城塞都市ダーテンハルト
街……といわれてはいるが、その大きさは既に都市レベルだろう。
故に呼ばれている名称は『城塞都市ダーテンハルト』
ゾンビ犬達に襲われた日から三日目の昼。
俺達はついにその街を見下ろす丘に辿り着いた。
グスタンベルグでも屈指の大きさを誇り、20mほどは有ろうかという巨大な鉄の壁に囲まれている。
壁には弩や弓矢の為に小さな穴が開けられており、壁の上部には巨大な投石器がいくつも設置されていた。
その姿はまるで城か何か……正に『城塞』と言われるのに相応しい堅固さを持っていた。
丘を下り、ダーテンハルトに繋がる道を歩いている俺達の目に、いくつもの遺体が転がっているのが見えて来る。
それはダーテンハルトに向かうにつれて数を増し、街の門周辺ではまるで山のように積み重ねられていた。
「……ゾンビ……だな」
俺は道端に倒れている遺体を確認すると、その瞼を閉じつつ立ち上がる。
まだ若い男性であっただろうその人は、体の一部を抉られていた。
しかし直接の死因……というよりゾンビ状態での活動停止はちぎれかけた首の様だ。
ダーテンハルトに襲撃に来て倒されたのだろう。
殆どの遺体に矢が刺さっている。
「これを見るにかなりの者がゾンビ化し……そして倒されたようだな」
「ああ……まったく酷いもんだぜ」
(クソ……魔王のやつめ! 老若男女幼い子供まで巻き込みやがって!)
本当は手厚く葬ってやりたいが、流石にこの状況は無理だ。
とりあえず目についた遺体に手を合わせつつ街へと進んで行った。
「さて……とりあえず門には来たが……」
辺りを見るが門番の姿はなく、門も固く閉ざされたままだ。
鉄の門は頑丈に作られており隙間や窓などもない。
「これどうやって開けて貰えばいいんだ?」
「とりあえずノックしてみるッスよ!」
リリがスタスタ歩いて鉄の門をガンガン叩き始めた!
「開けて下さいッス~。 フィリ厶国から来たッスよ~~!!」
すると……
ガチャン!! ギギギギ……
大きな鉄の門が重い音を立てながら開き始めた!
「おお、開いたな!」
「やっぱりノックッスよ! 挨拶すれば通じるもんスね」
振り返ってピースサインを見せるリリ。
「ふむ、リリ。 そのまま動くなよ?」
ライオンが鋭く警告した。
「ふぇ?」
首を傾げるリリ……その首と頬に槍の穂先が突きつけられた!!
「リリ!!」
叫んで飛び出そうとした俺の腕をウィルが素早く掴む!
「お、おい!」
「大丈夫だ……よく見て見ろ」
言われて改めて見ると、開いた門の向こう側。
装備を整えた兵士達が槍を俺達に向かって突き出している。
その目は鋭く、のほほんとして成り上がった兵士とは違う様だ。
「っ! な、なんなんスか!!」
いきなり槍を突きつけられたリリが少し怒りながら声を荒げる。
「私達はフィリ厶国から来たッスよ! 呼んだのはそっちなのに……」
「リリ、待て。 落ち着け」
俺の声にリリが渋々口を閉じる。
それを確認すると、
「どうやら俺達を確認したいようだな?」
俺が言葉を投げると、槍を構えていた兵士達が二手に分かれ真ん中から一人の男性がツカツカと歩み出てきた。
伸ばされた背筋に優雅さと威厳を感じさせる歩き方だ。
兵を控えさせ俺達の前に出て来たその男は、
「話が早くて助かりそうだ。 俺はこのダーテンハルトで守備隊長をしているカインズという」
背が高く細身でありながら弱さを全く感じさせない。
程よく引き締められた肉体、手のマメ、そして左目を眼帯で覆ってはいるが……額から左目、そして顎まで一直線についた傷跡。
黒髪をオールバックにしているが長髪らしく、後ろで一纏めに結ばれている。
俺達に対して蔑むような視線を向けると、
「お前達が誰であれ、この街に入るには身体検査を受けてもらう。 ゾンビではないという保証はないからな」
「へぇ~……こっちには俺達みたいな会話出来るゾンビもいるのか?」
俺は軽くカインズを睨みつける。
身体検査は構わないが……いきなり槍を突きつけてくるとは気に食わねぇな。
「噛まれた傷から感染し、後から発症する例もあるからな」
カインズはそれを軽く流すと俺の体をチラリと見る。
そして、
「心配するな。 女は女性兵士が確認する。 ……タニア!」
「はい!」
カインズの声に、兵士の中から一人が前に歩み出る。
ダークブラウンの髪をベリーショートにした女性で、他の例にもれずかなり鍛えられているようだ。
きびきびした返事や動きから、そう言った部分が垣間見える。
「すぐそこの建物が検査所だ。 男性は入って左、女性は右の部屋で検査する。 全員そのまま検査所に入ってもらおう」
カインズの合図で兵士達が俺達を取り囲むと、そのまま検査場と呼ばれた建物に連れて行かれる。
その姿はまるで連行される罪人の様だ。
(厳戒なのは分かるが……にしてもな)
俺達が門の内側に入るなり、重量のある門が速やかに閉ざされる。
堅く閉ざされた門を見ながら、
(まるで監獄だな……)
そう思わずにはいられなかった。




