不審点
俺のただならぬ様子にライオンとウィルは警戒を、他の者達はライナ同様困惑している。
ユーナだけは腕を組んで静観している様だ。
「……俺の住んでいた村にも犬がいてな」
「……は?」
いきなりの話にみんなの顔が?になる。
「野生の狼とかもいるから村で放し飼いにされているのもいんだよ」
「ルルさん? 何の話を……」
ライナを手で制して話を続ける。
「で、なぜか知らねーが、俺の家の周りにあちこち穴を掘りやがってな。 何でも犬は大切な物を埋める習性があるらしい」
「……」
「結構犬って穴掘り得意らしい……ところがだ!」
俺は鋭くライナを見つめる。
ライナは俺の視線を反らすことなく見つめ返す。
「外のゾンビ犬。 俺達がここに逃げ込んだらアッサリと引いたな?」
「……」
「ここの入口は薄い板一枚。 しかも鍵もないすら式」
「……」
「俺達の後を追おうとして地面を掘る事も無くアッサリと引き下がるゾンビ犬。 それにそんなものが外をうろつく中、鍵もバリケードも無い扉」
俺は問いかける様にライナに尋ねる。
「あまりにも不自然じゃねーか?」
「……あのゾンビ犬達は地下に来ないと言うのを助かった人から教えられたのです。 鍵も……ゾンビ犬が来ないのであれば必要ないですし」
「助かった人ねぇ……」
俺の疑う声に反応したのはオルダンとノエル。
「おいおい、どうしたんだよ? この子は俺達を助けてくれたんだぜ?」
「そうよ? こんな小さい子が命懸けで私達のことを助けてくれたのに、貴方なんてことを……」
二人からの非難の声に……声が被さる。
「クックックッ……ほんとにお前達は甘ちゃんだな? 脳味噌入ってんのか?」
ユーナが含み笑いを漏らしつつ馬鹿にしたような顔を向けている。
「な、なによ! いきなり出てきて馬鹿にすんじゃないわよ!」
「お前達、あんまりにも人を信じ過ぎだろう? 会ってまだ一日も経ってないんだ」
「時間なんて! それに私達を助けれくれた人よ?」
「それは否定はしない、事実だからな。 それがどの様な形でもたらされたにしてもな」
ユーナはライナに向き直ると、
「この先、安全に出られる出口があるんだよな?」
「……はい、そうです」
「じゃあなぜ……お前はそこから逃げなかった?」
「……」
「この村は廃墟状態、ゾンビ犬は彷徨き安全とは言い難い。 なのになぜここに残っている?」
「それは……間違ってこの村を訪れた人を助ける為で……」
俺が聞いても流石にそれは無理があるだろ……それなら村への道中に注意看板でも建てたほうがよっぽど良いしな。
そんなライナに畳み掛けるようにユーナが問い詰めていく。
「更にここのランプ。 天井についているがお前の身長じゃ届かないよな? どうやって点けたり油を足すんだ?」
「そ、それは……」
ライナが少し焦ったような顔を見せ……思い出した様に「踏み台が有りますから」と答える。
「……ここに残って居るってことは毎日しているはずだよな? やけに返事に詰まるな」
「あなたがそんなに圧をかけるからです!」
ライナも怒ったような顔を見せ、
「一体何なんですか!? 私はただ貴方達を助けたいだけなのに!」
「ごめん、ライナちゃん。 こいつちょっと不躾で……」
「じゃあ最後の質問だ」
なだめるオルダンに構わずユーナが話を進める。
「おい! ユーナ!」
「これが最後だ。 ここで生活しているんだよな? 飲み水はあの水瓶から飲んでいるのか?」
「……」
ライナはユーナを睨みつけたまま返事をしない。
「これが最後だ。 もし俺が間違っていたら土下座してやる」
「……そうよ。 そこの木箱に食料品、水は水瓶から……水は定期的に変えているわ。 これで文句ないでしょ!」
「ああ……文句はねえ。 だが……」
ユーナが水瓶を蹴飛ばした!
水瓶が倒れ中から水が溢れて床を濡らしていく。
「な、なにを!」
「これでもこの水を飲んでるって言い切るか?」
ユーナがこぼれた水を……いや、その水溜りの中にあるものを指す。
(あれ……ネズミの死骸か)
「そ、そんな……」
「お前はネズミの死骸が入った水を飲むのか?」
ユーナの嘲笑うかのような言葉にライナは顔を伏せる。
「ラ、ライナちゃん?」
オロオロするオルダンに、顔を青ざめさせるノエル。
ライナは黙り込んで顔を伏せたまま後を向いた。
小さな背中を向け、その肩を細かく震わせている。
「色々説明をして……」
言葉を続けたユーナだが、その言葉が途切れる。
ユーナだけではない……俺達の誰もが目の前で起こった事に動きを止めた。
唯一ゴンズだけがその名前を呟く。
「オルダン……」
ライナの一番近くにいたオルダン。
その首から上がゴロリと地面に転がり落ちると、赤い噴水が天井まで湧き上がった……。




