正体は?
……は?
俺の目の前でいきなり起こった出来事。
赤い水しぶきが上がるそれを、脳が理解しなかった。
間髪入れずに金属同士がぶつかり合う音が響く!
「ルル! 下がれ!!」
俺の横にいたライオンがいつの間にか俺の前に出て剣で何かを受け止めている。
それは鉈だった。
俺も村にいた時は家の手伝いで使った事があるが……しかしライオンが受け止めている鉈は俺が使っていた物とは違い普通の長剣ほどの長さがある。
ぐぃ!! と腕が引かれを誰かが俺を庇う様に背中で覆い隠した。
「ルル、下がっていろ」
ウィルは背中に庇った俺をチラリと見ると再び前を向く。
その向こうからは更に金属同士がぶつかり合う音がしている。
(一体何が起こりやがったんだ?)
俺は更に下がると状況を確認した。
そして目の前で起こっている戦いを認識する。
ライオンの剣が素早く薙ぎ払われ、ゴンズの大斧が唸りを上げる!
しかしそれらは軽々と鈍い色をした刃に受け止められた。
受け止めたのは余裕そうな表情をしたライナ。
その両手にはそれぞれ大きな鉈が握られており、それを巧みに捌いては二人の攻撃を受け止め流している。
二人を相手にむしろ押し気味なライナ。
こっちには前衛がまだいるが、かとってこれ以上の人数でライナに掛かるのは愚策だろう。
だからこそウィル達も静観している状態だ。
だったら……俺はユーナとマリアに視線を飛ばす。
マリアは頷いてくれたが、ユーナのやつは……無視かよ。
ライオンの剣が素早く翻り二連続で斬りつける!
今までとは比にならない速度……ライナもそれには意表を突かれたのか、なんとか受け止めたものの体勢を崩した。
そこへゴンズの斧が振り下ろされ、ライナが体を捻って紙一重でそれを躱す!
その時、ライナの足元に闇が広がった!
「!?」
驚いた表情を浮かべたライナだが、躱す間もなく闇の中から鎖が現れたライナの手足、そして体と拘束して行く……。
「……流石に多勢に無勢。 無理ですね」
鎖に囚われたまま、ライナは力を抜いて諦めの表情を浮かべる。
その両手から大鉈が滑り落ちるように地面に落下した。
どうやら勝負あったようだ。
その様子を見た俺は思わず問いかけた。
「ライナ、お前は一体何なんだ? お前みたいな子供が……」
「子供じゃない」
俺の言葉を遮り、キッと睨みつけてくる。
「私はこう見えて大人よ」
「……分かった。 それでライナは何者でここで何をしていた?」
「……」
「子供には突っ込んどいて、そこはだんまりかよ」
黒い鎖に拘束されたライナは口を固く閉ざし視線を逸らす。
どうやら答える気はなさそうだ。
(さて……どうするべきか……)
迷っている俺にライオンが耳打ちしてきた。
背が低い俺に合わせて前かがみで囁いてくる。
「ルル、俺が話をしてもいいか?」
「あ、ああ。 何か考えがあるのか?」
「ああ、ちょっと心当たりがあってな……」
「まぁ任せるぜ。 俺もどうしようか迷っていたしな」
ライオンは俺との話を終えると、拗ねたような顔でそっぽを向いているライナの前に進み出る。
「……ライナ。 お前は何を司る?」
「……」
その言葉にライナはゆっくりと視線をライオンに合わせ、ニィと笑みを浮かべた。
「そうでしたか。 あなたは知っているのですね? 私達の事」
「そうだ。 だからこれが茶番というのも分かっている」
「そうでしょうね。 でもだからこそ貴方は私達のやり方を知っているのでしょう?」
「……司るものは?」
「秘密です」
可愛らしく意地悪っぽく微笑むライナ。
その顔は年相応の子供っぽい笑顔だ。
そして再びそっぽを向く……これ以上は答える気がない様だ。
「……ライオン。 一体何の話なんだ? お前はライナの事を知っているのか?」
いきなりの意味不明なやり取り。
みんなも『何がなんだか……』といった感じだ。
意味が分からない置いてきぼりの全員を代表して俺が尋ねた。
「ああ、そうだな。 すまない」
彫りの深い顔が険しくなる。
ライオンはライナから視線を外さずに少し下がると、
「こいつは……いや、こいつらこそが魔族の上の者達だ」
「え?」
ライオンの言葉に一瞬呆けてしまう。
(魔族? このどう見ても小さい女の子が?)
「お、おいおい、俺達が見て来た魔族がいくらあれだからって……これは変わりすぎだろ?」
「……前にも聞いただろうが、あれは下っ端。 魔族達が生み出している雑兵。 本当の魔族は俺達人間と見た目はそんなに変わらん」
「としても……」
俺は信じられないと言った顔でライナをまじまじと見つめた。
大きさはやはり子供程度、お下げの髪や顔は人間と変わらない。
角があるでもなく爪が伸びてるわけでもなく羽が生えている訳もない。
ただし、こんな姿でオルダンの首を刎ね、ライオンとゴンズ二人に渡り合っていたのは確かだった。
「まぁ……そうだよな。 普通の子供がこんなでけぇ鉈を振り回してお前達と打ち合うなんてできねぇよな」
「そう言う事だ。 見た目に騙されては……」
言いかけたライオンが止まる。
「どうした?」
「……いや、もしかしてだが……。 ライナ!」
囚われたライナに、
「お前の司る物は『虚偽』に関する事じゃないのか?」
「……ふふ。 どうでしょう? 正解です~とか違います~とか言ってほしいのですか?」
「……」
ライナはからかうように言葉を述べ、楽し気に笑みを浮かべる。
その余りにふざけた態度にライオンも反応に困っているようだ。
(そういえば……)
俺の中で疑問符が上がる。
どうしてこいつはこの状況でこんなに余裕なんだ? 確かに強くはあるが捕らえられている状態に変わりはない。
ライナをよく見るが……やはり焦りの表情などはなく、演技をしている様にも見えない。
何か……あるのか?
「もしかして……ライナは」
言いかけた俺の背後から、
「きゃぁぁ!」
鋭く甲高い女性の悲鳴が上がった!




