりました」
「元気でいるッスよ?」
「またね、お婆ちゃん!」
……とみんなも婆さんにお礼を告げる。
そして行こうか!と歩き出そうとした時、
「ああ、そうじゃ。一つ言い忘れておったわ」
「ん? なんだ?」
振り返る俺達に、
「馬車を襲ったゾンビの中に、巨大なクマのゾンビがおったわ。 運転手が森のヌシとか言っておったが……まぁ、ソイツがゾンビにでもなったのじゃろうな」
「なるほどな、情報ありがとよ」
俺はそう告げると手を上げて歩き出した。
鬱蒼とした森の中をみんな無言で黙々と歩く。
俺もそうだがきっとみんなも同じ考えだろうと思う。
どう見てもさっきのはフラグだ……
みんなもそう思っているからこそ口には出さない。
しかし俺は忘れていた……空気を読めない男がいる事を。
「さっきのアレってフラグってやつだな? ありがたいが、なんだかなーって感じですよね、姐さん」
「……」
「……」
「……」
歩いていたみんなの足が一斉に止まり……全員の視線がデニムに集まる。
「え? え? な、なんすか?」
「……このおバカ」
「ええ! 姐さん、いきなり酷い」
情けなそうな顔をするデニムに、
「デニム……フラグってのは口に出すと立つもんなんだぜ?」
「え? そうなんですか?」
「……」
首をかしげるデニムに、俺はそっと嘆息したのだった。
……と入っても必ず出るとも限らない。
あくまでフラグって言ってるだけだしな
俺達は気を取り戻すと引き続き慎重に道を進んで行った。
朝から歩き続け昼に差し掛かろうという時間だが、森の中の薄暗さは変わらない。
高い木々が陽光を遮り、あちこちの隙間から漏れる光で辺りがわかる感じだ。
そして、そろそろ昼飯にしようかという時、
「みんな止まって!!」
のんびり屋のアリスが発した鋭い一言。
思わずみんなが足を止める。
その瞬間俺達の前に何かが降ってきた!!
ドシン!! と言う音と共に地面が揺れ葉っぱや埃が舞い上がる!
降って来たのは黒い大きな物……それが何か最初は全く分からなかった。
「なんだ!?」
「分からん」
俺達が騒ぎ出す前で、落ちてきた物がモゾモゾと動いたと思うと……それが立ち上がった。
俺達の視線がどんどん上に上がり、見上げる形となる。
そしてソイツも俺達の事を二つの目で見下ろしてきた。
その目は例の濁った瞳だ。
「で、でけぇ」
「気を付けろ」
「アルト君、下がって!」
慌てて戦闘態勢を取る俺達、その俺達の前に居るそいつは五メートルはあろうかとあう真っ黒いクマだった。
こ、こいつはもしかして!
「例の……主って奴か!」
「恐らくそうだな」
ウィルが俺の前に出る。
そしてライオンやゴンズもそれぞれ武器を構えてその巨大クマを囲んでいった。
すると……急に巨大クマが大きく上を向いて咆哮した!!
その大声に思わず耳を塞ぐ。
なんだ? なんでいきなり叫びやがった? 威嚇狙いか?
……いや、威嚇なら俺達に向いてするはず。 わざわざ上を向いて叫ぶなんてどーいう了見だ?
こいつの狙いは…………もしかして!?
俺は全員に向って大きく叫ぶ!
「全員、周りに気を配れ! こいつ仲間を呼んだかもしれない!」
「ゾンビが仲間って……そんな事あんのかよ!」
ボスが言い終わる前に周りの草木からガサガサという音が聞こえ始める!
「そんな! なんで知性のないゾンビが仲間なんて作ってるの!?」
ノエルの言葉で俺はハッとする。
ライナの時もゾンビ犬や人型ゾンビが群れを作っていた……そしてそこには……。
「そうか! そー言うことか!?」
「どうしたんスか?」
「ゾンビは知性がないが本能はある。 そして本能で生きる野生動物にもアレがあるんだ!」
「アレって何?」
話を聴いていたリリとノエルに、
「ボスだ……つまり群れの頭だ。 ゾンビ達も強い奴や特別な奴、そー言うボスに従ってやがるんだ!」
だから知性がなくても集団で襲って来たり……そしてボスが呼べば、
「ゾ、ゾンビの群れだ!!」
ボスの部下が悲鳴を上げた。
そう……配下のゾンビ達が現れるのだ。




