鯖折り
瞼を閉じて周囲に魔力を張り巡らせる。
二人……四人……七人……八人……俺を入れて九人っと!
『アンチカーズ』を範囲化して掛けると、体がフッと軽くなったように感じる。
頭痛や熱っぽさも消えた様だ。
みんなの中にある呪いも消失したのを感じる。
「ふぅ……もう大丈夫だぜ!」
目を開けると安心したようなみんなの顔が見えた。
俺達が地下から出るとゾンビはおらず、早々に呪いの治療に当たっていた。
周囲は深い森になっており暗く鬱蒼としており、天に昇った月明りだけが煌々と辺りを照らしている。
治療を終えたことで、ライオンとリリが焚き火の準備に取り掛かっていた。
「な、懐かしい……ルルの魔法……」
感極まった声に目を向けると、両手を震わせブルブルしているウィル。
(なんでウィルの奴は涙流してるんだ!? そんなに呪いが怖かったのか? まぁ死ぬという事は誰しもこえーだろうしな)
「ルル……」
神妙な声がして見ると泣き出しそうなノエルが立っていた。 そして、
「ごめんなさい!!!」
身体を90度に折り曲げ俺に向かって頭を下げる。
「わ、私ったら……なんてことを……本当にごめんなさい」
「私も」
「同じく……」
アリスとマリアもその横に並ぶとノエル同様頭を下げて来た。
「嬢ちゃん……すまねぇ、儂も同罪だ」
いつの間に来ていたのかゴンズも同じように謝ってきた。
「あ~……まぁ仕方ねぇよ。 『呪言』とか言うのが掛かってたんだろ? だったら気にすんな。 こうしてみんな無事だったんだ」
俺は声を掛けつつ頭を上げさせる。
誰だって死ぬのは怖い……混乱していればわが身を優先するのも仕方ねぇ。
「あ、ありがとう!!」
顔を上げたノエルは涙で顔をぐしゃぐしゃにして……俺に抱き着いて来た!!
「おわっ!! お、おい!!」
涙と鼻水が俺のローブに!?
うぁぁぁなんかこれ既視感があるぞ!!
しかも背の高いノエルに抱きしめられ……っていうかこれ鯖折りだ!
「ぐふっ! ちょ、背、背中ぁ~……」
逆くの字に曲がる俺の悲鳴に、
「ノエル~、ルルちゃん死にそう~」
「ノエル、どうどう……ストップ」
アリスとマリアがノエルを止めてくれた。
「ふ、ふー。 た、助かっ……」
「私も~ルルちゃんに抱き着きたい」
「あ、じゃあ私も」
両サイドから助けてくれた二人が抱きしめて来た!!
「ぐあ! な、なんでだよ!? 離れろって!」
三人に囲まれる俺。
(何故だ!? 何故謝罪の展開からこうなる!?)
「く、苦しいって!」
「大丈夫、そうそう窒息しない」
「あら? ルルちゃん結構お胸でかいのね」
「ごめんなさいー許して~」
「ぐは! 押すな! 揉むな! くっつくな!!」
もみくちゃにされる俺は、
「ウ、ウィルこいつらを止めてくれ! お前んとこのだろ!」
「……俺はどっちかと言うと、混ざりたい側なんだが……俺もルルを抱きしめたい」
「おい!!」
駄目だ……あいつは役に立たねぇ!
そうして……焚き火の準備が終わり、飯の呼び声が掛かるまで俺は弄ばれた……ぅぅちくしょう!
飯が一段落した俺は焚き火から少し離れた場所にいるゴンズの元にやって来た。
「……嬢ちゃん。 どうした?」
「ん? いや何……俺もな」
少し離れた場所にはユーナが木に寄りかかっている。
そしてゴンズの足元には盛り上がった土があり、その中にはオルダンが埋葬されていた。
俺はそこに跪くと両手を握り合わせ祈りを捧げる。
一緒に旅してきた仲間……そしてオルダンのおかげでライナを倒すことが出来た。
でも、出来れば……やっぱり死なないで欲しかったよ。
喧しくもにぎやかだったオルダン、彼の声はもう二度と聞くことが出来ない。
「ありがとな……」
俺は小声でそう呟く……
祈りを捧げて立ち上がると、ゴンズが頭を下げて来た。
「あんがとな、オルダンの為に」
「んなことねーよ。 同じ仲間だったんだ……俺だって死なないで欲しかったが……」
俺は首を振って言葉を切る。
後悔の言葉なんか何にもならない。
「依頼主、そうやっていると流石に僧侶っぽいな」
いつの間に来たのかユーナが傍まで来ていた。
「ん? そうやってるってなんだ?」
「祈りを捧げる姿だよ。 月明りの中、祈る姿はまるで聖女だな」
うん? こいつもしかして珍しく褒めてんのか?
俺はニヤッとすると、
「へぇ~、珍しく持ち上げるじゃねーか?」
「っ! あ、あほか! 逆に言うと日頃は全くそうは見えないって事だ!」
照れたのかそっぽを向くユーナ。
そんな彼に、
「まぁ、あんがとな。 お前の頭の回転には救われたからな」
「ふん! 俺みたいな天才を雇えたことを幸運に思うんだな!」
ドヤ顔で胸を逸らす。
……うん、間違いねーわ。 こいつはおだてれば木に登るタイプだ。
今度から褒め殺して指示出してやろう。
「俺はもうあっち戻るけど……」
「ああ、先に行っていろ。 俺もゴンズも……もう少しオルダンに話していく」
寂し気に目を伏せたユーナ。 なんやかんやあってもやはり仲間だったのだ……別れの言葉を伝えたいのだろう。
「ああ、分かった。 じゃあな、おやすみ」
俺は二人に……いや、三人に背を向けると焚き火の方に歩き出したのだった。




