ならず者
検査の結果、俺達は誰一人問題なしとの結果だった。
まぁそうだろう……だって噛み跡なんて俺が治しちまうしな。
まったく、僧侶を舐めるなっつーの!
しかも検査が終わって外に出るとあいつらもう居ねぇし!
文句言い損ねたぜ。
「で、これからどうするッスか?」
「とりあえず、冒険者ギルドかな? 一応魔族の事を詳細に報告しておこうと思う」
ライナの事は速報として水晶板を使って知らせたけど、詳細な説明をした方がいいだろうしな。
「じゃあ、私達は先に宿に行ってもいい?」
「あ、俺達も出来ればそうしたい」
尋ねるノエルとゴンズに対して、
「いいぜ、ライオン達も行っているか? 俺は報告に行くだけだしな」
「そうだな……マントも汚れてしまったし、そうさせてもらおうか」
俺は遠目に見えている冒険者ギルドの看板を目指して歩き出し、みんなはすぐそこの宿屋に向かって歩き出した。
「ん? どうした?」
ふと気付くと俺の横に並んでウィルが歩いている。
「ルルを一人にするのは心配だ」
「あのなぁ? 俺は子供じゃねーぞ?」
「でも女性だ」
何処までも真剣な表情でウィルが返す。
冗談を言わない性格だし、本当にそう思っての返答だろう。
「まぁ女には違いないけどな。 でも報告するだけだぞ?」
「構わない。 ルルの側にいたいんだ」
「う、お、お前なぁ……よくそんな恥ずかしいセリフ言えるな」
言われているこっちが聞いてて恥ずかしい。
こいつは『何が恥ずかしい?』みたいな表情だし……。
「まぁいいや、ひとまずとっとと報告しちまおうぜ」
「……ここ、冒険者ギルドだよな?」
「看板にはそう書いてあるな」
「だよなぁ……」
冒険者ギルドは今まで見てきたギルドとは様相が全く違っていた。
壁は全て鉄で出来ており、窓はあるが鉄格子が嵌っている。
ドアも金属製で鋲がいくつも打ち付けており……ここ監禁部屋とかじゃないよな?
まぁ立っててもしょーがねぇか
俺は意を決してドアを開く……結構重いがそれでも開ける事は出来た。
ドアを開けた瞬間、部屋の中にいる奴らの視線が一斉に集まる。
(……どいつもこいつも、やばそうなやつらだぜ)
冒険者……ではあるのかもしれない、しかし冒険者というより傭兵のように見える。
どう見ても常人の様には見えず、無法者たちがたむろっている酒場の様にしか見えない。
(……めんどくせぇな。 用だけ済ませてさっさと帰るか)
俺はギルド内に入るとスタスタとカウンターを目指す。
スッ
俺の進行方向を遮る様に二人の男が立ちはだかる。
どちらもならず者って感じの剣士でデブな奴と筋肉質な奴だ。
「邪魔だぜ?」
俺の言葉に少し驚いたようだが……二人して顔を見合わせ、
「おいおい、この女見た目と違って口がわりぃな」
「そうだな。 どっかの世間知らずの嬢ちゃんかと思ったが……意外だぜ」
そうして俺に視線を戻すと、
「嬢ちゃん、ここを喫茶店か何かと間違ってねぇか? デートなら余所でやりな」
「あ? デート? 誰が誰とだよ?」
「あら~? 後ろの兄ちゃんは相手にもされてねぇってか? 残念だなぁ?」
デブな男が俺の後ろにいるウィルに下卑た笑いを向ける。
俺は振り返らずにウィルの手を押さえつけた。
彼の手は剣の柄に掛かっている。
「挑発に乗るな。 こういうヤローは大抵下衆な事を考えているからな」
ウィルが無言のまま剣の柄から手を離し……なんでそこで押さえた俺の手を握る?
まぁ暴れるよりいいけど。
「んだよ! 手ぇなんか握りやがって! ここはホテルじゃねーぞ?」
いきり立つ筋肉。
デブも同調して、
「いちゃつきてぇなら外に出な!」
「……いいから、そこをどけ。 俺はギルドの奴に用があってきたんだよ」
「いやだね。 どきたくねぇな? お前に従う義理もねぇしな」
腕を組んで前に立つデブ。
……チッ、面倒な奴だ……筋肉がさり気なく後ろに回り込みやがったな?
挟み撃ちにして逃がさねぇつもりか?
「ウィル、手を離せ」
素直に手を離すウィル。
「お? なんだ? やる気になったか?」
(ふぅ……めんどくせぇな)
ギルドのカウンターに目を向ける……そこには誰もいない。
その代わり『御用の方はベルを鳴らして下さい』と書かれた張り紙があり、その近くにベルが置いてあった。
(あれを鳴らせばいいんだな?)
こんな二人に構うのも面倒だし、この挑発具合からも先に手を出した方に何かしらありそうだ。
だったら無視するべき!!
俺はくるっと反転してウィルに抱き着く!!
「!?」
ウィルが一瞬で固まるのが分かる。
そうして俺は確認していく。
(……膝……剣の柄……肩……これで行こう!)
固まったウィルの右膝が少し前に出ている。
それに左足を掛け思いっきり上に……右足で剣の柄を踏みつけ……そして肩に左足!!
ウィルの高い身長を素早く駆け上り跳躍すると後方に宙返りする!!
そして俺はデブを飛び越えた!!
「な、なにぃ!!」
驚くデブの後ろに着地するなり俺はカウンターに向かって駆け出す!!
そしてカウンターの上にあるベルをぶっ叩いた!!
チーーン!!
それは場違いに涼し気な音を響かせ……その瞬間俺の髪が引っ張られた!!
「うぐ!!」
「このクソアマ! 俺をコケにしやがって!!」
追いついたデブが俺の髪を引っ張り……のけぞった喉にナイフが当てられる!!
「ルル!!」
「動くな!!」
剣を抜こうとしたウィルをデブが制止する。
ちっくしょう……今チクっとしたぞ! コイツ少し斬りやがったな!!
俺の状況を見て動きを止めたウィルだが、もの凄い目でデブを睨んでいる。
今の俺が言うのもなんだけど……ちょっと怖いぞ?
「大人しくしやがれ!!」
「ぐっ!」
筋肉がウィルを背後から床に押し付け転がした!
「ル、ルル!」
地面に押さえつけられながらもウィルは鬼の様な目をデブに向けている。
「何だ? お前はこいつが大切らしいな? グッフフ……そうかそうか、どうしようかな?」
デブが俺の喉にナイフをぺたぺたと当ててきた。
「そうだな……結構なものを持ってるし、折角だからここで裸でも披露してもらおうか」
なっ! こ、こいつ何てこと言いやがる!!
動こうとした俺だが、再度喉にナイフを突きつけて来た。
「動くなよ? 喉が裂けるぜ?」
「く……くそっ! ざ、ざけんなよ!!」
(……俺を舐めんなよ! こうなったら……)
ブシュッ!!
「は?」
「え?」
「!?」
間抜けな声を出すデブと筋肉、そして目を見開くウィル。
俺の足元に血が滴り、僧侶服の胸元が赤く染まっていった……。




