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ライナの赤い目を見た俺は直感で思った。


(何かは分からないが……コイツは嘘をついている)



……そういやぁ、村にいた頃、友達ダチにやたらと嘘が上手いやつがいたな。

なんでも嘘を上手くつくコツがあるとか……。

確か『つきたい嘘は一摘み』……だったか? 大部分は本当の事を話して少しだけ嘘を混ぜればバレにくいとか。


実際村でも、柵を壊して逃げた羊を狼が追いかけて行ったとか嘘言いやがって大騒ぎになったっけ?

あの時は『柵を壊して逃げた羊』が真実で、『狼』が嘘だったか……でも壊れた柵といなくなった羊の所為で嘘が本当のように思えたんだよな。


そう……真実があればその陰に隠れる嘘が見つかりにくくなるって訳だ。


……まぁ最後はウソがばれてそいつは大目玉を喰らってたけどな。




「ゴンズさん、何してるッスか!?」


リリの鋭く険しい声が飛ぶ。



見るとゴンズが俺のすぐそばまで来ていた。

両手に持つ大斧を少しばかり持ち上げている。

さっきまでもう少し離れていたはずだが……?


「……すまないが」


俺を見ながら申し訳無さそうにするゴンズの謝罪に被せて、


「わ、私も死にたくないし……ウィルにも、みんなにも死んでほしくない」


感極まった声でノエルが叫ぶ。

その切っ先は震えながら俺に向けられている。


「だ、だからルルさんには……」


俺とノエルの間にウィルが割って入った。


「ノエル……お前がルルを殺すというなら、君は俺の敵になる」

「っ! ど、どうして!! 貴方だって……ううん、このままじゃ全員死ぬかもしれないのよ!?」


ノエルの悲痛な叫び……アリスとマリアはどうしていいか分からない様だったが……。


「私達はノエルが大事。 それなら……」


マリアの声とアリスが弓を引き絞る音が重なった。

矢尻は真っ直ぐに俺を捉えている。

ウィルはその射線を遮るように立ち位置をずらした。


それに構わず俺は考える。

打開案がなければ俺達はどちらにしろヤバイ。

(……この地下室に呪いと同じ効果のガスがあるのは確かだ。 治療してきた俺には分かる)

ガスの影響か頭痛がし始め熱も出てきているようにも感じられる。


(そしてあいつの目的……冒険者のゾンビ化や軍団の話は本当だろう。 じゃないとここまで手間を掛けて俺達を助けた意味はないぜ)


じゃあ……何が嘘なのだろうか? 助けるというのは間違いなく嘘と思えるが……そんなあからさまな嘘をどうしてゴンズやノエルは信じているのか……。




俺とゴンズの間にリリが立ちはだかり、ノエル達と俺との間にウィルが立ちはだかる。

ライオンだけはライナから視線を逸らしていない。


そんな緊迫した空間に……突如笑い声が響いた。



「あっはっはっはっ!! もう駄目だ腹がよじれそうだ! 笑い過ぎて、く、苦しい」



みんなが呆気にとられた先……それは唯一動かなかった男ユーナだ。


「お前ら全員そろいもそろって馬鹿か? ここまでされて何で信じられんだよ?」

「な、何よ! 死にたくないって事のなにがそんなにおかしいの?」

「アイツの話は嘘に決まってるだろ? それを簡単に乗りやがって……」

「でも他に方法があるの? 実際私は具合が悪くなってきているもの。 この地下室にはきっとガスが……」

「あぁ? そうだな。 俺も具合が悪いしガスの話は本当だろうな」


ユーナはライナを一瞬だけ見たがすぐに目線を戻し、


「だが助けてやるって、この状況でそんなわけ無いだろ?」

「で、でも他に可能性はないじゃない! それこそ私達はゾンビに……」

「落ち着け! ルルは僧侶だぞ? ここから出ちまえばこんな状態治してもらえんだろうが?」

「でもライナを倒せないし……ここから出れなきゃ治療なんて……」

「どうしてわかるんだよ? 倒せないって」

「だって魔力を解放したみたいだし、それにあいつが言って……」

「だからそれこそがあいつの嘘なんだよ」


ユーナはライナを冷ややかに見つめると、


「俺達を助けるって言った事と、俺達相手に耐えるって言っていた事が嘘なんだよ」


ライナは何も反応しない、表情もそのままに俺達の聞いている。



「大体お前らなんでこんなに簡単に信じてるんだ? おかしすぎだろ? 魔族だぜ?」

「そ、それは……」


ノエルが言い淀んで口を噤む……自分でもおかしいと思ったようだ。


「なんてな……。 まぁあいつの言葉には『呪言』が練り込まれているからな」

「!?」


ほんの少し……一瞬だけライナがピクリと反応した。

ライナを見ていたユーナはニヤリと口を歪める。


「簡単に引っかかるたぁアホな魔族だな。 本当に『呪言』混ぜてやがったか」

「……」


『呪言』が何かは分からないが……まぁ話の流れからして暗示みたいなものだろうな。

俺は何も感じなかったが。


ライナはユーナを赤い目で睨みつける。


「自慢の『呪言』もハイレベルな魔術師である俺と、僧侶である依頼主、その他一部の奴には効かなかったようだがな」

「……」


ライナは無言で睨みつけたままだ。

ユーナは肩をすくめて、


「大体、俺達全員を相手に出来るならゾンビ達を呼ぶ必要はないし、最初から魔力開放状態で戦っていた方がまだ早い。 ここに釘付けにするだけで俺達はゾンビになるんだから」


ノエル達やゴンズは黙ったままだ。

ユーナのいう事が真実だと感じ始めているのだろう。


「つまりこいつは開放状態でも戦闘向きじゃない……さっきの『呪言』みたいな謀り事向きなんだろ? だからわざわざ俺達にルルを殺すように言ってきたんだ」

「そうだ……確かにユーナの言う通りだぜ」


俺はユーナの言葉を引継ぎながらライオンの隣に並び立つとライナを真っ直ぐ見つめる。

ライナは視線をユーナから俺に移す……赤々と燃える様な瞳が俺に向けられ視線がぶつかり合った。


「大体最初から怪しい事は分かっていた。 ゾンビ犬達が諦めたことも、そこが出口というのも、こんな所に女の子がいるという事も……全て怪しかったしな。 だから__ 」


俺はライナの後ろに目を向ける。


「嵌めさせてもらった。 なぁ? オルダン」

「!?」


予想していなかった名前が出て驚愕したライナが慌てて振り返る!



そんな馬鹿な!! 殺したはずの男が私の背後に_____。




そこには誰もいない。


(しまった! はめ……)



ライナの小さな体をライオンの刃が走り抜けた!



完全に不意打ちだった上、ライオンの剣速は尋常じゃなく……彼女が慌てて振り向いた時には肩口に剣先が入っていた。

まるで閃光の様な速さだ。



怪しんでいたという真実に紛れ込ませたオルダン

視線と状況も相まって簡単に引っかかってくれたが……しかしそれより驚いたのはライオンにだった。


(ま、マジか。 打ち合わせも無しに俺の意図を読んで……そんな早く剣を振るえるなんて)





斜めに斬り捨てられ……二つに分かれたライナの体。

血は出ず、下半身の方は灰になり消えて行った。


そして上半身の方からは……、


「うぅ、よ、よくもぉ~~」

「まだ生きてんのか!?」


身体を二つに斬られてまだ生きてるなんて……何て化け物だ!


驚く俺の横から素早く剣が突き出される!

ライオンの剣は倒れているライナに……上半身だけのくせに転がって避けやがった!


「い、いや! お願い! 死にたくないの、お願いします!!」


子供の様なライナが涙を流して必死に命乞いをし始めた。

しかし上半身だけになった今、哀れというより恐ろしいように感じる。


「お願いします、私に回復魔法を掛けて! 早くしないと……」


床を這いつくばるライナ……。

その姿にライオンは剣を止めて様子を伺い、俺は……考え込む。


う~ん、どうしようか? 確かにこのままじゃ死ぬだろうし……

俺は「どうしよう?」という目を隣のライオンに向ける。


特に何を言うでもなくライオンはじっとライナを見ている。

俺の判断に任せるみたいだな? それなら……


「オルダンを殺した罪、償ってもらうぞ?」

「はい! はい!! 償いますから!! お願いします!!」


俺は小声で魔法を唱え、倒れているライナの側にしゃがみ込むと回復魔法を。


「ありがとう……」


小声で呟くライナ。 そして涙に濡れた目を向け微笑むと、


「お前も道連れよ!」


手の中に潜ませていた短剣が素早く突き出された!!




俺は構えていた杖でその腕を殴りつける!

『ガード』によって強化されていた杖はライナの腕をへし折り……短剣があらぬ方向に飛んで行った!!


「な!」


驚いたライナの顔、その中心にライオンの剣が深々と突き刺さる……。



俺は首を振りながら立ち上がると、ライナを見下ろしながら呟いた。


「ライナ……お前が本当に助かりたいんなら助けたよ。 だけど嘘しか感じられなかったぜ」


ライナはもう聞こえなかっただろう……その顔や体が灰に変わりサラサラと細かく砕けて消えて行った。


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