お菓子の家の力
家の中は普通に見えた。
壁や天井等はお菓子で出来ていたが、テーブルや椅子、戸棚やそこに仕舞われたもの等はありふれた木材製だ。
婆さんの言っていたようにそこまでの広さはない。
二階部分は無く、ドアを開けてすぐ左にダイニング、右に台所。
そして奥の部屋へ続くドアが二つある。
ちなみに室内のドアもお菓子で出来ているようだ。
「ほれ、入口で止まっとらんで奥に行かんか」
「ああ、すまん」
部屋の中に進むと、婆さんが声を掛けたのか他のみんなもゾロゾロと部屋に入って来る。
……が、どうやらボス達は入って来ない様だ、そのまま婆さんが入って来てドアを閉める。
しかしそれでもこれだけ居るとかなり狭い。
「椅子なんぞはそこにある分しかないからの。 後は勝手に床にでも座ってくれ」
婆さんはそう言いながら台所のかまどでお湯を沸かし始めた。
言われた椅子はダイニングのテーブルにある物で四脚ある様だ。
「アルト、それとノエル達が使えば良いぜ」
「ありがとうございます」
アルトが礼儀正しくお辞儀をして椅子に座るとキョロキョロと当たりを見回し始めた。
周りがお菓子だらけだし子供心に色々興味があるのだろう。
「ユーナ」
「なんだ?」
「この家どう思う?」
「冗談みたいな家だな。 俺は甘いものが嫌いだから気分も悪くなりそうだ」
顔をしかめている。
「後は……そうだな、当たり前だろうがこの家からは魔力を感じる」
「やっぱりそうだよなぁ……」
どう見ても自然的に出来た物ではないし、かと言って人が建てたにしてはあり得ないだろう。
「あの婆さんは人間だが……魔術師なのか?」
「魔力は感じないが……隠せない訳じゃないからな」
分からんという風に肩をすくめる。
「茶を入れてやったぞ。 悪いが湯呑が足りんのでな、一部茶碗と皿で代用じゃ」
「ありがとうございます」
「ありがと」
「すみません〜」
テーブル組から声が上がる。
う〜ん、こうして見ると悪い婆さんには見えないんだよなぁ……
「なぁ婆さん、この家は婆さんが建てたのか?」
「何じゃ? この家か?」
「ああ。 お菓子の家なんて普通じゃないだろ? だから気になっちまって……」
「なるほどのぅ、まぁお主の様な子供には夢の様な家じゃからな」
…………は?
こ、この婆さん、俺を子供と思ってんのか!?
確かに背は低いが俺は立派な大人だぞ!!
後ろでユーナの含み笑いが聞こえる……くそ、後で覚えてろよ!
「ば、婆さん、こう見えても俺は大人だぜ?」
「子供はみんな大人ぶるもんじゃ」
「いや、そーじゃなくてだな……」
う〜もういいや
俺は諦めて再度部屋の中を見回す。
床はビスケットだ……今更だが土足で良かったんだろうか?
まぁ、婆さんも土足だから大丈夫か
台所にはかまどと……流しや水の入ったツボがあるな
あとは戸棚ぐらいか
ブラブラと部屋を見ていると、リリが婆さんに話しかけ始めた。
「お婆さんはここで一人で住んでるッスか?」
「ああ、一人さね」
「家族はいないんスか?」
「生憎家族と呼べるような者は誰も居ないね」
「そうッスか……」
みんな無言でしんみりした空気になる……が、
「婆さん、トイレ貸してくれ」
……デニムは空気が読めないらしい。
って言うかお菓子の家でトイレだと!?
「トイレは外じゃ。 家の裏手に小さい小屋があってその中にある」
だ、だよな? 流石に抵抗あるだろ……食べ物に囲まれてするとか
デニムが外に出ていくと、
「そーいや婆さん、こんな所で一人で住んでいてゾンビに襲われたりしないのか?」
「……遂にそれに気づいたようじゃの」
流しにむかっていた婆さんが振り返る、その手にはギラリと光る包丁が握られていた!
テーブルの上に切り分けられたリンゴが置かれた。
「これでも食べろ。 家にある食いもんはリンゴかお菓子しかねぇ」
「ありがとう!」
ノエルがすぐさま手を伸ばす。
それを見てアリスが何やら囁き、ノエルが眉を八の字に曲げた。
どうやらアリスに小言を言われたな? マナーが悪いとかなんとか
一方アルトは「ありがとうございます。 いただきます」と軽く頭を下げ手を伸ばした。
……ますますノエルとの差が浮き出るな
婆さんは俺に目を向けると、
「ゾンビの話じゃったか?」
「あ、ああ」
「お主の言うとおりゾンビに襲われたりはせん」
「なんでなんだ?」
「なんでかの? 儂にも知らなんだ」
「どー言う意味だ?」
俺の問いかけに遠い目をすると、
「あれは3ヶ月前じゃった……儂は辺境の村に住んでいた一人者じゃったんだが、村がゾンビに襲われての。 命からがら逃げ出して、運良くダーテンハルト行きの馬車に乗ることが出来たんじゃ」
村が……
俺は知らずのうち拳を握りしめる……3ヶ月前だと仕方が無いかもしれない。それでも守れなかった村を思うと悔しさがこみ上げてくる。
自分の村、そして旅で見てきた手遅れだった村と重なって脳裏に蘇った。
「しかし運の悪い事は続くもんじゃ……ダーテンハルトに向かうこの森の中で馬車がゾンビ達に襲われての」
「何てこと……」
思わずノエルが言葉を漏らした。
「馬車の乗客は散り散りになってしもうた……そして儂もゾンビに追われての……もう駄目かと思うたんじゃが、その時ピタリとゾンビ達が足を止めたんじゃよ」
「な、なんで?」
「それは儂にも分からん。 ただその場所が……」
「このお菓子の家って事か」
俺の言葉に頷くと、
「不思議な事にこの家にはゾンビや魔獣、野獣……それどころか昆虫すら近寄らん」
「昆虫も?」
「そうじゃ、それにこの家は壊れても勝手に直るからお菓子を食べてもすぐに元の通りになるんじゃ」
「なんちゅー家だよ」
「不思議だが儂には行く宛もないし、ゾンビだらけの森を抜けようとも思わん。 だからここに住むことにしたんじゃよ」
「ってことは、婆さん、あんたは……」
婆さんは少しだけバツの悪そうな顔をすると、
「この家に勝手に住み着いた者で、この家の持ち主じゃ無いんじゃよ」
そう告げると目を伏せたのだった。




