酔っぱらい注意
ルル達が情報を得て教会を訪れていた時、ウィル達もバッハ公爵について聞きこみを行っていた。
「……はぁ、駄目だわ。 誰に聞いても答えてくれない。 余程バッハ公爵が怖いみたい」
「こっちもね~。 皆さん駄目だわ~」
ノエル同様空振りのアリスもお手上げのジェスチャーだ。
「ウィルとマリアは?」
「あっちの商店街に行っているわ~」
「そっか」
一息ついているノエルに、
「どう~? 朝の件は落ち着いた~?」
「朝の件? あ、ああ、あれね。 ごめんなさい、暴走しちゃって……」
ルルの話を聞いたアリス達に、ウィルとルルの間に何もなかった事を知らされようやく落ち着いていた。
そうよね……考えたら朴念仁で鈍くて女性の扱いがなっていないウィルだもの。
ただルルの事になるとちょっと積極的だし、ルルの事しか見ていないのがねぇ~。
ってあれ? 私ウィルの事応援するんだったような?
なんでウィルとルルが仲良くするの嫌なんだろう?
しきりに首をひねるノエル。
そんなノエルの方がトントンと叩かれる。
「ウィル?」
振り返ったノエルの目には見ず知らずのデブな男が立っていた。
酔っているのか顔を赤くしてアルコールの匂いを漂わせている。
手にはちゃぽちゃぽ音を立てる酒瓶が握られていた。
「よぉ! ねーちゃん、見ない顔だな? 暇なら俺と一杯やろうぜ~!」
(なんだ……酔っぱらいのナンパか)
「悪いけど今忙しいの、遠慮しておくわ」
「忙しいって突っ立ってただけじゃねーか……ヒック!」
「人を待ってるの、あっち行って!」
「んじゃ暇なんだろ? 俺とそこで飲もうぜ~」
デブはしきりにノエルを触ろうと手を伸ばす、その手をピシャリと叩いて、
「もう、しつこい!! 私は予定があるの! 消えて!」
前パーティメンバーの所為で男性に嫌悪感が出来たノエルはイライラし始めた。
(これだから男って嫌なのよ!! ウィルを見習ってほしいわ!)
しつこく絡むもなびかないノエルに、デブもイラついたようで、
「おいおい! そんな態度はひでぇんじゃねーかぁ? ……ひっく」
「うるさいわね! 本当なら叩き斬って上げてもいいのよ?」
「あぁ? お前が俺を? 随分となめてくれるじゃねーか? ムカつく女だ」
「はぁ!? あんたが来なければこんなことにならないんだけど?」
酔っぱらいに強く出ても揉めるだけ……それを知らないのかノエルと酔っぱらいの言い合いはエスカレートしていく。
「ノエル~、もうほっときなさい。 それより私達がウィル達の方へ移動しましょうよ」
アリスが言うもののノエルとデブの言い合いが止まらない。
「調子にのってんじゃねーぞ!」
「あんたなんかにやられる私じゃないわよ!」
デブがナイフを抜いたのに触発されてノエルも剣を抜いた!
「ちょ、ちょっとノエル!!」
さすがのアリスも慌てて止めに入る!
「ノエル! あんた街中で何してるの!?」
「だって先に武器を抜いたのはあっちなのよ!? 私は悪くないわ!」
「そいう言う問題じゃないでしょ!」
騒ぎを聞きつけたのか、街を行く人達が集まり始めノエルたちを遠巻きに見ている。
「騒ぎになったらウィルに迷惑掛かるわよ?」
「う……」
その一言でノエルの動きが止まる。
そして、
「わ、分かったわよ」
ノエルが剣を納めた、そこへ、
「お前達全員動くなよ! そこで何をやっている!!」
気付けば巡回中の兵士達がノエルとアリス、そしでデブを取り囲んでいた。
一方、聞き込みをしているウィル達。
人通りのマシな商店街で行っていたが……、
「駄目だな。 マリアの方はどうだ?」
「こっちも。 みんな答えてくれないわ」
「どうやら単純な恐怖ではなく……何かあるようだな」
顎に手を当て考え込むウィル。
そんなウィルにマリアはツツツ~と身を寄せると、
「ウィル。 貴方もう少しノエルにも気を遣いなさい?」
「ん? 何のことだ?」
「ノエルは貴方の仲間なのよ? 昨日帰りが遅かった事すごい心配してた」
(フフ……こうやってノエルの後押ししてあげなきゃ!)
心でほくそ笑むマリア。
……どこかに愉しんでいる自分もいるのではあるが。
「そうか……それはすまないことをした」
「そう思っているなら、ノエルにも気の利く言葉を言ってあげて」
「気の利く言葉といわれてもな……」
「えと……例えば『ノエルは大事な俺の仲間だ!』とか『ノエルがいるから安心出来る』とか」
「……それって気の利く言葉なのか? 違う気もするが……」
「間違いない。 私は女だから女心分かる!」
幾分無茶ぶりだが、鈍感なウィルなら分かんないでしょうし……
「まぁ、そうだな。 分かった」
「それじゃ戻ったら……って何か騒がしい?」
マリアが向いた先、そこには遠くで兵士達に囲まれているノエル達が見えた。
「お前達、ここで騒ぎを起こしたな?」
「私達は悪くないわ! 悪いのはあっちで……」
「んだと? 先に叩いて来たのはそっちだろうが!」
「叩くって……軽く払っただけじゃない!」
再び言い合いを始めようとしたノエル達に、
「うるさい! お前ら全員その身を預かる! 詳しい話は別な所で聞いてやる!」
怒鳴る兵士が手を挙げて合図すると、他の兵士達がノエル達を押さえつけようとした。
「大人しくしろ!!」
ノエルの肩を兵士がガシッと掴む!
「な、なにを!」
慌てるノエルだったが……その兵士の腕を別な手が握りしめ締め付ける!!
「いだだだだ!!」
堪らずノエルから兵士が離れると……、
「ウィル!!」
ノエルが嬉しそうに叫んだ。
「大丈夫か? ノエル」
「ありがとう! おかげで助かったわ!」
(きゃー! ウィルかっこいい!! こんなタイミングで助けてくれるなんて)
とノエルが心で狂喜乱舞している中、
「何を! 抵抗するか!!」
「いきなり捕まえようとは道理がおかしい。 彼女達が何かやったって言うのか?」
「ここにいる男と騒ぎを起こしたんだ!」
そこには兵士に両脇を掴まれたデブな男が……ウィルはそいつをみて眉をひそめる。
「お前は……デニムとか言ったか?」
「き、きさま!」
デブもウィルを見て目を見開く。
このデブこそ、冒険者ギルドでルルにナイフを突きつけたデブ男、そしてボスに追い出された男だった。
「知っているの? ウィル」
「ああ。 こいつは冒険者ギルドにいたギャングの仲間だ」
「ぎゃ、ギャングの?」
その言葉にたじろいだのは兵士達だ。
「まぁ追い出されていたがな」
「お前達の所為でな!!」
デニムは射殺さんとばかりにウィルを睨みつけ襲い掛かろうとした。
しかし『追い出された』との言葉に安堵した兵士達ががっちりつかんで押さえつける。
「とにかく……お前達全員来てもらおうか?」
兵士の一言で、他の兵士達がウィル達全員を取り囲んだ。




