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ある男の登場


俺の胸元を濡らした鮮血が床に垂れ水音を立てる。


「ルル!!」


倒されていたウィルが俺の名を呼ぶと同時に押さえ付けていた筋肉野郎を跳ね除けた!

筋肉野郎は後ろに突き飛ばされ尻餅をつく。


「っ! ……大丈夫だ、ウィル」


俺は痛みに顔をしかめつつ空いている左手でウィルを制す。

ウィルが心配そうに見つめる俺の右手は、首に当てられていたナイフの刃をしっかり握っていて、そこから血が溢れている。



「コイツ! ナイフを離しやがれ!」


デブがナイフを力任せに引き抜き、俺の掌が更に斬り裂かれた!


「ぐあっ!」


さすがの俺も痛みで声が漏れちまった。


「ル……」


ウィルが俺の名を呼びつつ寄ってこようとした時、




「一体これはなんの騒ぎだ?」



静かで落ち着いた男性の声。

それなのに何故か落ち着かなくなる……心がざわめく声だ。


ギルドのロビーにその声がしたかと思うと、そこにいたならず者達全員に緊張が走った。

俺の横にいたデブも顔を青くしてそのまま立ちすくんでいる。



声を出した男性はギルドの奥から出て来たようだ。

俺は出てきた男に目を向けた。



黒レザーのパンツにジャケット。

首からは星がいくつも重なった様なペンダントが見える。


男はスキンヘッドで厳つい顔つき、年齢はそれなりで4、50ぐらいだろうか?

決して大柄ではないががっしりした体型をしている。



デブが固まっている間にウィルが俺に駆け寄ると、斬り裂かれた手……その傷口に布を当て強く押さえた。


痛みに顔をしかめる俺に、


「ルル、早く回復……」

「ウィル!」


俺はウィルの名前を強く呼び、ウィルを黙らせる。


(こんな場所で俺が回復魔法を使えるのはバラしたくない……)


ならず者達、そして新たに現れ一言でならず者達を緊張させる男。

そいつ等に俺のことをバラす必要は無いだろう。



うぅ……かなり痛いし熱さも感じるけど、今は取り敢えず我慢するしかねぇ。



奥から出てきた男は、


「デニム、お前はそこで何をしている?」

「ボ、ボス……いえ、特には何も」


デブがそう答えた瞬間、その足を矢が貫いた!!


「うあぁぁぁ! あ、脚がぁ!」


矢が刺さった足の甲を押さえ、床を転がるデブ男。

そしてそいつに構わず、ボスと呼ばれた男はボーガンに次の矢を装填している。


「そこのベルを鳴らしたってこたぁ俺様の客だ。 そう言ってたよなぁ?」


装填が終わるとコチラに近づきつつそう話す。

その言葉にギルド内の奴らが視線を彷徨わせる。


どうやら全員に再度言い聞かせているらしい。

そして床に倒れているデブ男……デニムと呼んだそいつの頭にボーガンを向けた。


「ボ、ボス! ま、待ってください! 俺はただ……」

「俺様の言葉がわからない奴に用はない。 死ね」


目を見張るデブに向って、ボーガンの引き金を……


「ちょっと待て!」


俺はボスと呼ばれた男を止めた。

別にデブがどうこうって訳じゃなく、ただ俺の目の前で殺しは見過ごせねぇ。


「なんだ? 俺様に命令するとは……死にたいのか?」


ボーガンの矢が俺に向けられる。


こういう奴にマジになるとやられるだけだ。


「あぁ? そりゃすまねぇな。 ただ手が痛いんで俺の用事を先に済ましてほしくてな」


自分より若く背の低い女。

そいつにそんな言葉を吐かれたコイツは……フッと嘲笑を浮かべた。

ギルド内の張り詰めた空気が少しだけ緩む。


「そんな身なりでこの俺様にそんな口をきくとはな。 ベルを押すだけはあるか……」


ボスはボーガンを下げると、


「良いだろう、お前の用事とやらを聞かせてもらおう」


そう言うとくるりと背を向けギルドの奥に戻っていく。

少しだけ足を止めると、


「デニム」

「は、はい!」


震える声でデニムが返事を返す。


「この嬢ちゃんに免じて命だけは助けてやる、今すぐここから出ていけ」

「え! そ、そんな……」

「……二度目はないぞ?」

「!?」


デニムは慌てて立ち上がると、矢に貫かれた足を引きずりながらギルドを出て行く。


「こっちだ、ついて来い」


ボスは俺にそう言うと奥へと進んでいった。





ボスと呼ばれた男に案内され着いたのは、『ギルド長』と書かれたプレートが掛けられた部屋だった。


高そうな机や椅子、家具などが置かれているが、ここの窓にも鉄格子が嵌っている。



ボスは中に入ると豪華な革張りの椅子にどっかと腰を下ろし、


「まぁ、入ってそこの椅子にでも座れ」


置いてあるソファを示す。



俺とウィルは言われたとおり部屋に入ると、ソファに腰を下ろした。

その間もウィルはずっと俺の傷を抑えてくれている。


ボスは机の上に置いてある葉巻を手に取ると、それに火をつけつつ、


「まずはその傷を治せ。 この部屋を血で汚して欲しくないんでね」

「!?」


(コイツ! 俺が治せるって知っているのか?)


しかし確証がないハズ……俺は、


「ここは冒険者ギルドだろ? 回復魔法を使えるやつぐらい呼んでくれよ?」

「自分で治せるよな? いいからさっさとしろ」


(チッ、やっぱり気付いてるっぽいな)


俺は回復魔法を使うと手の傷を治した。


ふぅ……結構痛かったぜ。 ったく!

まぁ、自分でやった事だけどな。



「お前。 見た目と性格が全然違うな? そんな無茶するやつ男でもあんまり居ねぇぞ?」


ボスが葉巻をふかしつつ感心した様な顔を向けるとニヤリとする。


「色々あったんでね」


俺は肩をすくめると、


「それより……お前は本当に冒険者ギルドの長なのか?」

「……そう見えるか?」

「見えねえ」

「まぁ、そうだろうな」


葉巻の煙をくゆらせながら、


「……冒険者ギルドなんてものはこの街にはねぇよ。 とっくに潰されちまってる」

「潰された?」

「ああ、そうだ。 俺達はその建物を利用している、言わばギャングみたいなものさ」

「潰されたってどう言う事だ?」

「文字通りさ。 ギルド長は逃げ出し、今や冒険者は殆ど残っていない」

「……」


黙り込む俺が面白かったのかニヤリとするとこう告げた。


「この街は……いや、この監獄は反乱軍なのさ」


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