村に着いて
「っ……」
「これは……」
「……」
村に辿り着いた俺達はその状況に思わず立ちすくんでしまった。
遠目には普通に見えた村。
しかし近づくにつれ、その惨状がはっきりと見て取れた。
木材や石材を組み併せて作られた家。
藁ぶきの馬小屋や物置。
荷車や樽や箱などと言ったもの。
その全てが原型をとどめておらず、至る所に赤黒く残る血痕が乾いて跡を残している。
「……魔物かしら?」
「いや違うな」
ノエルの呟きをウィルが即否定する。
「魔物なら食い散らかした跡があるはずだ。 しかし遺体や肉片はおろか服の切れ端すら残っていない」
「確かにな。 これはゾンビ化したと見るべきだな」
ウィルの言葉に賛同すると、すっごい嬉しそうな目を向けられる。
いや、正しいと思ったから賛同したわけで、お前だからじゃないからな?
「ってことはゾンビがいるって事か?」
警戒を強めるオルダンだが、それに対しライオンが首を横に振る。
「いや、そうとも限らん。 あいつらは人を求めて移動するからな……すでにいない可能性もある」
「なるほどな……しかしどちらにしろ長居は無用そうだな。 こんな状況じゃ休むどころじゃなさそうだ」
オルダンの意見には賛成だな……まともな家は残っていなそうだし。
「仕方ねえな。 依頼主、次はどこにむかうんだ?」
ユーナが俺の手にある地図を指しながら訊いてくる。
っていうか、俺の呼び方が「依頼主サマ」から「依頼主」に変わったな、こいつ。
まぁ、どっちでもいいけどな。
「しょうがねぇか……ちょっと待て、今地図を」
言って地図を開こうとした時……タッタッタッタと軽快な足音を立てて何かが近付いて来るのが聞こえた。
全員弾かれたようにそちらに目を向け、前衛達は武器の柄に手を添えている。
崩れ落ちた家の屋根、その陰からひょこっと顔を出してこちらを見つめる何か。
「……ってなんだ。 犬じゃねーか!」
「驚かせやがって……」
とオルダンがぼやき、他の面々も武器から手を離す。
確かに犬だ……犬なんだが……あの目はどこかで……
俺だけは犬から目を逸らさない……ヒョコっともう一匹同じ様な犬が顔を出す。
家族だろうか? しかし……そいつの目も……目?
「違う……瞳だ」
犬をじっと見続けていた俺はぼそっと言葉を漏らす。
「あ? どうしたんだよ?」
地図を見ていたユーナが俺の言葉に反応して顔を上げる。
あの瞳を俺はよく知っている。
あの濁った瞳は……俺が今まで倒してきたゾンビと同じ瞳。
俺は犬達を見ながら、静かに……極力刺激しない様に小さく鋭く声を出す。
「全員、武器構えろ……来るぞ」
俺の視線の先では……犬の数が5、6匹と増えていく。
ただならぬ俺の言葉にウィルやライオンが剣を抜く。
その鞘走りの音が聞こえたのか……犬達が口を吊り上げ牙を見せ唸りだした。
ガルルル……グルルル……
四方八方から……それもかなりの数の唸り声が聞こえ始めた。
(チッ……こいつら犬のくせに!)
「囲まれてるな、全員そこの壁によって半円陣を組むぞ」
ライオンの言葉に従い俺達魔術師を囲むように前衛が防衛線を作る。それと同時に、
ガァウ!!
ガァァァ!!
あちこちの影から犬達が飛び出して来た!!
ライオンが言ったように包囲網を作っていたらしい。
犬種が違えどみんな同じ様な瞳をしている。
しかしどの犬も腸を引きずっていたり、尻尾が千切れていたり、あちこち体が欠損しているものばかりだった。
ライオン、ウィル、ノエル、ゴンズの刃が唸り、襲い掛かってきた犬を両断する。
しかし犬達は、素早い動きについて行けないゴンズに狙いを定め始めたようで、ゴンズを中心に襲い掛かってきた。
「ぬお!」
ゴンズの戦斧が犬三匹に迫るが、二匹がそれをひらりと躱す。
躱し損ねた一匹は引きちぎられる様に体が裂けた。
しかし、その間にも別な犬がゴンズの足に噛みつく!
その犬の脳天にドス!っと矢が突き刺さった。
「ゴンズ、おめぇ年取ったんじゃねーのか?」
「そりゃ年取るさ、お前こそさっさと仕事してくれ」
「分かってるって……これで」
オルダンとゴンズが軽口をたたき合いつつ、オルダンが手にした何かを犬達の中心の投げつける!
ガラスの割れる音と共に、ゴンズに走り寄ろうとしていた犬達が足を滑らせて地面を転がった。
「そらよ!」
そこに火矢が射られる!!
転んだ犬達が炎に包まれその場でのたうち回った。
「なるほど、油か……」
しかしそれにしてはよく転ぶ……そう思った俺だが、次の言葉で納得する。
「まぁな、ただし特注だ。 多数戦闘用に調合準備したものだな。 結構高いんだから経費で頼むぜ」
「心配するな。 お代は王国持ちだ」
……だよな? 俺金あんまりねーからな?
「あ、あの! 早く! こっちです!!」
いきなり場違いな女の子の声が響き渡る。
犬達と交戦しつつもそちらに目を向けると……少し離れた所にある崩れた家、そこの床下が開き、女の子が顔を覗かせていた。
どうやら地下室の様だ。
「早くこちらへ! ここなら安全です!!」
「おっしゃ! 助かったぜ!!」
そう言いながらオルダンがいの一番に駆けていく。
「もう! さっさと行かないでよ!」
ノエルが倒れたゾンビ犬に止めを刺しながら叫ぶ。
「ライオン、リリ! すまん、道を頼む!」
「任せろ!」
「あいッス!」
女の子の場所までライオンとリリが道を切り開き、ウィルとノエルが両脇を固め、ゴンズが殿を務める。
「早く!」
女の子が入り口を大きく開き、私達は地下の穴に飛び込むように入っていく!
「ゴンズ殿、先に!」
入り口のところでライオンとリリが残って殿のゴンズを待つ。
ゴンズは犬に噛みつかれながらも入り口まで辿り着いた!
「フン!」
ライオンがゴンズに噛みついたままのゾンビ犬を斬り捨てる!
「すまねぇな!」
あちこち噛まれ傷だらけになりつつもゴンズが中に飛び込むと、リリ、ライオンと続けて飛び込み蓋が閉められた。




