作戦実行
「それよりバッハ侯爵、あんたみんなに内緒にしている事があるよな?」
「なんの事だか分からないが?」
「へぇ……」
俺はバッハ侯爵の後ろにいる護衛達に目を向けると、
「お前達はコイツを本当にバッハ侯爵と思っているのか?」
「……」
よほど真面目なのか、護衛達は身動ぎもせず武器を構えたままこちらを伺っている。
「お前達がコイツをご主人様と思っているなら間違いだぜ?」
「……」
「そうか。 ルル、お前知っているのか」
「だからお前が俺の名前をよぶんじゃねーよ! バッハ侯爵……いや」
俺はバッハ侯爵に向って杖を向ける。
「なりすました魔族……だろ?」
「……」
バッハ侯爵は俯き目を伏せていたが……肩を震わせたと思うと、
「ックック……アーハッハ!!」
急に大きな声で笑い始めた。
そして制する様に手をこちらに向けると、
「いや、失礼。 あまりにも笑える冗談だったので自分を抑え切れなかったよ。 紳士にあるまじき行為、許してくれたまえ」
「……冗談じゃねえよな? お前は知らないだろうが俺には自分を中心に周りの人々を感知する能力がある。 そして普通の人は白っぽいモヤとなって感知されるが、お前は違った」
「……」
俺の答えを聞いてピタリと笑いを止めると、
「あんたの色は赤だった、鮮血のような真っ赤な色さ」
「そんなものは証明にはならないだろう? ルル、お前にしか見えない事なら尚更だ」
「……」
ちっ、流石に素直には吐かないか。
俺の手札は元から少ない……既に出尽くしている。
だから後は……勝負といこうか。
「分かった。 だったら力ずくで暴くまでだ!!」
俺の言葉で部屋中に緊張が走る!
「本気か? 本気でそんな事を?」
「ああ、もちろんさ。 それにお前が魔族なのは既に街中に伝えた、その結果があの騒ぎさ。 お前がこの街を治め続けるのももはや不可能だろうぜ」
俺はクイッと窓の外を親指で指してやる。
未だに外では騒ぎが鳴り止まない。
「この街の住人はお前には従わなくなるはずだ」
「……そうか、本当に色々やってくれる」
顔を押さえて天井を仰ぎため息をつくと、次の瞬間ギロッと俺を睨みつけた!
その瞳は燃える様に爛々と赤く輝いている。
「ようやく正体を現しやがったな! おい、お前達が仕えていたのはやっぱり魔族だったろ? 一緒にそいつを倒そうぜ!」
俺が護衛に呼び掛けるも……彼等は俺達に剣を向け続けている。
「おい! どうしたんだよ? こいつはバッハ侯爵なんかじゃない、ただの魔族だ! 俺達の敵なんだぞ!?」
護衛達はこちらにジリジリと詰め寄る。
その剣からは殺気が溢れ……「ルル下がっていろ」
ライオンが俺の前に立ちはだかる。
くぅ〜これは俺の予想外だ!
護衛達は操られている訳では無さそうだと思って、正体をバラせば一緒に戦ってくれると考えたのに!!
「おい! 良いのか? 俺と戦えばお前の大事な奴は死ぬかも知れんぞ?」
バッハ侯爵が俺の後ろに声を飛ばす。
言われたノエルとアリスが一瞬ビクリと震え、
「え? ウ、ウィルが?」
「ノエルは殺させないわ」
ノエルが俺に剣を向け、アリスが矢をライオンに向ける!
「ノエル」
ウィルが俺の前に立ちノエルに対峙する。
「退いてウィル、考えても見て! 私達はたったこれだけの人数よ、勝てるわけないじゃない!」
「ノエル……」
その時、ウィルの頭の中にマリアの声が思い出される。
『ノエルにもう少し気を利かせなさいよ』
……今がその時だろうか?
「ノエル」
「な、なに? またそうやってルルを庇うの?」
「ノエルも俺の大切な仲間だ。 俺が守るから安心しろ」
「ふぇ!?」
ノエルの顔が一瞬でゆでダコの様に真っ赤になる。
頭から湯気でも出そうな勢いだ。
「ええ! え? わた、わたし!? ルルじゃなくて私の事??」
呂律が回っていない。
「ああ、だからルルに剣を向けるな」
「う、うん! 向けない!」
笑顔で剣を引っ込める。
「クッ! まさかそんな事で……」
悔しげなバッハ侯爵の声が漏れる。
その声を俺は聞き逃さなかった。
そんな事で……言葉の続きはなんだ?
そんな事で戻る? 気付く? それとも…………
「なる程な! お前もそのタイプか?」
「な、なんだ? なんの事だ!?」
「こういう事だ! 『アンチスペル』」
ライオンを牽制しているアリスに向かって魔法を放つ!
恐らく先程の言葉はライナと同じ『呪言』
魔法的な物なら俺の『アンチスペル』……魔法解除で消せるはずだ。
そしてその結果…………魔法を掛けられたアリスが目をパチクリさせている。
「アリス、お前は今何をしようとしてる?」
「え? あ、あれ〜? なんで私ライオンさんに〜?」
「やっぱりそうか! 『呪言』を掛けやがったな!」
「なんでそれを! ……あ」
しまったという風に口をつぐむが、
「遅えよ! って事はそこの護衛もか!」
立て続けに『アンチスペル』を唱え護衛達を『呪言』から解き放って行こうとした……が、護衛たちに変化はない。
「は? な、なんでだよ?」
「ふふふ……あーはっは! 別にこいつ等に『呪言』は掛けていない、こいつ等はこいつ等の意思で私を護衛しているからな!」
「む〜。 どうして……」
しかしここまで来たら後には引けないし、これ以上時間も掛けられない。
「みんな! こうなったら実力行使! 護衛を抑えて侯爵を捕まえるぞ!!」
俺の号令で全員が動き出した!




