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袋の鼠


弾かれたように後ろを見る俺達の目に映ったのは、ゾンビ犬に襲われているマリアと、更にその背後……入り口からなだれ込んで来ているゾンビ犬達だった。


「そうか! しまった!!」


俺達が地下に入るとゾンビ犬達はあっさりと引き下がった。

あれがライナの仕業だとすると、こいつはゾンビ犬達を操ることが……



「ノエルは左、俺は右、アリスは入り口からの後続を仕留めろ!」


間髪入れずウィルが風のように駆け寄りマリアにのしかかるゾンビ犬の首を斬り落とす!

返す刃で迫る一匹も切り裂いた!!



キン! ガシャン!! 


金属音がしてライナを拘束している鎖が外れて闇ごと消えて行く……。

マリアが襲われたことで魔法の維持が出来なくなったのだろう。



バン!!!


更に続けて破裂音が聞こえ、そのライナの隣にある扉……俺達が向かおうとしてい下さいた扉のドアが外れると、中から人型のゾンビが襲い掛かってきた!!


一番前にいたゴンズが反射的に斧を振るいゾンビの両腕と首がザクリと切り落とされる。

しかし、扉からは次々とゾンビが押し寄せてきていた。

ゴンズを援護すべくリリが走る。


そして俺の横にいたライオンは自由になったライナと剣戟を繰り広げていた。



(くっ……袋の鼠ってか! ……ひとまずマリアを)


助け出されたマリアに駆け寄り回復魔法を施していく。

幸い助け出されたのが早かったせいか傷は浅い。

痛みに顔をしかめている。


回復魔法を掛けつつ戦況を確認するが……どう見ても不利だ。


(ライナのやつ……余裕ぶっていたのはこれか! ゾンビ共を控えさせてやがったな!)


今頃気づくが流石に遅い。


前衛はみんな手一杯、となればマリアとユーナに頼むしかねぇ!


「魔法でどっちかだけでもなんとか出来ねぇか!」

「……うん、犬側任せて……痛かったし」

「はっ! 仕方ないな。 依頼主のいう事だし……高くつくからな!」


マリアが押し寄せるゾンビ犬達に恨みがましい目を向けると魔法を放つ。


『ハーデス』



入り口からどんどん侵入してくるゾンビ犬達。

この部屋に来ようと通路を進んだ時だった。


ズブッ! ドプン!


粘着質な水音がしたと思うと、部屋に向かってきていたゾンビ犬達の体が地面にズブズブと沈み込んでいく……

ゾンビ犬達も藻掻いて手足を動かすが沈み込む速度が増すばかり。

入り口から入ってきたゾンビ犬達はその様子を見ても何も考えず次々と魔法の底なし沼に沈んでいく。

ゾンビになると知能がないので何も思わないのだろう。



「これで入り口からのゾンビ犬は問題無い。 ちょっとスッキリ」


深くかぶったフードからマリアの晴れ晴れした顔が見える。

……少しは恨みが晴れたらしい。


だけど……

(マリアの魔法こえぇぇ……執念深そうだし怒らせねーようにしないと)



まぁ、とにかくあっちは何とかなりそうだ……続いて俺はユーリの方に目を向ける。

ユーリはゴンズ達の方を何とかすると言っていたが……ん? なんだありゃ?


ゾンビ達が次々雪崩れ込んできていた扉。

そこには薄い半透明なゼリーみたいな物が張り付いており開いた出口をドアのように塞いでいる。

そして……、


ジュゥゥゥ……

ジュワァァァ……


って音だけ聞くとステーキかよ!?

半透明なゼリーみたいな物に触れたゾンビ達が、白い煙を上げながらジュウジュウと溶けて行きやがる!

向こうの部屋から突撃してきてはゼリーの壁に当たり体を溶かされていくな……まぁこっちも知能がないし。


「クックック……低レベルの召喚でもやりようはあるのさ! スライムに溶かされて骨すら残らぬがいい!!」


変なポーズを取りながらドヤ顔のユーナ。


なるほど……どうやらスライムも召喚できる様だな? しかも低レベルらしいが、結構役立つじゃねーか。

助けられてはいるんだが、セリフも相まって正直めんどい性格だな。

だけど、あれは絶対おだてれば何でもしてくれるタイプだぜ。




二人の魔術師により援軍が断たれた今、残すはライナ一人だ。


「……面倒なことになりました」

「そうだな。 諦めてもらえると楽なんだが?」


戦況が見えたのか鉈を振るいつつも少し眉をひそめるライナとそれを受け流してカウンターをお見舞いするライオン。

カウンターは二本目の鉈に受け止められた。


「諦める? 御冗談を……面倒な事というのは別な事ですよ」


ライオンが剣を引くタイミングに合わせて、二本の鉈を思いっきり叩きつけて来た!!

それを受け止めるも二、三歩後ろに後退する。


「仕方ありませんね。 魔力は使いたくないのですが……」


距離を取ったライナが言い放つ!



「真名開放! 『謀略』」


そう言ったライナの眼が赤く輝きだす!!

それはまるであのカマキリ型の魔族と同じような瞳の色だ。


「貴方達をすぐに殺さず助けたのは何故だと思いますか?」


俺達全員を見回してそう質問を投げかける。


「気づいたでしょうが私はゾンビを操ることが出来る。 そこで思いついたのです、強力な……そう村人などではなく冒険者のゾンビを作れば優れたゾンビ兵士が出来るのではと……」


ライナは先程と同じように優しい微笑みを見せる。

だが赤く光る眼……それがある為只々不気味さが増していた。


「それを使ってゾンビ軍団を作りたいのです。 だからこそ回りくどい手まで使って貴方方を助けたのですが……まぁここ迄面倒な事になるとは思わなかったですけどね」


肩をすくめるライナはまるでおませな子供に見える。


「この地下には魔王様の……いえ、人間にとっては疫病でしたね。 それと同じ効果を持つガスが充満しています。 つまりこのまま此処にいれば貴方達の体はガスに蝕まれてゾンビになる」


俺の周りで何人かが息を呑む。

ライナの赤い目が俺を捉えた。


「そこの僧侶を殺しなさい。 そうすれば他の者は助けてやってもいい」


そして鉈を構えると、


「別に私を倒しても良いですが……貴方達がゾンビになる間ぐらいであれば、私は余裕で耐えれますよ?」


言い切ったライナの足元に突如闇が広がり黒い鎖が幾重にも巻かれていく!!



「私の魔法を甘く見過ぎ」


無表情のマリア……どうやら小声で魔法を詠唱したようだ。



「あなたが甘く見すぎですよ?」

「!?」


幾重にも巻かれた鎖がアッサリと引き千切られた!

魔力を解放したことで強化されているのか……。


「さぁ? どうしますか? その僧侶を殺さないと貴方方は助かりませんよ?」


子供らしい無邪気な、それでいて不気味な笑顔を浮かべ、ライナが俺を見つめるのだった。


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