貸し一
「監獄……」
俺はその言葉を繰り返す。
街に入ってきたときも思ったが、まさかその言葉を聞くことになるとは。
しかしそれよりも気になる言葉があったな……。
「反乱軍とはどういう意味だ?」
「まぁ、俺様から話した事だからそこまでは教えてやる。 これ以上俺様が教える義理はねぇしな」
「ああ、分かった」
「お前等はこの国の体制を知っているか?」
「体制?」
「貴族による共和制だ」
俺が戸惑っていると、隣に座るウィルが答えた。
「そっちの兄ちゃんの言う通りこの国はお貴族様が治めてる。 そしてそれは五大貴族と言われるやつらだ」
「五大貴族……」
「そう、そして、その一つ一つの貴族には首都を中心とした五つの街をそれぞれ治めてるのさ」
葉巻を灰皿に押し付けて消すと、ボスは椅子に深々と座り直し机の上に両足を投げ出した。
「……ここの街を治めている貴族、バッハ侯爵。 そいつがこの国を乗っ取ろうと画策してるのさ。 それでこの街は完全に外部とのやり取りを遮断されてる」
「国を乗っ取る……だと?」
なんでそんなことを……
俺の考えが読めたのか、
「人口の低下、そして国力低下だ。 この街は見ての通り城塞だ。 しかし他の街はゾンビ共によってかなりの痛手を被っている。 無論他の四貴族の街もだ」
「だから力のあるこの街が、この際国ごと乗っ取ろうってか? ふざけたヤローだ」
国が……人々が苦しんでいる最中、協力どころか他の街の奴らがヤラれるのを喜んでいるなんて!
俺が怒りに手を震わせていると、
「俺の話は以上だ。 勝手に話してなんだが、もちろんそれに見合う情報ぐらい持ってんだろうな?」
「……上位魔族が出た」
「なんだって?」
「上位魔族だ。 『謀略』のライナって名前だったぜ」
「……そんな情報! ……いや、なるほどな」
ボスは少し考えると、
「お前達はそいつにあったのか?」
「倒した」
「なる程な。 そりゃさっきみたいな度胸もあるってものか」
ボスは席を立つと部屋のドアを開く。
「良いだろう、その情報自体は俺様にとっちゃあどうでもいいが、高くで売れるネタかもしれんしな。 それで手を打ってやる」
ドアを開けたのは、つまりこれで話は終わりだと言うことだろう。
(仕方ねぇ……どちらにしろギルドが壊滅してるなら、ここにいる意味はねぇしな)
俺は席を立つと開かれたドアに向かうが……ボスがいきなり手で遮った。
「それと、話の一つは貸しにしとくぜ?」
「なんの事だ?」
「俺様はギルドの事とこの街の事を話した。 お前は上位魔族の事だけだ。 一話分足りねぇだろ?」
クソッ、そー言う事かよ!
「チッ、ちゃっかりしてやがるな! ギャングのボスだろ? それぐらい大目に見ろよ」
「こう言う所に目を向けるのが大所帯を維持する秘訣ってやつなんだよ」
ボスは俺をジロジロ見ていたが、
「そうだな……回復魔法使いは有用だ。 お前への貸しはその力だな」
「……具体的には?」
「俺様の組に入れ」
「嫌だと言ったら?」
「貸しの分働いてもらう。 俺様は興味ねぇが、俺様の部下の相手は大変かもなぁ? まぁ、お前の顔はそこそこだし可愛がって貰えるだろう」
ニヤニヤした笑みを浮かべる。
俺の後ろにいたウィルが掴みかかろうとするのを手で制して、
「一話の借りが組に入れはやり過ぎだよなぁ? つまり永久就職じゃねーか?」
「……俺様の提案に意見するか?」
少し苛ついた様なボスに俺は人差し指を立てる。
「一回だ」
「何?」
「一話分の借りなら一回分の回復魔法だな」
「おいおい、それはおかしくねーか?」
俺に近寄り上から見下すように睨みつけてくる。
俺はその視線を真っ直ぐ受け止め、
「お前は話をしただけだ。 俺は魔法を唱える上魔力まで使うんだぜ? それでおかしいって言うのは割りに合わねーんじゃねぇか?」
これは俺の本心だ。
どう見ても俺の方が労力が大きいだろ?
暫く睨み合っていたが……ボスが不意に視線を和らげ肩をすくめた。
「わーったよ! 全くここ迄ビビらねぇ女とはな。 マジで俺様の部下に欲しいぜ」
「まぁ、そう言うなって。 ここぞって時に呼んでくれれば助けてやるよ」
俺はボスの手を退かすと部屋から出る。
「ああ、ちょっと待て」
「なんだ? まだなんかあんのか?」
「いや、他人に興味がない性分があって忘れてたぜ。 お前の名前は?」
「俺か? 俺は……ルルだ」
一瞬偽名も考えたが後からバレて揉めるのは面倒だ。
仕方なく本名を名乗る。
「ちなみに俺様は嘘は嫌いだ。 さっきの話共々確認をとって嘘だったら……分かってるよな?」
「好きにしろ! 嘘なんか言ってねぇよ!」
と言いつつも内心少し焦ったぜ。
本名言ってて良かった。
「逆にお前さんの名前は?」
俺の質問に対し、
「名前なんか捨てたよ。 今はボスと呼ばれてる、それで良い」
「そうか。 じゃあなボス、邪魔したぜ」
そう告げ部屋から出て出口へ向こうとした時、
「良いか? ルルに手を出そうとしたら俺が……」
ってあの馬鹿! 何穏便に去ろうとしたそばからボスに喧嘩売ってんだよ!
「ウィル!!」
俺の鋭い叱咤にウィルがすぐに黙り込む。
ボスがニヤリとして、
「おいおい、飼犬はもう少し躾けておけよ? 後少しでお前達を帰せなくなるとこだったぜ?」
「悪いな。 だけどそれを言うならお互い様だろ?」
俺は血に濡れた服を指差す。
「ああ、家に入ってきたお前らに対してだから良い番犬だろ?」
「ベル押したら黙るよう躾けておけってことだ」
「ああ、それは確かにな」
ボスは最後に俺達を一瞥すると、
「じゃあな。 借りを返す前に死ぬんじゃねーぞ?」
「ああ」
俺は返事を返すとボスに背を向け出口に向って歩き出したのだった。




